今のようにインターネットから情報が溢れている時代ではない。私がMLBに興味を持った1970年代前半、MLBに関する情報収集は専らスポーツ紙や専門誌に頼るしかなかった。
 中学生の頃、MLBからやってきた2人のビッグネームに心を躍らせた。ひとりは元太平洋クラブのフランク・ハワード、そしてもうひとりが元ヤクルトのジョー・ペピトーンだ。結論から先に言うと、この2人、とんだ食わせ者だった。
 まずはハワード。セネタース(現レンジャーズ)時代、2度ホームラン王に輝いている大物で、MLB通算382本塁打。彼の来日を記念して地元・福岡のラジオ局はリスナーサービスとしてハワードのホームラン数を予想するクイズを実施した。

 ところが、あろうことか正解は0本。企画はボツに。ハワードはたった1試合に出場しただけで退団した。ヒザが悪く、とてもプレーできるような状態ではなかったのだ。いつだったか、獲得交渉にあたった当時の球団社長・坂井保之から舞台裏を聞いた。「半月板が悪くてヒザがガクガクだった。でも安い買い物だったから、ウチは損はしなかった」。これが“巨砲”転じて“虚砲”の顛末である。

 しかし“虚砲”ということなら、こちらの方が、はるかにピタッとくる。73年にヤクルトでプレーしたペピトーンだ。ヤンキース時代、あのミッキー・マントルやロジャー・マリスとクリーンアップを打ったほどの強打者で守備にも定評があった。

 日本デビューは鮮烈だった。巨人戦でいきなり新浦寿夫から決勝タイムリーを放ち、お立ち台で自慢の長髪をなびかせた。だが目立った活躍はこれだけ。その後は練習はスッポかすわ、無断で帰国するわとやりたい放題。絵に描いたような“害人”だった。

 MLB通算434本塁打のアンドルー・ジョーンズの東北楽天入りが決まった。待ちわびた大物助っ人だ。しかし、この5年間の通算打率は2割1分とパッとせず、「視力が落ちているのではないか」と指摘する声もある。MLBで5年間にわたって対戦した吉井理人は「典型的なハイボールヒッター。当たれば飛ぶが低めの変化球の見極めはよくなかった」と語っていた。

 期待が大きければ大きいほど落胆も大きくなる。東北のファンは復興を告げる狼煙のような豪快な一発を待っている。

<この原稿は12年12月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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