今オフ、メジャーリーグに再挑戦する中島裕之(埼玉西武)の後釜として期待されているのが、ドラフト3位で指名された金子侑司だ。50メートル5秒7の俊足と強肩の持ち主で、バットコントロールにも定評がある。まさに“走攻守三拍子そろった”プレーヤーだ。球団からの期待の声も大きい金子に現在の心境、そして野球観を訊いた。
―― どんな気持ちでドラフト当日を迎えたのか。
金子: 前日までは思ったほど緊張することなく、冷静にいることができていました。でも、当日になってドラフト会議の2時間前くらいからはさすがに緊張していましたね。

―― 埼玉西武から3位指名について。
金子: 「よかったぁ」というひと言に尽きます。今年は春のオープン戦では調子が良く、自信をもってリーグ戦に臨みました。ところが、リーグ戦に入った途端に自分のスイングができず、ドラフトもダメかもしれないと思ったこともありました。でも、監督が「スカウトは結果だけを見ているわけではない」と励ましてくれて……。とにかく指名してもらって、ホッとしています。

―― どんなところを評価されたのか。
金子: やっぱり一番は足かなと思っています。走塁もそうですが、守備範囲の広さも評価していただいたのかなと。打撃に関しては「リストが強いから、まだまだ伸びる」と言っていただきました。

―― 現在の心境は?
金子: 周囲から「おめでとう」と言われる度に「あぁ、本当にプロになるんだなぁ」という実感が徐々に湧いてきていますね。今は楽しみな気持ちと不安な気持ち、割合としては7:3くらいです。

 モットーは“勇気”をもって走ること

 最大の武器は、足ということは言うまでもない。高校時代までは普通に走れば、ほとんど刺されることはなかったという金子だが、強肩ばかりのキャッチャーがズラリと揃う関西六大学リーグでは、アウトになることも少なくなかったという。しかし、だからこそ金子は走塁に対して考え、工夫を凝らすようになった。それが進化へとつながったのだ。

―― 走塁について重視していることは?
金子: 単に足が速いというだけではダメだと思っています。結局は、ベースランニングの中での勝負ですので、細かい技術が必要です。でも、何よりも走る“勇気”が一番大事ですね。走塁って紙一重だと思うんです。セーフになれば「好走」と言われますが、アウトになれば「暴走」とも言われかねませんから。でも、結果を恐れて走れずに後悔するよりも、自分の足を信じてスタートを切る勇気を大事にしています。

―― 大学入学後、変化したことは?
金子: 足が速くなったこともありますが、スタートについていろいろと工夫するようになりました。というのも、高校時代はあまりアウトになったことがなかったのですが、大学に入って強肩のキャッチャーに刺されることも多かったんです。それで「普通に走っていてもダメだな」ということに気づいて、自分でいろいろと考えるようになりました。

―― 具体的には?
金子: 例えば、リードしている時には右足を左足よりも半歩引くようにしました。そうすると、スタートの時に一歩目の左足が出やすいんです。これは練習の中で自分で考え出しました。ターンダッシュを繰り返しながら、どうすれば速いスタートが切れるかをいろいろと試したんです。

―― プロの選手を参考にしたことは?
金子: いろいろな選手の走塁を見ましたが、どの選手にも共通して言えることはスタートする時に上体が浮かないことですね。つまり、時間のロスがないんです。今はそのことを一番に意識して走っています。

 目指すは打って走れる中距離打者

 一方、打撃の方は昨年、春夏ともに打率3割を超えるも、今年は2割台前半にとどまり、「まだまだ課題が多い」という金子。それでも大学最後の試合となった今秋の最終戦ではホームランを含む4打数3安打と猛打をふるい、有終の美を飾った。「理想は糸井嘉男選手」という金子にバッティングへのこだわりを訊いた。

―― 理想とするバッター像は?
金子: 北海道日本ハムの糸井選手です。構えた瞬間から、かっこいいんですよね。身体つきもすごくバランスが整っていますし、何よりもスイングが速い。鋭い打球を飛ばしながら、自らも俊足を飛ばす姿は見ていて憧れます。

―― バッティングで心掛けていることは?
金子: タイミングを合わせることを一番に意識しています。あとはしっかりと振り切ること。というのも、足があるからといって、当てにいって内野安打というようなタイプにはなりたくない。しっかりとバットを振って、右中間や左中間を抜く打球が打てるような中距離バッターを目指しているので、しっかりとスイングすることを心掛けています。

―― 昨年には日米大学野球にも出場している。そこで得たものとは?
金子 キャプテンだった東洋大の鈴木大地選手(現・千葉ロッテ)から野球に対しての姿勢を学びました。打席に入る前の球審への挨拶も、鈴木選手はすごくきれいなんです。

―― 1、2年の時にも代表候補の合宿に参加している。印象に残っていることは?
金子: 当時ドラフト上位候補だった東海大学の伊志嶺翔大選手(現・ロッテ)がいたんです。“大学球界No.1”と言われていましたし、自分の足なんか遠く及ばないと思っていました。実際に近くで伊志嶺選手の走りを見たら、体は大きいし、すごく力強さを感じました。でも、いざタイムを測ってみたら、伊志嶺選手と同タイムだったらしいんです。「足ではやっていけるのかもしれない」と自信になりましたね。

 京都生まれの京都育ちである金子。生粋の関西人が初めて地元を離れる。旅立ちの日はもうすぐそこまで来ている。生き馬の目を抜くような厳しいプロの世界。しかし、金子はこれからも自分の足を信じ、勇気をもって駆け抜けていくことだろう。その足で西武ドームのファンを魅了する日もそう遠くはないはずだ。

金子侑司(かねこ・ゆうじ)
1990年4月24日、京都府生まれ。小学1年からやっていた水泳、ラグビーに加えて小学5年から野球を始める。中学時代は硬式野球チーム「京都ライオンズ」に所属。立命館宇治高校に進学し、3年時の夏には府大会決勝に進出した。立命館大学では1年春からベンチ入り。1年秋、2年春には日本代表候補の合宿に参加し、3年夏の日米大学野球選手権では初めて日の丸を背負う。50メートル5秒8の俊足をいかした走塁が武器。178センチ、67キロ。右投、両打。

(聞き手・斎藤寿子)