チャールトン・ヘストン主演の「パニック・イン・スタジアム」はスポーツ愛好家にとっては“白昼の悪夢”とでも呼ぶべき後味のよろしくない映画である。
 とある日曜日。場所はロサンゼルスのメモリアル・コロシアム。10万人の大観衆をのみ込んだNFLのラムズ対コルツの試合中にひとりのテロリストが侵入する。ライフルを乱射するテロリスト。パニックと化すスタジアム。無慈悲な銃口の前に、人々は為す術がない。阿鼻叫喚の地獄絵図とは、このことだ。
 月曜日のボストン。マラソンコースが爆音とともに血塗られた。2度にわたるけたたましい爆音。立ち込める白煙。倒れ込むランナー。逃げまどう観衆。報道によると、この爆破テロで140人を超える死傷者が出ているという。

 スポーツにおけるテロと言えば、まず1972年、ミュンヘン五輪でのパレスチナ武装組織「黒い9月」によるイスラエル選手村襲撃事件が忌わしい思い出として頭に浮かぶ。同国のアスリート11名が犠牲になった。ただちにイスラエル政府は報復作戦を開始し、空爆などで多くの犠牲者が出た。

 身近に恐怖を感じたのは96年アトランタ五輪開催中の爆破テロだ。五輪記念公園が狙われ、100人を超す死傷者が出た。「次もある」と言われていたので私も取材中、気が気ではなかった。

 ほとんど戒厳令下の五輪取材も経験した。02年のソルトレイクシティ冬季五輪。東海岸の同時多発テロの翌年に開催された五輪ということもあり、街中がピリピリしていた。メディアバスの窓には黒っぽい網が張られ、外からは見えないようになっていた。運転手は「狙撃されないためだ」と答えた。メディアセンターに入るには数カ所の検問所でチェックを受けなければならず、時限爆弾に転用される恐れがあるとの理由で商売道具の携帯電話まで危うく分解されそうになった。止むを得ない措置だったとはいえ、“平和の祭典”の趣はどこにもなかった。

 それにしても、よもやマラソンコースがテロの舞台になろうとは……。「パニック・イン・スタジアム」は銀幕での出来事だが、「パニック・オン・ロード」は悲しいかな、直視しなければならない21世紀初頭の現実である。国際的注目度を増すボストンをはじめとするメジャー6。テロ防止の妙案が思いつかないのが悔しい。

<この原稿は13年4月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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