BSデジタル放送「BS11デジタル」を運営する日本BS放送株式会社は14日、都内で会見を開き、野球独立リーグのBCリーグと四国・九州アイランドリーグの試合放送をスタートすることを発表した。独立リーグの公式戦はこれまで地元ローカル局やケーブルテレビ(CATV)局で放送されたことはあるが、全国放送は初めて。第1回目は18日(日)のBCリーグ・新潟アルビレックスBC−福井ミラクルエレファンツ戦(長岡)が生中継される。
(写真:会見に臨んだ日本BS放送株式会社・山科社長(右から3番目)と両リーグの関係者)
「BS11デジタル」は昨年12月より放送をスタート。ニュースはもちろん、ドラマ・映画、アニメなど独自の番組を提供している。BSデジタル放送を受信できる環境にあれば無料で視聴可能だ。プロ野球マスターズリーグやバスケットのbjリーグの3D(立体)映像を放送するなど、既存のテレビ局とは異なる新たな試みを行っている。

 今回の全国放送実施は「新しいテレビ局として新しい試みで独自性を発揮したい」(日本BS放送株式会社・山科誠社長)と、「BS11デジタル」が新潟県長岡市、三条市などをエリアとするCATV局「エヌ・シィ・ティ」とタッグを組むことで実現した。「エヌ・シィ・ティ」が主に試合映像を撮影し、「BS11デジタル」と共同制作の形で同時中継する。

 BCリーグの運営会社である株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティングの村山哲二代表取締役は、「全国にリーグの情報を発信できることは夢のよう。このリーグを立ち上げる際には“2000人、3000人も集める野球事業なんてできっこない”と言われた。それが昨年、4球団でリーグが立ち上がり、2年目の今年は6球団になった。多くの感動、多くの楽しみ、そして多くの選手たちの生き様を全国の皆様に伝えていきたい」と喜びを語った。
 
 また放送開始にあたり、東京ヤクルトスワローズ前監督の古田敦也氏から「僕も独立リーグを応援しています。6月1日には石川−富山戦(金沢)にかけつけて、応援したいと思っています」とのメッセージが寄せられた。

 現在、放送が決定しているのは「エヌ・シィ・ティ」が中継を行う新潟戦4試合のみだが、「BS11デジタル」では、独立リーグの公式戦を放送している各ケーブルテレビ局と協力しつつ、アイランドリーグ、BCリーグで月1回程度の放送を見込んでいる。また、両リーグのチャンピオンシップや、独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップの放映も行う予定だ。

 現在、放送が決まっているカードは以下の通り。

5月18日(日) 新潟−福井 14〜17時
5月25日(日) 新潟−石川 14〜17時
9月14日(日) 新潟−福井 14〜17時
9月28日(日) 新潟−福井 14〜17時
※球場は長岡市悠久山球場、試合開始は13時

 成否を握る“地域密着度”

 戦後の日本において、テレビと野球は共存共栄の形をとってきたと言えるだろう。テレビは長嶋茂雄、王貞治らスーパースターの揃った巨人戦を全国中継し、高い視聴率を稼いできた。一方の球界、特にセ・リーグは巨人戦の放映権料をあてにした球団経営を行ってきた。

 21世紀に入った現在、その関係は崩壊した。巨人戦の平均視聴率は10%を割り、全国放送のコンテンツとしては役割を終えつつある。そもそもBS、CS放送の普及で多チャンネル化が進行し、テレビ業界自体が高視聴率をマークすることが難しい環境を迎えている。一極集中型ではなく、いかにオリジナリティを出すか。テレビも野球もそこが問われている。

 パ・リーグで北海道日本ハム、東北楽天、千葉ロッテ、福岡ソフトバンクなど、地域に根ざした活動を行っているチームが集客で成功を収めているように、テレビ業界も地域に目を向けることは独自色を出すためのひとつの方策だ。その点で、独立リーグという地域密着のスポーツは可能性を秘めたコンテンツになりうる。全国放送を行うことで、地元のみならず、全国の出身者や野球ファンがリーグの試合を楽しめる。将来的にNPB、MLBで活躍する選手が出てくれば、貴重な映像資料にもなる。

 両リーグにとって、全国的な認知度を高める上でも放送開始はプラス材料だ。認知度が高まれば、新たなスポンサー獲得に一役買う。「地元のCATV局よりは高い額」(アイランドリーグ関係者)の放映権収入が入ることで、経営基盤の安定にもつながる。アイランドリーグ・香川の西田真二監督(写真)は「選手は注目されてナンボ。こういう野球、選手がいるということを全国の知っていただけることはありがたい。選手の獲得、育成にも力が入る」と現場での効果を語る。

 さらに今回の試みは地域密着のCATV局と全国波のメディアがいかに融合できるかという、テレビ業界にとって大きな実験台になっている。両者の連携によるメリットは少なくない。CATV局側にすれば、自分たちの撮影した映像が全国に発信されることで、価値の向上につながる。実際、「エヌ・シィ・ティ」には「BCリーグの放送はないのか?」との声が昨年のBCリーグ開幕時より寄せられていたという。「BS11デジタル」と共同制作を行うことで、それが可能になった。全国波のノウハウを番組づくりに活かせる点も大きい。
 一方、全国波としても、各地域のCATV局とコラボレーションすることで、制作費のコストダウンがはかれる。自社で中継機材等を1から持ち込まなくても、放送できるからだ。

 とはいえ、ビジネスモデルとしての成否を決めるのはこれから。「まずいいコンテンツを作り続けることで、媒体としての価値をあげることが第一。先行投資の部分は多い」と日本BS放送の秋田愛一郎営業局長は語る。BSデジタル放送は4月末の時点で全国で3700万台の受信機があるとはいえ、まだ通常の地上波に比べると認知度、広告収入の面では及ばない。

「ナショナルクライアントの協力が得られれば、それに越したことはないが、ローカルスポンサーをターゲットにすることになるでしょう」
 日本BS放送の鈴木哲夫報道制作局長は営業面でも地域密着がカギを握ると考えている。全国波では、これまでは広告代理店を通じ、全国規模の大手スポンサーを獲得することを主眼に置いてやってきた。それは今後も大枠では変わらないだろうが、BCリーグ、アイランドリーグの放送に合わせて、各地域の企業の協賛が得られれば、新たな営業スキームが生まれることになる。

 もちろん、番組として「いいコンテンツ」であり続けるためには、両リーグの真価も問われる。NPBやメジャーの野球に見慣れた野球ファンをいかにひきつけるか。たとえレベル的には劣っても、各選手のプレーにたいするひたむきさや、スピード感あふれる試合展開が求められる。

 放送されるのは単にグラウンドの中の選手だけではない。スタジアムの雰囲気やスタンドの風景も全国に映し出される。せっかくの全国放送でも、スタンドがガラガラというのであれば、視聴者は興味をそそられないだろう。一層の集客努力はもちろん、見ている側が楽しくなるような地域色あふれる球場イベントや応援を工夫したい。

「独立リーグを一緒に盛り上げていきたい。課題はあるが一歩進まないと何も始まらない」(鈴木報道制作局長)
 BSデジタル局、CATV局、そして独立リーグ――三者が“Win−Win”の関係を築くためには、それぞれの“地域密着度”がポイントになりそうだ。

(石田洋之)