何やら39年前のムードと似てきた。ひょっとすると、ひょっとするのではないか…。
 開幕からカープが快調に飛ばしている。セ・パの交流戦がスタートして今年で10年目だが、首位で交流戦を迎えたのは初めてのことだ。「なぁに、どうせカープは鯉のぼりの季節までだよ」と冷ややかだったネット裏の視線も、最近では変化が見られるようになってきた。
 先日、巨人戦を解説していたカープOBの池谷公二郎が「初優勝の時の雰囲気を感じさせます」と語っていたが、全く同感である。

 1975年のリーグ初優勝は球団創設26年目だった。もし今年、カープがペナントレースを制すれば23年ぶりということになる。共通するのは、ともに生え抜きの優勝経験者がいないということだ。75年は当然として、前田智徳が昨年限りで引退したことにより、今年もゼロだ。

 ネガティブに考えれば、これは大きな懸念材料だが「恐いもの知らずほど恐いものはない」という言葉もあるように、プレッシャーを感じることなく勢いに任せて、そのまま突っ走ってしまう可能性も否定できない。

 シーズン早々に監督が退場になったことも共通点だ。さる4月22日、神宮での東京ヤクルト戦で野村謙二郎は二塁塁審に抗議し、退場処分を受けた。カープの攻撃で、二塁封殺を狙った三塁手の送球より、一塁走者の足の方が早くベースに入ったように映ったが、判定はアウト。野村は帽子を叩きつけるほどの剣幕だった。「沈みかけていたチームに火がついた」とカープの丸佳浩は語気を強めた。

 75年にはジョー・ルーツの没収試合未遂事件があった。4月 27日、甲子園での阪神戦。ストライク・ボールの判定に激怒したルーツは塁審の胸を小突いて退場処分を受けた。さらには事態の収拾にフロントが介入したことを越権行為とみなし、この試合を最後に監督を辞任し、帰国する。

 だがルーツの進退を懸けての抗議はアンダードッグと化していたチームを一変させる。夜のダブルヘッダー第2戦こそサヨナラ負けを喫したが、次の試合から6連勝。ここからカープは波に乗ったのである。

 75年が空前の「赤ヘル旋風」なら、今年は「カープ女子」。球場内外で世間に話題を提供している点でも一致している。

<この原稿は14年5月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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