開幕から2カ月経ったプロ野球は、いよいよ20日からは交流戦に突入します。思えば、昨季は交流戦で勢いをつけた北海道日本ハム(交流戦1位)、巨人(同2位)がそれぞれリーグ優勝をしましたね。果たして、今季はどのような戦いが繰り広げられるのでしょうか。
(写真:開幕の巨人戦で先発が予想されるロッテの高卒ルーキー・唐川)
 交流戦も今季で4年目を迎えました。12球団ともに「交流戦だからあぁしよう、こうしよう」などと、特別なことは考えていないでしょう。自分たちの野球を交流戦でも存分に出したい。そういう気持ちが強いと思います。

 レオ躍進の秘訣はデーブ大久保!

 現在、セ・リーグでは阪神と中日が、パ・リーグでは埼玉西武が好調です。3チームともに、どっしりとした安定感がありますから、交流戦に入っても大崩れすることはないでしょう。

 特に西武は投打ともに、これといった穴は見当たりません。打線はブラゼル、G.G.佐藤を筆頭に長打力があり、12球団ダントツトップの63本塁打を誇っています。また、打率.310、10本塁打、19打点のボカチカが9番に入り、打線に厚みが出ていることも大きいですね。1番から切れ目なくつないでいけるので、相手投手に休む暇を全く与えません。
 ここまで2位以下を大きく突き放し(18日現在、2位・日本ハムと5ゲーム差)、絶好調。昨季はリーグ5位と26年ぶりのBクラスに転落したチームとはとても思えません。

 では、好調の理由は何なのでしょうか。一つは今季からバッティングコーチに就任した“デーブ”こと大久保博元の存在です。彼の指導は実にわかりやすい。例えば趣味でゴルフをやっている選手には、「(ゴルフで)ショット打つ時にはこうするだろう」と、内角球への腕のたたみ方や下半身の体重移動などをゴルフに例えて説明するのです。

 言葉や表現に具体性があるので、選手は理解しやすいですし、吸収するのも早い。こうした指導の明確さが、バッターボックスでの思い切りのよさにつながっているのです。加えて結果として出ていますから、大久保コーチをはじめ、首脳陣と選手とが強い信頼関係を築けています。

 既に貯金は14もありますから、交流戦は「勝率5割でいい」と楽な気持ちで挑むことができる点も大きいですね。逆にそれが気の緩みになってしまってはいけませんが、今の西武にはそうした心配は無用でしょう。主力にケガ人が出れば別ですが、交流戦の優勝候補筆頭にあげたいと思います。

 この西武と交流戦の優勝争いが予想されるのが、セ・リーグの2強、阪神と中日です。現在リーグ首位の座をキープしている阪神は、昨季はコマ不足だった先発の充実により、投手陣が安定しています。本塁打こそ12球団一最少の19本ながら、首位でいられるのは失点はリーグ最少、防御率も投手王国の中日に次ぐ好成績を残しているからに他なりません。

 福原忍に続いてアッチソンまでがケガで戦線離脱してしまいましたが、僕はそれほど影響はないと思っています。なぜなら渡辺亮、江草仁貴、能見篤史、阿部健太と中継ぎ陣が揃っていますし、7回からはJFK(ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)がどっしりと構えているからです。交流戦は1カードが2連戦ですから、少ない先発陣で十分に戦っていけるでしょう。

 中日はエースの川上憲伸、ベテランの山本昌にようやくエンジンがかかり、本来の強さを発揮してきましたね。強いチームには必ず核となる選手がいるものですが、中日にとってはやはりこの2投手が左右の核ですから、彼らの復活は大きいでしょう。

 ただ、森野将彦が左ふくらはぎの肉離れで、離脱したのは非常に痛い。森野は攻守ともに安定しており、内外野問わず守ることができるユーティリティプレーヤー。選手層の厚い中日とはいえ、彼の穴を100%埋める選手はそうはいません。

 また、打線のバランスを考えても、李炳圭以外は全員右打者ですから、勝負強さのある左の森野が抜けた穴は決して小さくはありません。彼を欠いた状態で交流戦をどう戦っていくのか。落合博満監督の采配に注目したいですね。

 開幕前は優勝候補の筆頭に挙げられていた巨人ですが、二岡智宏、上原浩治、高橋由伸のケガや、高橋尚成、内海哲也、小笠原道大などの不調が重なり、苦しい状態が続いています。その中で20勝23敗で4位(18日現在)という成績はよく踏ん張っているといってもいいでしょう。

 ただし、これ以上、借金を増やすことは許されません。交流戦を負け越さずに乗り切り、後半戦に望みをつなげること。そのためにはプレーの確実性を高めることが必要です。単に打つ、打たないではなく、大事なところでの送りバントや走塁などをきっちり決める。こうした細かいプレーの一つ一つが勝ちにつながっていくのです。

 それができているのが西武です。一見、63本という本塁打数ばかりが目立ちますが、送りバントや走塁でのミスがないからこそ、本塁打が勝ちにつながっているわけです。逆転勝ちが多いのも、丁寧な野球をやっている何よりの証です。

 主砲のラミレスが好調なだけに、巨人も細かいミスをなくすことで、勝ち星は増えてくるでしょう。主力を欠いている今だからこそ、一人ひとりが質の高いプレーを見せてほしいと思います。

 ルーキー唐川、最大の長所とは?

 さて、交流戦での一番の楽しみと言えば、ダルビッシュ有(日本ハム)や田中将大(東北楽天)など今、まさに旬の投手がセ・リーグの打者を相手にどういうピッチングを見せてくれるのか、ということですね。

 なかでも今、最も注目されているのが高卒ルーキーの唐川侑己(千葉ロッテ)。唐川はフォームのバランスがよく、ボールを長く持てるので、打者は球速以上にスピードを感じていると思います。変化球でもカウントが取れるために、的が絞りにくいのでしょう。デビューから無傷の3勝を挙げ、防御率1.13と好成績を挙げています。

 特筆すべきは四球の少なさです。3試合(24イニング)を投げて、四球はデビュー戦で与えた一つのみ。登板2試合目となった3日の西武戦では、無四球完投勝利を収めました。コントロールのよさだけでなく、精神面においても素晴しい投手ですね。今や日本球界のエースに成長したダルビッシュと比べても、なんら遜色ありません。
 交流戦では、まず初戦の巨人戦で先発登板する予定です。久々の生え抜きスターとして人気上昇中の高卒2年目、坂本勇人との10代対決にもぜひ注目したいですね。

 現在、好調なチームは後半戦に向けての弾みに、そして不調に陥っているチームは巻き返しを図るチャンスに、と各チームの思惑がぶつかり合う交流戦。大いに盛り上がることを期待したいと思います!

橋本清(はしもと・きよし)プロフィール>
 1969年5月22日、大阪府出身。PL学園時代は投手として春夏連覇に貢献。87年のドラフト1位で巨人に入団。93年にはセットアッパーとしてチーム最多の52試合に登板し、94年はストッパーの石毛博史とともに“勝利の方程式”として不動の地位を築いた。01年に福岡ダイエー(現・福岡ソフトバンク)に移籍し、同年限りで現役引退。現役時代の通算成績は134試合、9勝12敗8セーブ、防御率3.17。現在は野球解説者、コメンテーター、ライターとして各メディアで幅広く活躍している。