盗塁王というと広瀬叔功や柴田勲、福本豊や赤星憲広に代表される俊足のリードオフマンの独占物とのイメージが強い。だが、たまにプロパーとは呼べない選手が、このタイトルをさらっていくことがある。
 たとえば1976年の衣笠祥雄がそうだった。衣笠といえば山本浩二と並ぶ赤ヘルの主砲で、歴代7位タイの通算504本塁打を放っている。歴代15位となる通算437本塁打の秋山幸二も西武時代の90年、盗塁王に輝いている。

 2000年代に入ってからは千葉ロッテの主砲・井口資仁がダイエー時代の01年と03年の2度、このタイトルを手にしている。

 学生時代から俊足で鳴らした井口だが、ホームランの東都大学リーグ記録を塗り替えたほどの飛ばし屋でもある。どうすればボールを遠くへ飛ばせるか。プロでの関心はもっぱら飛距離にあり、盗塁についての興味は薄かった。

 ところが当時のコーチ島田誠のアドバイスを受けて気が変わる。「この世界、誰もが覚えている打者のタイトルは首位打者とホームラン王、打点王、そして盗塁王の4つ。オマエ、盗塁王を狙ってみないか!?」。これはバッティングにも生きた。井口は語ったものだ。「盗塁王を目指すようになって、打席に入っている打者への相手バッテリーの配球を読むようになりました。確率の高いところで走らないと成功しませんからね。これは打撃にも役立ちました」

 この年、44盗塁で盗塁王に輝いた井口は打率2割6分1厘、30本塁打、97打点と打撃3部門全てでキャリアハイをマークした。盗塁王をきっかけにして強打者への道を歩み始めたのである。

 昨季の両リーグの盗塁王も“専門職”とは言えまい。広島の丸佳浩と北海道日本ハムの陽岱鋼。29盗塁で初めてタイトルを獲得した丸は同時に初めてホームランを2ケタ台(14本)に乗せた。その余勢を駆って今では“不動の3番”である。陽も同様だ。47盗塁で戴冠。18本塁打、67打点は、いずれもキャリアハイだった。彼も今季は後半戦に入って3番を任されている。

 目下、セ・リーグの盗塁数トップは横浜DeNAの3番・梶谷隆幸。36回走って29回成功だから抜群の成功率だ。梶谷は、いずれトリプル3(打率3割以上、本塁打30本以上、盗塁30個以上)を狙える逸材。盗塁王経由強打者というパターンを踏襲できるか。

<この原稿は14年8月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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