テニスファンにとって、待ちに待った芝の季節の到来だ。
 23日、ロンドン郊外のオールイングランド・クラブでウィンブルドン選手権が開幕する。男子シングルスではロジャー・フェデラー(スイス)の6連覇をどの選手が破るのかが注目されている。昨年、決勝でフェデラーに敗れ、雪辱に燃えるラファエル・ナダル(スペイン)か。全豪でセルビア人として4大大会初優勝を果たしたノヴァーク・ジョコビッチか。それとも……。今大会も世界トップ3を中心に、激しい戦いが繰り広げられることが予想される。
 テニスプレーヤーなら誰もが憧れるウィンブルドン。この世界最高峰の大会に、日本の新星が4大大会デビューを果たす。彼の名は錦織圭。日本の男子プレーヤーとしては9年ぶりとなる4大大会ストレートインを果たした。ランキングこそ103位(23日現在)だが、日本のみならず、世界も彼には一目置いている。その注目度の高さは通常、前年優勝者や上位シード選手のみが行なう開幕前の記者会見に呼ばれたほどだ。

 錦織の名を一躍有名にしたのは、今年2月のデルレービーチ国際テニス選手権だ。予選から勝ち上がった錦織は、プロデビュー以来、初めてファイナリストとなった。決勝では世界の4位にまで上り詰めたことのあるジェームズ・ブレーク(米国)と対戦し、逆転勝ちを収めた。18歳1カ月という若さでのツアー初優勝は、日本人男子の最年少記録である。

 さらに、錦織はウィンブルドンの前哨戦であるアルトワ選手権でも、その実力を遺憾なく発揮した。3回戦の相手は世界ランキング2位のナダル。彼はこれまでクレーコートに強く、芝を苦手としてきた。実際、クレーの全仏では4連覇を成し遂げているナダルだが、この大会まで芝でのタイトルはなかった。しかし、昨年のウィンブルドンでは準優勝に輝き、芝への弱さを一気に払拭した。そのナダルを相手に、錦織は1セットを奪う金星をあげたのだ。

 では、錦織の強さとは何なのか。錦織のプレーを見てみると、一見、世界と互角に渡り合えるパワーがないように思われるが、実はそうではない。パワーを感じられないのは、余計な力みがないからだ。その証拠に、錦織のショットにナダルが差し込まれ、リターンできない場面が何度も見られた。それほどボールがバウンドしてからの伸びがいいのである。

 だが、18歳にして彼をトップの舞台へと押し上げた、最大の武器は型にはまらないプレースタイルだろう。18歳という若さながら、錦織の動き、ショットは一辺倒ではない。相手の不意を突いてネットに出てくるかと思えば、ベースラインからショートクロスを放ってみせたり、スライスで落としたり……。ナダルも一時は錦織の技の引き出しの多さに圧倒され、ペースを乱されたほどだ。

 今大会の初戦の相手はランキング53位(23日現在)のマルク・ジケル(フランス)。ランキングこそ開きがあるものの、実力的には決して勝てない相手ではない。ただ一つ懸念されるのは大会直前に痛めた腹筋の回復具合だ。それだけに、腹筋に負担がかかるサーブが勝敗のカギを握りそうだ。果たして錦織は、どのような4大大会デビューを飾るのか。松岡修造以来、久々に誕生した日本の若きホープに注目が集まる。