2日、第90回全国高校野球選手権記念大会が阪神甲子園球場で開幕する。今大会は記念大会のため、例年よりも6校多い55校が出場し、全国の頂点を目指して激突する。スター選手や突出したチームが不在の今大会は、まさにダンゴ状態。それだけに、どの高校にも優勝の可能性があり、これまで以上に熾烈な戦いが繰り広げられそうだ。
 なかでも注目カードは第1日第2試合の済美(愛媛)と智弁和歌山。全国優勝の経験をもつ名将率いる両校は、どちらも切れ目のない打線が自慢のチーム。
 智弁和歌山は今秋のドラフト上位指名が予想される主砲・坂口真規(3年)が主軸を担う。和歌山大会では準決勝まで4試合連続本塁打を放ち、大会記録を樹立。1人で12打点を叩き出した。6月に疲労骨折した右足首の回復具合が懸念されるが、不発に終わった今春の選抜での雪辱を果たしたいところだ。

 済美は突出した選手はいないものの、1番から6番まで左打者が並び、打順に関係なく4割以上の打率を誇る好打者がズラリと揃う。粘り強さもあり、相手投手にとってはまさに脅威だ。愛媛大会では全5試合で.392の打率をマーク。例年以上に仕上がりがいい智弁和歌山の投手陣をどう攻略するのか。

 逆にロースコアでの投手戦が予想されるのは第3日第3試合の浦添商(沖縄)と飯塚(福岡)だ。浦添商のエース伊波翔悟(3年)は、最速148キロを誇り、伸びのあるストレートに加え、カットボール、スライダーなどキレのある変化球をもつプロ注目の逸材だ。制球力も抜群で、低めへのボールは打者にとってはやっかいだ。

 一方、飯塚は創部45年目にして初出場を果たした新鋭だが、左腕エースの辛島航(3年)もまたプロ注目の好投手だ。最速141キロのストレートのほか、スライダー、カーブ、チェンジアップと多彩な変化球をもつ。福岡大会では防御率0.39と安定感はピカイチだ。
 両校ともに監督、選手全員が初めての大舞台に臨む。それだけに、いかに自分たちのプレーが出せるか、精神的なタフさも勝敗のカギを握りそうだ。

 そのほか、投打ともにバランスのとれた常葉菊川(静岡)と福知山成美(京都)、甲子園のマウンドを知り尽くしたエースで4番の斎藤圭祐(3年)擁する千葉経大付と、PL学園をサヨナラで倒し15年ぶりに甲子園に戻ってきた近大付(南大阪)、関東の実力校同士のガチンコ勝負となる浦和学院(埼玉)と横浜(南神奈川)など、好カードは目白押しだ。

 また、今大会は2人の名将の記録にも注目したい。1人は智弁和歌山の高嶋仁監督。春夏通算53勝を誇り、現役としては最多の記録をもつ。史上最多はPL学園中村順司元監督のもつ58勝。今大会、智弁和歌山が8年ぶりの全国制覇を達成すれば、高嶋監督がトップの座を獲得することになる。

 もう1人は常総学院(茨城)の木内幸男監督。選手の性格や才能を見抜いた、その独特な采配は“木内マジック”と呼ばれ、甲子園でもおなじみの指揮官だ。2003年の全国制覇を最後に一度は勇退したが、昨年8月、総監督から4年ぶりに監督復帰を果たした。現在、77歳の木内監督。今大会で白星を挙げれば、76歳で明徳(現明徳義塾)を甲子園に導き、1勝を挙げた故・松田昇元監督を抜くことになる。果たして、戦後最高齢での勝利は挙げられるのか。

 全国の頂点を目指して厳しい練習に耐え、地方大会を勝ち抜いてきた球児たち。そして時には笑顔で選手をリラックスさせ、時には大声を張り上げてチームを鼓舞し、甲子園に導いた勝負師たち。白球に全てを賭けた男たちの熱い夏がいよいよ幕を開ける。


 高野連、桐生一の出場認める

 7月31日、桐生第一高校(群馬)野球部員が強制わいせつ容疑で逮捕された事件で、同校の第90回全国高校野球選手権大会への出場について1日、日本高校野球連盟が全国理事会を開き、審議した。その結果、桐生一の出場を認める決定が下された。

 県予選期間中の22日には1年生男子生徒が元同級生の暴行で死亡するといういたましい事件が起こった桐生一。そのわずか1週間あまりでの不祥事に周囲からも厳しい意見が寄せられていた。その一方で、甲子園の切符を掴み取った球児たちへの同情の声もあがった。

 同校は31日に会見を開き、「大変申し訳ないことをした」としながらも学校としては出場を辞退しない方針を表明。最終的には高野連の意向に従うとしていた。
 出場が正式に認められた桐生一は、第6日の第1試合で金沢と対戦する。