11日、新日本石油ENEOSは都内で会見を開き、同社野球部の田澤純一投手がメジャーリーグに挑戦する意向であることを表明した。大久保秀昭監督によれば、挨拶程度ではあるものの現在田澤に興味を示しているのは5球団以上あるという。日本でも今年のドラフトで最大の目玉とされていた選手だけに、今後の動向が注目される。
「そうチャンスがあることではないので、挑戦してみようと思った」
 シンプルだが、田澤の口から出たこの言葉が、全てを表していると言っていいだろう。田澤は現在、22歳。来季から日本のプロ野球に入団した場合、FA権を取得できるのは早くても(海外への移籍の場合)9年後、31歳だ。ポスティングシステムもあるが、イチロー、松坂大輔、岩村明憲などメジャーの球団が高額な移籍金を支払ってまで欲しがるのは、高卒でプロ入りした若い選手がほどんどだ。しかも、入団した球団によってはポスティングにかけることも許されず、FA取得まで待たされることも十分にあり得る。それが今の日本のプロ野球の現状だ。

 それを考えれば、野球選手としてこれからがまさに旬である田澤にとっては、チャンスのある時に、少しでも早くメジャーに挑戦したいという気持ちをもつのは自然なことだろう。
 とはいえ、日本のプロ野球にとっては決して看過できない問題である。有望な選手が簡単に海外へと流出してしまえば、日本球界への影響は決して小さくはない。レベルの低下、ファン離れ……と死活問題にまで発展する話だからだ。

「本来であればまずは国内の球団に行くのが筋なのかもしれない。しかし、(国内を飛び越えてメジャーに挑戦できるような)選手が今まではいなかったのではないか。そういう意味では選ばれたものだけが得られるチャンスだと思う」
 と大久保監督。彼自身、日本のプロ野球出身者だけに、簡単に出せる答えではなかったはずだ。だが、「田澤の純粋に挑戦したいという気持ちを応援したいと思った」と言い、今年1月から繰り返して行なわれた田澤との話し合いの中で結論を下したようだ。

 会社側では、この日の午前中、既に12球団にはドラフトでの指名回避のお願いをFAXで流したという。しかし、日本の球団が「はい、そうですか」と簡単に引き下がるとは考えにくい。ドラフト会議まで約1カ月半、田澤を巡って日米の野球界がどのような動きを見せるのか。日本球界にとってメジャー流出への問題が本格化しそうだ。

田澤純一(たざわ・じゅんいち)プロフィール>
1986年6月6日、神奈川県横浜市出身。横浜商大高では1年夏からベンチ入りし、2年時には夏の甲子園に出場したが、登板機会はなかった。3年夏にはエースとして県ベスト4進出の立役者となった。卒業後、新日本石油に入社。4年目の今年はJABA東京スポニチ大会、第79回都市対抗野球大会優勝に大きく貢献した。最速156キロのストレートを武器とする右の本格派。180センチ、80キロ、右投右打。