球春到来――。2月1日、NPBの各球団は一斉にキャンプインを迎える。アイランドリーグからは今年も6選手がNPBの門をくぐり、1年目のシーズンに挑む。彼らの1年先輩にあたる6名のリーグ出身選手たちは、ルーキーイヤーをどのように過ごし、どんな思いで2年目に臨もうとしているのか? それぞれの2009年にかける意気込みを訊いてみた。

 1軍への階段 梶本達哉(オリックス)

 朗報は突然やってきた。2008年5月28日、ナゴヤドーム。ウエスタンリーグの中日戦。育成選手として開幕を迎えた梶本にとって、この日が2軍でちょうど10試合目のマウンドだった。当日は1軍がナイトゲームで中日との交流戦が予定されていた。スタンドからは1軍の首脳陣が観戦している。「アピールの場だ」。いつも以上に気合を入れて、先発のマウンドに立った。

 ランナーを出す苦しい展開ながらも、梶本は粘って5回までスコアボードに0を並べた。「これだけ投げれば充分」。1軍の首脳たちは背番号114のピッチングに納得の表情をみせた。

 ところが直後の6回、ドラゴンズ打線につかまる。3点を失い、同点に追いつかれた。ただ幸運なことに、もう首脳陣は席を立った後。「やっちゃったと思ったら、“今のは見てへんから、大丈夫や”とコーチに慰められました(笑)。しかも、“支配下登録する”と言われてビックリしましたよ」。喜びが徐々にこみあげてきた。

 直球のスピードよりも結果

 MAX149キロの速球でアイランドリーグでは最多勝のタイトルを獲得。わずか1年でNPBに巣立った。入団当初は、すぐにでも支配下登録されるつもりだった。しかし、NPBの世界は厳しかった。

「アイランドリーグはNPBに行けなくても、試合に使ってもらうことはできる。でも、NPBは周りのレベルが高い。自分との戦いであると同時に、競争に勝たないと使ってもらえない」
特に支配下選手の人数はNPBの規定により70名と決まっている。どんなに頑張っても枠に空きがなければチャンスは巡ってこない。現実問題として、当時、オリックスの支配下選手は68名。外国人の緊急補強用に通常は1、2枠、余裕を持たせるため、「今年は無理だろう」と感じていた矢先のうれしい知らせだった。

 そんな環境の中で、梶本の考えには変化が生じていた。NPBに入る前の目標は「藤川球児選手(阪神)のようにわかっていても打たれないストレートを投げること」。だが、「結果を残すこと」が最優先になった。もちろんピッチャーである以上、速いストレートを投げることにこだわりはある。しかし、現実問題として1軍で結果を残さなければ生き残れない。「自分の持ち味、他の選手にはないものを出していきたいと思うようになりました」。1年前とは少し違う自分がそこにいた。

 梶本達哉らしさをアピールするために、磨いたのはフォークボールだ。プロ入りしてから本格的に習得し、本人曰く2種類のフォークを投げ分ける。空振り三振を取りたい時は、深めに挟んで、ストンと落とす。凡打に打ち取ってゲッツーを狙う時は縫い目にやや指がかかるように浅く握り、バットの芯を外す。「精度は上がってきた」。本人も手ごたえを感じ始めている。「藤川選手のストレートのように、梶本は〇〇だというボールを見つけたい。それがフォークなのかなという気がしています」

 クローザーとして得たもの

 1軍登板こそ果たせなかったが、ルーキーイヤーは2軍でチーム最多の77回3分の2イニングを投げた。何より貴重だったのは、シーズン終盤のクローザー体験だ。最初は登板感覚が空いたため、リリーフに起用されたことがきっかけだった。そして、9月2日の甲子園での阪神戦、1点リードの9回、初めて抑えを託される。先頭打者を四球で歩かせながら、“プロ初セーブ”をマークした梶本はその後の約2週間で5つのセーブを積み重ねた。その間、失敗は1度もなかった。活躍が認められ、ファームの月間MVPにも輝いた。

「先発なら負けをしのぐことはできても、完投でもしない限り、勝ちに直結する投球はできない。抑えは自分の投球がそのまま勝ち負けにつながる。打たれたら終わりの場面でどれだけ攻められるか。いい勉強になりました」

 秋のフェニックス・リーグ(教育リーグ)では再び先発に戻った。だが、それまでスターターとして投げていた時とは意識が変わった。「抑えなら1球の失投も許されない。1球の重みを感じて投げることができました。特にピンチになった時は、1球1球大切に投げられたかな」。フェニックス・リーグでは3度先発して、そのうち2度が5回を無失点。成長のあとがうかがえる内容だった。

 野茂英雄から学んだこと

 1年目を振り返ると、夏にはフレッシュオールスター出場を果たした。そして秋には高知キャンプのメンバーにも入った。昨シーズンを「ちょっとずつですけど、階段を昇っていけた1年でした」と総括する。秋季キャンプでは臨時コーチを務めた野茂英雄氏にミーティングで話を聞くことができた。
「どれだけマウンドで自信を持って投げられるかが、ピッチャーにとって一番重要だと言われました。最終的にはボールどうこうよりも、自分の気持ち次第だと。自信を持って投げることは意識すれば、すぐにでもできる。変化球を曲げるとかよりは、難しくないでしょう」

 自信を持ってマウンドに立つためには、裏支えとなる技術と肉体が必要なのは言うまでもない。このオフ、梶本は2つの課題に取り組んだ。ウエイトトレーニングで筋力をアップさせ、体を太くすること、そして、低目への制球力を高めること。宮古島でのキャンプは、その成果をみせる機会となる。

「昨年、掲げていた目標でひとつだけ達成できなかったのは1軍で1勝すること。1軍に上がれなかったのはやっぱり悔しかった。目標は開幕1軍、そして1勝です」
 アイランドリーグ出身投手では、まだ勝ち星もセーブもあげた人間はいない。その話題に触れると、「(1番乗りは)僕がなろうと思っています」。静かな口調ながらキッパリと宣言した。支配下登録で「94」と小さくなった背番号は、今季から逆に「99」と数が増える。1軍では1番大きな背番号で最高の成績を――昨季同様、一歩ずつ階段を昇っていった先に光は見えてくる。

(この特集は随時更新します。次回は東京ヤクルト・三輪正義選手(元香川)です)

梶本達哉(かじもと・たつや)プロフィール
 1986年8月21日、兵庫県出身。西脇高を経て、07年、天理大を休学して愛媛に入団。キレのあるストレートを武器にシーズン通して先発ローテーションを守り、15勝をあげて最多勝のタイトルを獲得。11月のドラフト会議でオリックスから育成1巡目氏名を受ける。昨年は6月に支配下登録され、2軍成績は24試合で0勝5敗5セーブ、防御率4.29。シーズン終盤にはクローザーも任された。187センチ、72キロ。右投右打。今季から背番号を「99」に変更。





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<西川、2軍スタートも紅白戦登板へ>

 今季、ドラフト5巡目指名でオリックスに入団した西川雅人も新人合同自主トレの日程をほぼ終了し、順調な滑り出しを見せている。キャンプは2軍スタートだが、1軍の紅白戦での登板が決定した。大石大二郎監督から「実戦で投げられる準備をしておくように」との指示を受けたという右腕は「まずはそこでいいピッチングをみせることが第一目標」と意気込む。

 NPBに入って痛感したのは「アイランドリーグとは違って、練習に取り組む前の準備がしっかりしている」こと。西川自身も万全の準備を整え、最初のアピールのマウンドに臨むつもりだ。「高知(1軍の第2次キャンプ地)に行けるように頑張ります」。目標である「開幕1軍」に向けた勝負どころが早くもやってくる。

(石田洋之)

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