10日、南アフリカW杯アジア最終予選第7戦が行われ、日本代表はカタール代表と対戦した。日本は前半2分に相手のオウンゴールで先制したものの、後半7分にPKを与え、同点に追いつかれる。後半途中から松井大輔(サンテティエンヌ)、本田圭佑(VVVフェンロ)らを投入したが決勝点を奪えず、1対1で勝ち点1を積み重ねるに留まった。日本は17日にメルボルンでA組トップ通過をかけ、首位オーストラリアとの直接対決に臨む。

 最終予選3回目のホーム戦ドロー (横浜)
日本代表 1−1 カタール代表
【得点】
[日] オウンゴール(2分)
[カ] アリ・アフィフ(53分)
 日本代表は6日のウズベキスタン戦で勝利し、4大会連続でのW杯出場を確定させている。しかし、岡田JAPANにとってW杯への切符を手に入れることは、あくまで通過点の1つでしかない。南アフリカで上位進出を目標とするならば、アジア最終予選でグループ2位通過は許されない。試合開始時点で、日本は首位オーストラリアとは勝ち点14で並び、得失点差で2位。17日に敵地で直接対決を控えるだけに、今日のカタール戦は落とせない一戦となった。

 南アフリカへの切符をもぎとったウズベキスタン戦では、試合終了間際に2つのアクシデントが起きた。ベンチ前で選手に指示を出していた岡田武史監督が退席処分を受け、中盤の底に入っていた長谷部誠(ヴォルフスブルグ)が相手にヒジを入れたと判定されレッドカードをもらっている。このため両者は、今日行なわれたカタール戦のベンチに入ることができなかった。加えて左SBの長友佑都(F東京)は以前から抱えていた虫垂炎の状況が悪化し、先発はおろかベンチからも外れた。さらに遠藤保仁(G大阪)も右足太股の肉離れのため、10、17日の連戦を欠場することになってしまった。

 岡田監督に変わってカタール戦の指揮を執ったのは大木勉コーチだ。長谷部、遠藤の代わりに中盤の底に入るのは阿部勇樹(浦和)と橋本英郎(G大阪)のコンビ。これまでの最終予選でチームを支えてきた2人の不在が、岡田JAPANにどのような影響を及ぼすのか、この試合での大きなポイントとなった。

 試合は開始早々に、意外な形で動き出した。前半2分、中村俊輔(セルティック)からの縦パスに反応した内田篤人(鹿島)が右サイドをかけ上がりクロスボールを上げる。中央に走りこんでいた岡崎慎司(清水)はDFに体を寄せられながらもゴール前に進出し、クロスに合わせた。カタールDFアハメド・アルビナリは懸命に岡崎の前に体を入れ、クロスをクリアしようと試みる。しかし、アルビナリがクリアしたボールは一直線にカタールゴールへ。GKも反応できず、ボールはゴールネットを揺らした。日本がオウンゴールで幸先よく先制し、ゴールラッシュショーの幕が開くかと思われた。

 しかし、この日の岡田JAPANは先制ゴール以降、ほとんど攻撃の形を作り出すことはできなかった。中盤でボールを保持しても、前線へ効果的なパスを送ることができずに、バックラインに戻さざるを得ない状況が続いた。また、この試合で勝ち点3を奪わなければW杯への望みが断たれるカタールが積極的にプレスをかけてきたことにより、パスミスから相手にカウンターを受けるシーンも多かった。岡田JAPANの本来の武器である細かいパスからの素早い攻撃は影をひそめた。

 それでも前半終了間際の43分、左サイドのライン際で何本ものパスを交換し、コーナーキックのチャンスを得る。中村俊の蹴ったボールを岡崎が頭で落とし、ゴール前の混戦から最後にシュートを押し込んだのは田中マルクス闘莉王(浦和)だった。攻めの形が作れない中、得意のセットプレーで追加点を奪ったかに見えたが、主審は闘莉王のシュートの前に日本がハンドを犯したとしノーゴールと判定。日本の2点目は取り消されてしまった。

 ハーフタイムを挟んだ後半開始直後にも再び左サイドから今野泰幸(F東京)と中村俊が突破し、ゴール前にクロスを上げるもゴールには結びつかず。その後はなかなか効果的な崩しのシーンが生まれなかった。

 悪い流れの中、日本が失点を喫したのは後半7分。カタールが中盤でパスカットし、FWマジド・ハサンにスルーパスが出た。これに対し、中澤佑二(横浜FM)が体を入れてディフェンスに入り、ハサンがPA内で倒れる。このプレーをタイ人主審はファウルとし、カタールにPKを与えた。主審の判定には6万のサポーターから大ブーイングが起こった。アウェーサポーターからの重圧を受けたキッカーのアリ・アファフだったが、落ち着いてPKを決め、試合は1−1の振り出しに戻った。

 この失点直後に、日本は阿部に代わって松井を投入する。松井はサイドに開きながら戦況を変えることを試みる。この交代によりトップ下に入っていた中村憲剛(川崎F)が下がり目のポジションに位置すると、ボールがスムーズに動くようになる。松井は中村俊とサイドを入れ替えながら、カタール守備陣に対しドリブルで仕掛けていく。

 さらに、後半21分には興梠慎三(鹿島)、35分には本田がピッチに送り出される。決勝点をもぎ取るべく攻撃のカードを切った日本だったが、最後まで集中力の切れないカタール守備陣を切り崩すことはできず、1対1のまま試合は終了。勝ち点1を分け合う結果となった。

 試合後、岡田監督は「選手たちを生かしてやることができず申し訳ありません。ただ、我々はこういう試合を教訓にして前に進んでいかなければなりません」と反省の弁を述べた。さらに「自分がベンチにいないことで、選手たちに指示が伝わらなかったことがここまで苦しいとは思わなかった」と、監督にとって初めての経験だったスタンド観戦について胸の内を語った。

 今日の試合で初めてコンビを組んだ阿部と橋本の2人は、なかなかボールを捌くことができず、チーム全体のバランスを整えることができなかった。改めてこのチームにおける遠藤・長谷部の存在の大きさを感じさせる展開となった。ただし、阿部・橋本のコンビは急造であることを考慮しなければいけない。この1試合で評価を下してしまうのは酷だろう。W杯本大会でも遠藤や長谷部が欠場する可能性はある。様々な状況を想定してチームの完成度を上げていかなければならない。

「(オーストラリア戦では)いくつかのポジションを代えてやっていきたい」と、次戦にむけた解決策を口にした岡田監督。17日のアウェー戦は遠藤が欠場するだけでなく、中村俊、長谷部ら海外組も遠征には参加しない予定だ。1年後の本番で好成績を収めるためにはチーム全体の底上げは不可欠であることは言うまでもない。17日の試合では勝ち点3を奪ってグループ首位通過を決めることと、新たな中盤を構成しこれまでと違うバリエーションでも同等の勝負ができると証明すること。この2つのミッションをクリアするのが、17日のメルボルンで岡田JAPANに課せられた使命だ。

(大山暁生)

【岡田監督会見コメント】
「ホームに帰ってきていい試合をしようと思っていた。選手一人ひとりはがんばってくれたのですが、チームとして生かしてやれなかった。非常に悔しい思いでいっぱいです。こういう試合を今後どう生かすかが、一番大切なこと。この悔しさを忘れずに次のオーストラリア、いいメンバーで試合をしてくれるようなので、アウェーですがいい試合をして勝ちにいきたい」

―― メツ監督は「日本はテクニックがあるけれども、相手が能動的に仕掛けてきた時に、ソリューションを磨かなければならない」と指摘した。このような問題を試合の中での解決策を磨く方法は?
岡田: 試合について、メツさんがどうおっしゃろうと、我々はうまく試合を運べていることが多かった。しかし、今日の試合ではできなかった。この試合でできなかったからといって、今までやってきたことを覆すことはしない。メンバーの問題もあるが、今日の相手ならば今日のメンバーでも十分にやっていかなければいけない。そこで(試合を思い通りに運ぶことが)できなかったことに関しては解決していかなければいけないと思っている。ただ、今日の試合でうまくいかなかったことがあっても、ガタガタするつもりは全くない。

――難しい状況での試合だったが、先制点を取ってから試合をコントロールするべきだったのでは? パスサッカー以外でもなにか対処する方法はなかったのか。
岡田: それは、ドリブルをしてリズムを作るということですか? 自分たちがやろうとしているサッカーは、日本人が持っている素質を生かしたもの。今は、チャレンジの時なので、選手には怖がらずに行け! という指示を出している。この試合をコントロールして1−0で終えるということでは、しょうがない。それはハーフタイムで選手たちに伝えた。このゲームをコントロールするより、自分たちの目指すサッカーを表現してやられるほうが、このチームや自分自身に必要なことだったと思う。

――試合展開が難しくなったことについて、原因はどこにあるか?
岡田: 選手が「暑かった」と言っていたので、とにかく動けなかったことが原因。一人ひとりはがんばっていたが、中にはミスをしたくない、そこそこの結果を残したいという思いを持っている選手がおり、チャレンジする気持ちが足りなかった。そういう選手がいると、逆にチャレンジした選手がミスをしてしまう。うちのサッカーは全員でやるサッカーなので、バランスやコンビネーションが欠けてくると厳しい。

【ブルーノ・メツ監督会見コメント】
「我々は若いチームだが、ビッグな日本を動揺させることができた。前半2分で先制を許し、1−0からのスタートというのは、若いチームにとって辛かった。ほとんど北京オリンピック代表チームと変わらないメンバーで構成されている。だから、未来に向けて楽しみだ。1年半後にはカタールでアジアカップがあるので、そこを目標にチームを作っていきたい」

――日本はW杯でベスト4に残れると思うか?
メツ: 日本はテクニカルなチームだが、世界を相手にするには改良しなければいけないことが多々ある。肉体的にも足りていない。プレスをかけた時、または相手に仕掛けられたとき、対応ができていない。日本はプレスをかけられると、目指すべきサッカーを見失いがちだ。ソリューションがなくなっている。プレスをかけられても、試合をコントロールでできるようにしなければならない。日本はサッカー大国だが、(ベスト4は)まだまだ難しい。

<日本代表出場メンバー>

GK
楢崎正剛
DF
中澤佑二
田中マルクス闘莉王
内田篤人
今野泰幸
MF
阿部勇樹
→松井大輔(57分)
橋本英郎
中村憲剛
中村俊輔
→本田圭佑(80分)
FW
岡崎慎司
玉田圭司
→興梠慎三(66分)