今シーズンも前期は終盤にさしかかり、残り10試合となりました。現在、富山サンダーバーズは26試合を消化し、14勝10敗2分けで北陸地区2位。首位の石川ミリオンスターズとの差はわずか1ゲームです。特に打線が好調で、打率部門では1位から3位までを独占状態。山内匠二(津久見高−専修大−サウスカロライナBL−京都FB)や伊東大輔(横浜商大高−高千穂大−愛媛マンダリンパイレーツ)といった2年目、3年目の選手に引っ張られるかたちで下島孝之(岐阜三田高−朝日大−シティライト岡山)や恭史(太田/松商学園高−住友金属鹿島−宮後工業)など、新人選手も頑張っています。
 打撃好調の要因は、よくバットを振り込んでいることが挙げられます。今シーズンは全体練習だけでなく、その前後に自主練習をしたり、特打ちを志願する選手が本当に多いのです。率先してやっているのが、伊東です。彼は誰よりも努力していますね。普段は全体練習の2時間前からグラウンドに来てやっていますし、試合日でもホームであれば、1時間以上前に会場に行って、ずっとバットを振っているのです。開幕スタメンは果たせなかった伊東ですが、5月半ばからは中軸を任されています。打率こそ2割台ですが、打点はチームトップの17とチャンスの強さを発揮してくれています。その伊東に引っ張られるようにして、何人もの選手が同じように自主練習をするようになっているのです。それが結果としてリーグトップのチーム打率2割7分5厘という数字にあらわれているのでしょう。

 一方、課題は守備です。失策43はリーグワースト。なかでも上田真幸(福井工大付高−浜松大)はリーグ最多タイの9個を記録しています。彼は高校時代、甲子園に2度出場していますが、自らのエラーで負けてしまった苦い経験をしています。そのため、高校まではサードを守っていたのですが、大学時代は外野にコンバートしました。リーグのトライアウトも外野手登録で受けていたのですが、開幕直前にあえてサードに戻したのです。それは上田の将来を考えてのことでした。彼は肩はいいのですが、足はそれほど速くはありません。NPBを狙うなら、外野手は俊足で守備範囲が広くなければスカウトは目を留めてくれません。ですから、外野手では彼の魅力は半減されてしまうのです。ならば、サードをしっかり守れるように鍛えた方がスカウトにアピールすることができます。

 とはいえ、本人も苦手意識があるようで、あまりサードの守備は好きではないようです。打球への入り方やグラブさばきなどを鈴木康友監督から教わり、必死に練習に取り組んでいますが、まだまだプロの打球の速さについていくことができていません。ここ最近はバッティングの調子も落ちてきてしまい、今はDHでの出場となっています。期待している選手の一人ですので、頑張って這い上がってきて欲しいものです。

 また、チームとしての課題をあげるとすれば、守備の要であるキャッチャーですね。現在はベテランの松橋良幸(長野東高−駒沢大−WIEN‘94−高知ファイティングドッグス−信濃グランセローズ)と新人の大陽(茅場/土浦三高−千葉工大)が約半数ずつ出場しています。リードの面では、やはり松橋に安定感があるものの、バッティングが打率1割台とふるいません。一方の大陽は、今年3月に大学を卒業したばかりの22歳。リード面ではまだまだ課題は残っているものの、それでも成長のあとが見られます。ところが、こちらも打率は1割台。大学時代は首位打者を取ったほどの彼ですが、プロのピッチャーのボールに対応するまでには至っていません。まずはフォームを固め、きちんとしたスイングができるようにしなければいけません。徐々にではありますが、最近ではバットが振れてきているようになっています。先述した伊東に倣い、日々努力しているからでしょう。今後に期待したいですね。

 既存選手の中では、開幕前に鈴木監督から注目選手として名前があがっていたのが町田一也(倉吉北高−NOMOベースボールクラブ)と塚本雄一郎(富山商高−三晶技研)の2人。どちらも設立当初からのメンバーで、今やチームのリーダー的存在です。町田は昨シーズンまで主砲として打線を引っ張ってきた野原祐也(阪神)の穴を埋めるべく、今シーズンから4番に座りました。しかし、右手首を骨折していることが判明し、5月半ばから戦線離脱してしまいました。約1カ月経った今もまだバットを振ることはできません。握力が戻るのを待って、今月末くらいから少しずつ練習を再開する予定です。おそらく実戦復帰は後期の途中からになることでしょう。

 大黒柱だった町田が抜けることで最初はチームとしても不安でした。しかし、町田が抜けた翌日からも引き分けをはさんで4連勝するなど、他の選手がよく頑張ってくれています。町田がいない分、自分たちがやらなければいけないという自覚が芽生えたこともあるのでしょう。逆に町田は自分がいなくてもチームが勝っているのですから、焦っているかもしれませんね。焦りすぎはよくありませんが、ほどほどの焦りはいいプレッシャーになることでしょう。いずれにしても町田はチームにとっては欠かせない存在ですから、なるべく早く復帰してくれることを祈るばかりです。

 今シーズンからキャプテンに任命された塚本は、守備の面では安心して見ることができ、何も言うことはありません。問題はバッティングです。彼は選球眼が良く、ボールをよく見ることができます。ですから、昨シーズンは四球の数がリーグ最多でした。しかし、今シーズンはそれが消極性を招いてしまっているのです。思いっきりいかなければいけないところで見てしまい、バットが出ないのです。そのため、現在の打率は2割台前半。「ヒットを打ちたい」という気持ちが焦りとなり、それがさらに拍車をかけた状態で打席で余裕がなくなっています。ちょっとしたイップスのようになっているのです。

 普段の練習から逆方向に打つように心がけさせ、試合でも「ファーストゴロで凡打になっていいもから」と言っています。それがいい所に転がってヒットにでもなれば、そこから気持ちが変わってくることもあります。たとえ内野安打でも、結果が欲しい時には嬉しいものですからね。塚本にとってもいいきっかけになると思うのです。もともと引っ張る力はある打者ですから、逆方向に打てるようになれば、光が見えてくることでしょう。

 さて、前半も残り10試合となりましたが、優勝するためには何よりも石川戦がポイントとなります。これまでの対戦成績を見ると、他の4球団には勝ち越しているものの、石川には1勝6敗と大きく負け越しているのです。今シーズンの石川もやはり好投手を擁し、堅実な守備力を誇るチームに仕上がっています。なかでもエースの南和彰(神港学園高−福井工大−巨人−カルガリーバイパーズ)には完璧に抑えられてしまっています。150キロ以上という球速ももちろんですが、フルカウントからでも簡単にストライクを取らずに、ストライクからボールになるスライダーやカットボールを投げるコントロールは、さすがです。加えて山崎武志(洲本実高−甲賀健康医療専門学校−シダックス−西濃運輸)もいいですね。球速はそれほどないのですが、変化球にキレがありますし、力の抜き差しが巧みで引き出しの多いピッチャーに成長しています。おそらくチームメイトの南からいろいろと教わっているのでしょう。

 とはいえ、富山も負けてばかりはいられません。ボールも見極められるようになっていますし、打撃力で言えば勝っているわけですから、十分に勝機はあります。あとはムダなミスをしないこと。エラー絡みでの失点が敗戦の伏線となっている試合も少なくなくないのです。とにかく笑って夏を迎えられるよう、残り10試合、全力で戦い抜きたいと思います。


小牧雄一(こまき・ゆういち)プロフィール>
1967年5月2日、鹿児島県出身。鹿児島商卒業後、三菱自動車水島を経て91年にドラフト5位で日本ハムに入団。出場機会に恵まれなかったことから、2000年オフに退団。西武の入団テストに合格し移籍した。03年のシーズン限りで現役を引退し、翌年同球団のチームスタッフに就任。05年からは四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグスのコーチを務め、08年より富山サンダーバーズのコーチに就任した。


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