15日から23日の9日間、ベルリンで第12回陸上世界選手権が開催され、男女計47種目で世界一の座を決定する。北京オリンピックから1年が経ち、ドイツの地で新たなスターが誕生するのか。
 1983年、フィンランドのヘルシンキで産声を上げた世界陸上選手権大会は「真の陸上世界一」を決める大会として、当初は4年に1度開催されていた。1991年の第3回東京大会以降は2年に1度の大会に変更され、オリンピックイヤー以外の一大スポーツイベントとして定着した。前回大会は大阪で開催され、多くの日本人の注目を集めたことは記憶に新しい。今大会には212の国と地域からおよそ2000名の選手が参加する。この数字は昨年行われた北京オリンピックの204を上回る数字で、まさに真の世界一決定戦といえる。

 メインスタジアムの「ベルリン・オリンピアシュタディオン」は06年のサッカーワールドカップドイツ大会で決勝の舞台ともなった場所だ。このスタジアム最大の特徴は、設営されたトラックコースが青色である点だろう。通常は茶系のレンガ色が主流だが、トラックを青くすることで選手の集中力を高める効果があるという。好記録を期待できる舞台で世界の“超人”たちが頂点の座を争う。

 大会最大の注目は、なんといっても男子100mだ。2年前の大阪大会で100m、200m、4×100mを制したタイソン・ゲイ(米国)と北京オリンピックでその3種目全てで金メダルを獲得したウサイン・ボルト(ジャマイカ)の対決だ。

 世界陸上2連覇がかかるゲイは7月10日に今季世界最高記録となる9秒77をマークしている。さらにその3週間後の31日にも9秒79(追い風参考記録)を叩き出した。快記録を連発した後は練習を止めていた時期もあるが、今季の最大目標は世界陸上。ここに照準をあわせている。昨夏は北京オリンピック直前に右大腿部を痛め、本番で準決勝敗退という悔しい結果となっているだけに、ベルリンに懸ける気持ちは強い。

 一方のボルトは北京オリンピックで世界記録9秒69をマークし、一気にスターダムに昇り詰めた。今年は7月17日にゲイと同タイムの9秒77を記録している。この時は気象条件が悪く、小雨が降る中向かい風でのタイムだった。お互いが同じ条件で走ることになればどちらが勝つか、全くわからない。まさに100m決勝は「世紀の対決」となるだろう。

「私も9秒6台を出すことは可能。9秒60だって無理ではない」と自信をみせるゲイに対して、「走りたくてウズウズしている。今からレースが待ちきれない」と意気込みを語ったボルト。大会2日目となる16日(日)にいきなり大会クライマックスがやってくる。

 男子100mには日本から塚原直貴(富士通)も出場する。北京オリンピック4×100mリレーで銅メダルを獲得した塚原は、100mでも準決勝に進出を果たしている。この時は無欲のセミファイナル進出だったが、今大会は準決勝進出を明確な目標としてベルリンに乗り込む。常に10秒1台を記録できる安定した力の持ち主だけに、北京に続き世界を相手にベスト16進出に期待したい。

 日本勢が常にメダル争いを繰り広げてきた女子マラソン。大阪大会では酷暑下でのレースで土佐礼子が粘りの走りをみせて銅メダル獲得している。今大会では日本人選手の出場は5名だが、その中でも期待がかかるのは今年1月に大阪国際を制した渋井陽子(三井住友海上)と昨年11月に東京国際を制した尾崎好美(第一生命)だ。

 渋井はマラソンでの世界陸上出場は8年ぶり2度目(10000mで03年パリ大会に出場)。01年ヘルシンキ大会では4位に入賞しており、ベルリンでは自己最高位を更新しメダル獲得を狙う。その渋井が前半からハイペースで飛ばし失速した東京国際で優勝した尾崎は、3度目のマラソンが世界陸上の大舞台となる。尾崎を指導するのは91年東京大会で銀メダルを獲得した山下佐和子コーチ。3月に腰を痛め調整が遅れているが、師からの教えをいかすことができれば入賞ラインに届くだろう。

 日本人選手の強力なライバルは世界記録保持者のポーラ・ラドクリフ(英国)。ケガからの復帰となり調整具合が鍵となるが、万全の態勢でベルリンに乗り込んでくれば不動の本命だ。もう一人の実力者で、ロンドンマラソンの覇者、ドイツのイリーナ・ミキテンコは調整不足を理由に欠場する。

 マラソン以外で隠れたメダル候補を挙げよう。男子50km競歩の山崎勇喜(長谷川体育施設)だ。05年ヘルシンキ大会では8位に、昨年の北京オリンピックでも7位入賞を果たしている。山崎といえば、前回の大阪大会で係員の誘導ミスで途中棄権扱いとなった悲劇の主人公だった。悔しい想いも味わっている世界陸上の舞台。今大会では歓喜の主人公になるべく、モチベーションを高くベルリンに乗り込んでいる。

 他にも女子短距離に100m、200mに出場する福島千里(北海道ハイテクAC)や高橋萌木子(平成国際大)や男子200m、4×100mリレーに出場する高平慎士(富士通)の走りに注目が集まる。男子ハンマー投げの室伏広治(ミズノ)の欠場は残念だが、日本人選手の中から新星が誕生することを願いたい。

【主な種目のスケジュール】
◇男子100m
1次予選、2次予選 8月15日(土)
準決勝、決勝    8月16日(日)

◇女子マラソン
8月23日(日)

◇男子50km競歩
8月21日(金)

◇女子100m
1次予選、2次予選 8月16日(日)
準決勝、決勝    8月17日(月)

◇男子200m
1次予選、2次予選 8月18日(火)
準決勝、決勝    8月19日(水)

◇男子4×100mリレー
予選 8月21日(金)
決勝 8月22日(土)

(日付は現地時間)