第91回高校野球選手権大会は、中京大中京(愛知)の史上最多となる7度目の優勝で幕を閉じた。負けたとはいえ、日本文理の最終回の粘りもまた観る者を魅了した。9回2死無走者から、怒涛の連打で5得点を挙げ、6点差を一気に1点差にまで詰め寄った。「野球は2死から」という言葉をまさに実現させたような見事な攻撃だった。その猛追を振り切り、43年ぶりに深紅の優勝旗をもたらした中京大中京。「古豪復活」にOBたちの喜びもまたひとしおだったことだろう。
 さて、今大会の特徴の一つは最速140キロを超えるピッチャーがそろっていたことが挙げられる。全国屈指の菊池雄星(花巻東)をはじめ、堂林翔太(中京大中京)、岡田俊哉(智弁和歌山)、秋山拓巳(西条)、大瀬良大地(長崎日大)、今宮健太(明豊)、新西貴俊(都城商)、島袋洋奨(興南)……。エースのみならず、控えにも140キロを計測するピッチャーが多かった。

 一方、打者では全国屈指のスラッガー、筒香嘉智(横浜)が予選で敗退。昨年清原和博以来の1年生4番バッターとして注目された勘野甲輝(PL学園)は、チームこそ甲子園に出場したが、自身はベンチからも外れた。こうしたスター選手の不在もあって、下馬評ではロースコアでのゲームが多くを占めることが予想された。

 ところが、フタをあけてみれば、打撃戦が目立った。特筆すべきは初回での失点。表と裏の攻撃で、どちらかにでも得点が入った試合は全48試合中24試合と半数にものぼった。記念試合で6校多く出場した昨年の90回大会では、全54試合中20試合。再試合分1試合多く行なわれた一昨年の89回大会でも49試合中18試合である。パーセンテージにすると、50%の今年に比べ、昨年は37%、一昨年は36%。いかに今年の初回失点率(得点率)が高いかがわかる。

 しかもその初回の得点が大量だったケースも多く、初回の合計得点は66にものぼった。6試合多く行なわれた昨年が44点ということからも、今大会は初回の得点が多いことは一目瞭然だ。

 逆に初回に失点しなかったチームが、今大会は勝ち上がっている。代表例は優勝校の中京大中京。1回戦からの全6試合、味方打線が得点することはあっても、投手陣は一度も初回に失点することはなかった。準優勝の日本文理やベスト4の花巻東(岩手)にしても、決勝、準決勝とそれぞれ敗戦を喫した中京戦以外はやはり初回の失点はゼロ。初回の攻防が、一つの勝負ポイントとなった大会だったことは間違いない。

 今後、最大の関心事といえば、やはり菊池雄星の進路だろう。報道によれば、日本のプロ野球では11球団からの指名も予想されているが、本人はメジャーも視野に入れて考えているようだ。しかし、日本プロ野球のドラフトを回避して海を渡れば、帰国しても3年は指名されることはない。こうしたリスクを背負ってでも、メジャーへの挑戦を決めるのか。それとも日本のファンの前でプレーすることを選ぶのか。“20年に一人”と言われる逸材の一挙手一投足に注目だ。