中京大中京(愛知)の43年ぶり7回目の優勝で幕を閉じた今年の夏の甲子園。決勝では6点ビハインドの9回2死無走者から怒涛の連打で1点差にまで詰め寄る日本文理(新潟)の猛打は、地域レベルの均衡化を示したものといっていいだろう。そんな中、今大会も高い素質をもった選手が数多く登場し、プロのスカウトからも熱い視線が注がれた。果たして10月29日のNPBドラフト会議では、どの選手がどの球団に指名されるのか――。今回は3人の注目選手を挙げたい。
 まずは、やはり全国屈指のサウスポー菊池雄星(花巻東)だ。初戦の長崎日大戦では3本塁打を浴びるふがいないピッチングに、一時は不安視をする声も上がった。さらに準々決勝で背中を痛め、準決勝ではわずか11球に終わり、甲子園を去った。春の選抜のような他を寄せ付けない圧巻のピッチングは見られなかったが、それでも彼を1位指名候補に選ぶ球団がこれだけ多いのは、やはり“20年に一人”ともいえる素材の高さにある。菊池は肩まわりの筋肉が柔らかく、腕のしなりは天下一品だ。加えて体を開かずに最後までしっかりと残し、ボディターンで投げているので、バッターにとってはボールが非常に見づらい。ヒジの使い方、球離れもよく、もちろん最速150キロ台とスピードも申し分ない。

 ただし、夏は課題も多く見えた。なかでもフィジカルの弱さは、まずはじめに克服しなければならない要素の一つだ。夏は春とは異なり、気候条件も厳しく、予選からの疲労もある。そうしたことも影響しているのだろう。今夏の菊池にはフォームやリズムにバラつきが見られた。そのため、春はキレのあったスライダーなどの変化球が夏は甘く入り、ストレートもイマイチ伸びがなかった。これらは、土台である下半身がまだできあがっていないことを示している。また、準々決勝での背筋痛もフィジカルの弱さが引き金となったのではないかとの声もある。いずれにせよ、今週のドラフトの超目玉として注目すべき逸材であることは間違いないが、プロ入り後の活躍は体づくりが前提条件といえそうだ。

 右投手では秋山拓巳(西条)を挙げたい。特筆すべきは186センチ、92キロという恵まれた体格。馬力もあり、将来どのように化けるのか、非常に楽しみな投手だ。スピードも最速150キロと、菊池にひけをとらない。ただし、過去を遡れば、大型右腕がプロで大成するかというと、未知な部分も多いのは否めない。現在、秋山の課題は股間節がかたく、ヒザが使えていないために重心が高いこと。そのため、全体的に球が浮く傾向にある。ストレートはスピードがあるため、高めでもバッターも思わず振ってしまうが、変化球はやはり甘くなってしまう。甲子園でもそこを狙われた。どの球種も球道が低めにいくようになれば、将来は佐々木主浩や藤川球児のような日本を代表とするストッパーにもなり得る。

 さて、打者で最も高い評価を得たのが決勝でも先制2ランをはじめ、4打数3安打4打点と活躍した堂林翔太(中京大中京)だ。堂林は軸が全くブレず、ミート力に長けている。また、内外角どちらにもうまく対応できる器用さも兼ね備えている。特に内角低目のボールを高校生であれだけ腕をうまくたたみ、ジャストミートできる打者はそうはいないだろう。バッティングの際、足を高く上げないすり足打法で、長打を打てるパワーも魅力だ。あとは高卒打者全てに言えることだが、木製バットにどう対応していくかが、プロでの活躍のカギを握る。堂林自身も投手としての道を捨て、打者一本でプロを目指す覚悟を決めており、今後の成長が楽しみな選手である。