大相撲秋場所が13日、東京・両国国技館で初日を迎える。大関・日馬富士の綱とりに注目が集まった先場所と異なり、今場所の話題の中心は東横綱・白鵬になりそうだ。先場所、14勝1敗で優勝を果たし、連覇を狙う。今場所も制すれば、優勝回数は昭和の大横綱・双葉山に並ぶ12回。大横綱への階段をまた一歩あがることになる。
(写真:稽古場では若手を指導する場面もみられた白鵬)
 その白鵬は今場所も賜杯を争う本命とみていい。夏巡業では腕(かいな)の返しや呼び戻しなど新たな技の習得に余念がなかった。4日の横綱審議委員会の稽古総見では11番で土俵を下り、委員の不評を買ったものの、「“稽古、稽古”と言われますが、ただ稽古するだけじゃ意味がない。本場所と同じような気持ちで5番でも10番でも集中してとることが大事」と、どこ吹く風だ。

「アマチュアじゃない。プロなんだから。本場所でみせる」。その言葉通り、場所前に入ってペースは上がってきた。初日の1週間前となる6日には、部屋の幕下相手に連続50番。かち上げ、張り差し、突っ張りなど、さまざまな立ち合いを試しながら、全勝をおさめた。翌日には出稽古に来た日馬富士と連続30番。翌々日も、この大関と三番稽古を行った。2日間の成績は37勝14敗。現状、綱にもっとも近いといわれる日馬富士を圧倒し、仕上がりは順調だ。

 優勝回数で並ぼうとしている双葉山は日頃から目標としている存在である。「取り口がきれいで自然体」。古い取組のビデオを観て、立ち合いや横綱としてのたたずまいを参考にしている。初日の相手は小結・安美錦に決まった。過去の成績では大きくリードしているものの、昨年の九州場所では同じ初日に下手投げで敗れている。2日目は元大関・雅山との割が組まれており、序盤の取りこぼしだけは気をつけたい。それさえなければ、最後に笑うのは白鵬だと見ていいだろう。

 対する西横綱・朝青龍はすっかり影が薄くなった。先の横審稽古総見ではわずか5番で息が上がり、白鵬以上に委員から酷評された。もともと故障を抱える左ひじに加え、夏巡業中に右ひざ内側側副じん帯を損傷。満身創痍の体では、調整のペースは上がってこない。直前まで「2勤1休」の稽古スタイルを貫き、質量ともに不足しているのは否めない。

 今年の初場所に復活Vを遂げて以降、もう3場所、賜杯から遠ざかる。その間の勝ち星も11勝、12勝、10勝と、前人未到の7場所連続優勝を果たした頃の強さはない。とはいえ、名古屋場所の千秋楽、白鵬戦でみせた激しい巻きかえは観客を大いに沸かせた。なんといってもファンが望んでいるのは両横綱による優勝争い、そして千秋楽のガチンコ対決だ。このところ終盤にスタミナ切れを起こす場所が続いているだけに、前半をいかに“省エネ”で乗り切れるかがポイントとなる。

 強いて白鵬の対抗をあげるとすれば、朝青龍よりも先場所13勝の大関・琴欧洲と、綱とりが振り出しに戻った日馬富士か。琴欧洲は横審稽古総見で痛めた左ひざの状態がやや不安だが、好調だった名古屋場所同様、稽古量は充分積んだ。203センチの恵まれた体をもてあましていた段階は卒業しつつある。ただ、初日の相手は関脇・稀勢の里。また過去7勝11敗と苦手にする安美錦との対戦も待っている。メンタル面が課題とされる大関だけに、先場所同様、快進撃で勢いをつけたい。

 日馬富士は夏場所、14勝1敗で初の賜杯を抱きながら、先場所は序盤で2敗を喫し、綱とりの夢を早々に断たれた。幕内最軽量の129キロと小兵のためスピードや技のキレを欠くと、なかなか安定した成績は収められない。また対戦成績が7勝15敗の関脇・琴奨菊など苦手力士の克服も必要だ。場所前は白鵬のいる宮城野部屋に連日押し掛け、再チャレンジへの意気込みは感じられる。時折、変化で星を拾う相撲内容は批判の的になっているだけに、低く鋭い立ち合いを15日間、まっとうしたい。

 外国人力士ばかりが目立つ上位陣にあって、日本人で期待したいのは関脇・稀勢の里だ。今場所2ケタ勝てば、翌場所は大関とりとの声がかかる。ここ2年ほど、幕内上位に定着しながら、今ひとつ殻を破れないのは近い番付や下位力士への安易な取りこぼし。先場所も1横綱3大関を破りながら、もったいない土俵で星を落とし、9勝止まりだった。土俵上で横綱をもにらみつける気持ちの強さが、時として詰めの甘さになってしまう。

 師匠の鳴戸親方(元横綱・隆の里)は23歳の弟子に「寂然不動」との言葉を贈っている。「心穏やかに、何事にも動じない」との意味だ。場所前は猛稽古で自らを追い込んだ。「不動」の横綱・大関になるため、心身ともに進化をみせたい場所となる。


※二宮清純がインタビュアーを務めるBS朝日『勝負の瞬間(とき)』で、次回は白鵬関がゲストとして登場します。入門時の苦労から力士としての理想像まで、たっぷり語り尽くした横綱のインタビューは必見。放送は千秋楽の夜、27日(日)22時〜の予定です。どうぞお楽しみに!