NPBで戦力外通告を受けた選手などを対象にした12球団合同トライアウトが25日、神宮球場で開催された。今季は11日に甲子園の室内練習場で行われた第1回目に続く実施。投手11名、野手5名の計16名がNPBでの現役続行に望みを託し、ネット裏に詰めかけた各球団の編成担当にアピールを行った。「まだまだ野球をやりたい」。参加した選手たちは強い思いを胸に秘め、全力でプレーした。
(写真:入団当初は速球派として将来性を買われていた阪神・辻本)
 この日の神宮球場は朝方まで降っていた雨が開始直前に上がり、途中から陽も差し込む天候。甲子園での第1回トライアウトでは雨天により室内実施を余儀なくされただけに、選手たちは気合充分といった表情で入念に外野でウォーミングアップを繰り返していた。テストは各投手が5人の打者にカウント1−1から勝負する実戦形式。NPB各球団の担当者はもちろん、メジャーリーグ、台湾、韓国プロ野球の関係者、BCリーグのコーチ、社会人チームの関係者も彼らの一挙手一投足をネット裏からチェックした。

 今回のトライアウトで注目を集めたのは、2004年に史上最年少の15歳で阪神からドラフト指名を受けた辻本賢人だ。育成選手に“降格”して迎えた今シーズンは開幕前に腰椎を疲労骨折したこともあり、2軍でも登板機会はゼロ。球団から戦力外通告を受け、トライアウトに参加した。結果は5人の打者に対して1安打。成績だけみればまずまずだが、球速は130キロ台と伸び悩み、球の出どころを隠すような変則的なフォームも不安定で各球団担当の心をつかむには至らなかった。

 また野手では98年の横浜ドラフト1位、古木克明(オリックス)が参加。03年に22本塁打を放ったスラッガーも08年にオリックスに移籍して以降は目立った活躍ができず、今季は2軍でリーグワーストの三振を喫して戦力外通告を受けた。トライアウトでも一発長打で力を示したいところだったが、11打席で安打は2本。強打者としてのイメージが強いことも災いし、四死球でまともに勝負をしてくれないケースも目立った。「納得はいっていないが、やることはやった。ユニホームを着るチャンスがある限りは、ずっと野球を続けたい」。取り囲んだ報道陣に対し、松坂世代の29歳はキッパリと言い切った。

 高知ファイティングドッグス(四国・九州アイランドリーグ)のユニホームで目を引いたのは元阪神の伊代野貴照。昨オフに阪神を戦力外になった右腕は今季、台湾でプレー。6月に高知に入団し、主に抑えとしてチームの独立リーグ日本一に貢献した。「高知に来るまでは、河川敷を走ったり、キャッチボールの相手もいないのでネットスローをしていた」と語るサイドハンダーはアイランドリーグで実戦経験を多く積む中で、従来の投球を取り戻した。また米国で伊代野をコーチし、高知で一緒にプレーもした伊良部秀輝からは、打者からボールが見にくいフォーム修正のアドバイスをもらった。
(写真:トライアウト前には伊良部から電話で激励された伊代野)

 この日はいきなり先頭打者に四球を与え、コントロールがばらついていたが、尻上りに調子をあげた。「(トライアウトでは)打者を打ち取りつつ、自分の持ち味を出すことが求められる。その点ではシンカーでゴロを打たせたり、まっすぐで三振もとれた。手ごたえは分からないが頑張った」。アイランドリーグからは元福岡ソフトバンクの山田秋親(福岡レッドワーブラーズ)が第1回目のトライアウトを経て、千葉ロッテへの入団を果たした。山田に続けば、独立リーグ経由のNPB復帰は2人目となる。また昨年は徳島インディゴソックスで選手兼任コーチを務めた梅原伸亮(元広島)も参加し、打者5人から2三振を奪った。

 一方で独立リーグからNPB入りの夢をかなえた選手も厳しい現実の場に立たされた。昨季、育成選手として徳島から千葉ロッテに入った小林憲幸は、2年で戦力外となり、トライアウトにやってきた。「調子は良かった。腕も振れて球が走っていた」。先頭打者をストレートで空振り三振に切ってとると、2人目はフォークで連続三振。球速はMAX144キロを計時した。「飛ばしすぎて最後はちょっとバテた」と最後の打者にはストレートの四球を出してしまったが、今回の参加投手の中では最も球威を感じた。「これが何とか次につながってほしい。最悪の場合は徳島に戻ってやり直します」。アイランドリーグでの再チャレンジも視野に入れつつ、各球団からの連絡に期待を寄せる。
(写真:戦力外通告後はロッテ浦和球場でひとり練習していた小林)

 野手で最も内容が良かったのは、東北楽天の西谷尚徳だ。楽天1期生としてドラフト4巡目で入団し、今季は3年ぶりに1軍に昇格。6月15日の横浜戦では3打点の活躍でお立ち台にも立ったが、その後は結果を残せず、クビを告げられた。この日はライト線、そして右中間を痛烈に破る2塁打をそれぞれ放つなど、11打席で4安打。「最後の1本は良かった。今さらどうあがいても仕方がない。実力は分かっていただけていると思う」。楽天では背番号6を与えられ、期待されていた左打者は、静かに結果を受け入れる構えだ。
(写真:「両親の前で場面場面で活躍できたことがうれしかった」と楽天時代を振り返る西谷)

 16選手が奮闘した約2時間のトライアウトだったが、終了後、NPB12球団から目立った動きは特になし。台湾プロ野球の関係者が山北茂利、岡本直也(いずれも横浜)に声をかけたくらいだった。今年は既にドラフト会議での新人獲得が完了し、FA市場も低調。各球団は必要な戦力をトレードなどで補っており、来季に向けた編成はほぼ固まっているのが実情だ。このオフ、戦力外通告を受けた選手でも、西武入りが決まった工藤公康(元横浜)、ロッテが獲得した山田、的場直樹(元ソフトバンク)、川越英隆(元オリックス)など再就職先が決まったのはごく一部で、大半は新たな道を選択せざるをえない状況に追い込まれている。

 それでも日本ハムから戦力外を受けて参加した金子洋平は「今日、受けて良かった。やっていなかったら後悔したと思う」とスッキリした表情をみせた。獲得したい球団があれば、1週間以内に選手の元に連絡が届く。果たして一縷の望みをかけた選手たちの願いは届くのか。できることすべてをやり尽くし、あとは朗報を待つ。