1964年のインスブルック大会(オーストリア)からオリンピックに出場している日本のバイアスロン界(女子は92年のフランス・アルベールビル大会から出場)。これまでの最高成績としては、男子は72年の札幌大会のリレー8位、女子は98年の長野大会での個人6位入賞だ。来年2月のバンクーバー冬季五輪では男女ともに1枠ずつしか得られなかったことからも、世界との差は縮まるどころか、広まりの気配さえうかがえる。実はボブスレー同様、そこにはマテリアル問題が存在しているようだ。
 近年の傾向として、スピード化しつつあるバイアスロンではクロスカントリーでの走力が最大の勝負ポイントとなっており、ここに世界と日本との差が出ている。スピード化の要因としては、選手の能力の向上だけでなく、スキー板の性能やWAXの開発といったマテリアルの高機能化が挙げられる。北海道バイアスロン連盟の出口弘之理事長によれば、50年前は10キロの道のりを走るのに30分かかっていたが、今では5分も短縮しているという。クロスカントリーでの競り合いは、日本が得意とする射撃ライフルにも大きな影響を及ぼす。走りでの差を少しでも縮めようと焦れば焦るほど、自分のペースを崩し、能力を発揮することができないからだ。つまり、世界との差を縮めるには、スタミナとスピードを高めていくことが今後、ますます必要となりそうだ。

 ところが、日本人選手には個人の能力や努力だけでは乗り越えられない大きな壁が立ちはだかっている。それは、マテリアル問題だ。
「日本人選手はライフル、弾薬、スキー板、WAXと全てヨーロッパ製のものを使っている。それがヨーロッパとの差を生み出している一つの要因となっているんです」と出口理事長。特にスキー板はヨーロッパの選手と日本人の選手が使用しているのとでは、圧倒的に性能が違うという。その理由を出口理事長はこう説明する。

「実は長野大会までは日本国内にもスキー板のメーカーがあったんです。ですから、何度もテストをしてはデータを取り、選手それぞれに最良のスキー板を注文することができた。ところが、そのメーカーはもうなくなってしまいました。日本では儲けにつながるほどの需要がないんです。それはライフルなども同じ。結局、ヨーロッパから輸入せざるを得ないわけですが、いいものは国内の選手に最優先されますからね。日本にまわってくるのは、2番手、3番手の製品なんですよ」

 つまり、日本がマテリアルに強くなるには、自国のメーカーが商売できるほどの国内需要を確立させることなのだ。しかし、現状は厳しい。現在、日本のバイアスロン競技人口は全国で約400人。その中で世界と戦えるほどの実力者は男女合わせても30人ほどだという。ライフルを使用することから、銃砲刀剣類所持等取締法 の規制により、18歳以上でなければならない。そのため、子どもの頃から親しむことができないのだ。これでは普及拡大は容易ではない。

 そこで、おもちゃの銃を使った子ども向けの講習や大会が数年前から始まった。男の子だけでなく、意外にも女の子に人気があるという。
「実際、現在は男子よりも女子の方が世界で活躍しているんです。というのも、女子は射撃能力に長けている。マイペースという性格と、骨盤が高位置にあり、体が柔らかいために、より自然な構えができるからでしょうね」(出口理事長)
 さらに今年からは、ジュニア強化選手の枠を新たに設けた。早ければ、そこから2014年ソチ大会の出場選手が誕生することになりそうだ。

 見ているだけではわからない厳しい条件の中で戦っているバイアスロン。バンクーバーでは、そんな目には見えない戦いを念頭に置いて見るだけで、応援にも熱が入りそうだ。国内での普及活動も活発となっており、日本人選手の頑張りが普及への何よりの追い風となる。

(斎藤寿子)
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