現地時間4日に行なわれた南アフリカW杯グループリーグ抽選会で、日本はグループEに入りカメルーン、オランダ、デンマークとの対戦が決定した。前回大会よりも困難な相手との対戦に臨むことになりそうな岡田ジャパン。指揮官は「全ての試合で勝ちにいく」と強気の姿勢をみせているが、果たして02年日韓大会以来の決勝トーナメント進出はなるのか。
 前回ドイツ大会でグループFに入り、オーストラリア、クロアチア、ブラジルと対戦した日本代表は1分2敗の成績、グループ最下位でドイツの地を後にした。そして4年後の南アフリカではさらに厳しい相手を撃破しなければならない。

個性豊かなFWを揃える対戦国

 試合順に対戦相手を見てみよう。日本にとって初戦となる6月14日、ブルームフォンテーンで対戦するカメルーンはアフリカ地区でも最も力のある国と言える。FIFAランキングは11位、過去のW杯でもアフリカ勢最高のベスト8(90年イタリア大会)に進出している。個々の身体能力は非常に高く日本が最も苦手とするタイプのチームだ。

 主力選手はもちろんFWサミュエル・エトオ。昨季は圧倒的な強さでヨーロッパチャンピオンの座に就いたバルセロナで活躍しチャンピオンズリーグ決勝では先制点を挙げている。今季はズラタン・イブラヒモビッチとトレードという形でセリエAの雄インテルに移籍したがリーグ戦14試合で7得点を挙げており輝きに翳りはない。抜群のスピードと卓越したボディーバランスは世界最高峰のレベルにあり中澤佑二や田中マルクス闘莉王にとって困難な相手になることは間違いない。

 続いて19日にダーバンで対戦するのはオランダだ。世界ランキング3位のオレンジ軍団と日本は今年9月に対戦し0対3で敗れたことは記憶に新しい。超攻撃的スタイルで世界中のサッカーファンから愛される存在で、W杯では毎回のように優勝候補に挙げられる。欧州予選では強豪国がいない比較的楽なグループに入ったとはいえ、危なげなく無敗で予選を突破している。日本にとっては勝ち点1でも奪うことができれば万々歳の相手といえる。

 各ポジションにタレント溢れる選手を揃えるだけに主力を一人挙げることは困難だが、その中でも“世界最高のドリブラー”とも言えるアリエン・ロッベンの存在感は抜群だ。昨季はレアル・マドリッドで不遇をかこったが、ブンデスリーガの古豪バイエルンミュンヘンに移籍し、切れ味鋭いドリブルで目の肥えたドイツ人サポーターを沸かせている。優れた得点能力も持ち合わせているが、ケガが多く常に故障を抱えていることが最大にして唯一の欠点か。日本にとっては本大会のピッチ上で対峙したくない相手だが、世界中のサッカーファンはロッベンがドリブルでゴール前に侵入する姿を心待ちにしている。

 そしてグループリーグ最終戦となる24日、ルステンブルクで対戦するのがデンマークだ。最近のサッカーファンにはなじみがないかもしれないが、1992年欧州選手権でピーター・シュマイケルやラウドルップ兄弟を擁し優勝を果たしている北欧の強国だ。今大会の欧州予選でもポルトガルやスウェーデンが入ったグループAを1位で通過し、スウェーデンの本大会出場を阻んだ。現在、ヨーロッパ勢で最も波に乗っている国と言える。

 昔からゴール前で強さをみせるFWが生まれる土壌であるが、現在の代表チームにはニクラス・ベントナーがいる。日本でもお馴染みのアーセン・ベンゲルが率いるアーセナルでプレーする21歳は193センチの身長に似合わず、意外にも足技で器用な面も見せる。もちろんヘディングの強さは当たりの強いイングランド・プレミアリーグで揉まれているだけに一級品。これまた日本DF陣を悩ませる存在になるだろう。

 一見絶望的な組み合わせだが、日本にとって少しでも有利に働く条件がないわけではない。初戦のカメルーン戦は標高1400mのブルームフォンテーンで行なわれる。南半球の真冬にあたる6月の現地は気温5度から10度ほどにまで冷え込むという。主力選手の大半が寒さの厳しい欧州でプレーしているとはいえ、故郷が常夏の国であるカメルーンよりは寒さに対して日本に分があるかもしれない。

 さて、このような3つの強国を相手に日本はどのように戦うべきだろうか。岡田武史監督が常々口にしてきたポゼッションを高めるサッカーは、アジア地区の国々ならばともかく、彼らのような強豪国には通用しない。また9月のオランダ戦のような無謀なプレッシングサッカーは、標高の高いスタジアムでは絶対にとってはならない戦法だ。日本が本気で勝ち点3を得る方法、それはただひたすら「堅守速攻」に磨きをかけるほか術はない。

 幸い、岡田ジャパンには点でクロスに合わせることのできるFWがいる。今年代表初ゴールを挙げながらすでに15得点を記録している岡崎慎司だ。彼の決定力の高さは日本にとって大きな武器になる。ゴール前の岡崎にボールを入れるまで、できるだけ手数をかけずシンプルに、サイドから素早いクロスを上げることを徹底すること。これで相手DFを混乱に陥れることができれば、日本にも決勝トーナメント突破の可能性が出てくる。そのためには石川直宏や長友佑都らサイドで輝く選手が必要不可欠となる。

 日本にとって参考になるのはEURO04で欧州チャンピオンとなったギリシャの戦い方だ。この時のギリシャは相手の攻撃を高い位置で効率的にカットし、カウンターに攻撃の全てをかけた。大会を観戦したサッカーファンの多くは「退屈なサッカー」「つまらない」という印象を受けたかもしれない。しかし、実力の足りないチームが強国を相手にするには非常に有効な戦略である。日本が活路を見出すにはこの方法しかないだろう。そうれなければドイツ大会同様、3試合で本大会から去ることになる。

 そもそも、日本は地元開催の02年日韓大会以外ではグループリーグ突破どころか勝ち星を挙げた経験もないのだ。世界の勢力図からみれば弱小国扱いといってもいい。そのような国が世界を相手にするには、徹底した現実主義で試合に臨む必要がある。岡田監督が掲げた目標は「ベスト4」だが、グループリーグの組み合わせも決まったところで大風呂敷を広げるのはやめ、現実的な戦略を立てるべきだ。

死のグループはグループG 前回王者は楽な組み合わせ
 
 グループE以外に目をやるとシード国から外れたフランスがグループA(シード国が開催国の南アフリカ)に入ったことで、強豪国がひしめき合ういわゆる“死のグループ”はグループGのみとなった。

 中でもブラジルとポルトガルの上位争いは見物だろう。両国にはカカ、クリスティアーノ・ロナウドというレアル・マドリッドに所属するビッグスターがいる。2人の直接対決も今大会のハイライトと言えそうだ。さらにプレミアリーグ・チェルシーのストライカーディディエ・ドログバらを擁するコートジボワールや44年ぶりに出場する北朝鮮と一筋縄ではいかない国が同居する。

 しかもグループGのとなりグループHには史上最強の呼び声高い“無敵艦隊”スペインが入っている。つまりグループGを2位で突破すると決勝トーナメント1回戦でグループHを1位通過するであろうスペインと早々に対決することになる。ブラジル、ポルトガルともに是が非でも1位通過を狙いたいところだ。

 その他のグループでは前回大会の覇者イタリアがグループFに、ディエゴ・マラドーナが率いるアルゼンチンはグループBに、イングランドがグループC、ドイツがグループDに入った。これらのグループは強豪国のバッティングもなく、順当にシード国が決勝トーナメントへ駒を進めるだろう。

 第3者の立場から見るとグループEも波乱のないグループといえる。シード国のオランダが順当に勝ち進み、残り1席をカメルーンとデンマークで争う図式と表現できる。英ブックメーカーのオッズをみても、日本の決勝トーナメント進出オッズは4カ国中で断トツに高い倍率。各社の数字を平均するとオランダ1.67倍、カメルーン5倍、デンマーク5.5倍で日本は8倍といったところ。2番手グループからも離されているのが公平な視点から見た現況だ。

「世界を驚かせる」ためにはそれなりの覚悟が必要である。日本が目指すべきは美しいサッカーでなく、ポゼッションを上げるサッカーでもない。まずは得点を許さず勝ち点1を拾うためのサッカー。あわよくば速攻から先制点を奪い前がかりになった相手に対し、さらにカウンターを仕掛けながら追加点を狙う。その結果、勝ち点3がついてくれば決勝トーナメントも見えてくる。シンプルな速攻に磨きをかけてこそ、本気で上位進出が狙えるはずだ。

(大山暁生)