日本一から5年、下位に沈んでいた千葉ロッテが生まれ変わろうとしている。今季からチームの顔だったボビー・バレンタインに代わり、生え抜きの西村徳文監督が就任。バレンタイン時代にはなかった猛練習や投手陣の投げ込みを復活させた。補強面でも昨年のWBCで韓国代表4番として日本を苦しめた金泰均を獲得。まずは2年連続Bクラスからの脱却をはかる。現役時代からロッテ一筋29年目の新指揮官はどう勝利へのタクトをふるうのか。当HP編集長・二宮清純が直撃した。
二宮: 監督は就任早々、脱バレンタイン流を掲げましたね。前任のバレンタインに関してはチームを日本一に導いたり、ファンを大切にしたり、評価する声も多かった。ヘッドコーチとして監督を支えてこられた立場から、バレンタインのスタイルをどうみていましたか。
西村: ファンをすごく大事にする姿勢や、選手とのコミュニケーションのとり方は素晴らしいと感じていました。この点は自分としても大切にしたい部分です。ただ、いい面もあれば悪い面もある。僕は選手、スタッフに対して監督の考えを伝える立場でしたが、中にはそのやり方に不満を持っていた人間もいました。

二宮: その不満とは、たとえば?
西村: ひとつは日替わりオーダーですね。9番を打っていた選手が次の日は急に2番を打たされる。「えっ、それはちょっと……」というとまどいが選手たちにはありました。たとえば2番という打順はバントをしたり、つなぎ役もこなさなくてはいけないのですが、そこに小技が得意でない選手が入るケースが多かった。だから犠打の数はリーグ最下位(78個)でしたし、バントのサイン自体も少なかったですね。

二宮: 米国出身の指揮官は基本的にバントよりエンドランで走者を進める形を好みますね。
西村: ところが今年はエンドランも少なかった。選手の立場としては1球1球サインが変わって、大変だったと思います。盗塁にしても「ここはストップ」「ここは走ってもいいよ」と1球ごとに指示が変わる。そうすることによって、逆に選手にはプレッシャーがかかってしまったはずです。盗塁なら盗塁、バントならバントと最初に決めておいて、何球かの間で成功してくれればいい。そんな考え方のほうがうまくいく確率は高いのではと思っていました。

二宮: そういった不満に対して、バレンタインは聞く耳を持ちましたか?
西村: 少しは聞いてもらえましたが、基本的には考え方は変わりませんでした。性格は頑固でしたからね。正直、ここ5、6年はコーチとしての仕事はなかなかやらせてもらえなかった。だから今回は西本(聖=投手コーチ)さん、金森(栄治=打撃コーチ)さんをお招きして、アイデアをどんどん出してもらおうと。もちろん僕が監督である以上、チームとして徹底しなくてはいけない点はたくさんあります。でも、コーチにもしっかり仕事をやってもらう。その環境づくりが僕の役割ではないかと考えています。

 抑えは9回限定とは限らない

二宮: FAやトレードでエースの清水直行や捕手の橋本将が抜けたものの、韓国の大砲・金泰均を補強しました。昨年のWBCで見ましたが、本当に素晴らしいバッターですね。軸がブレないので、本塁打のみならず打率も稼げそうです。
西村: そうですね。ホームランを打とうと思えば打てるし、チャンスにはヒットも狙える。このところチームには長距離バッターが不在でしたから、この補強は大きいです。

二宮: かつてロッテには、韓国でシーズン56本塁打を放った李承ヨプ(巨人)が入団したことがあります。どのくらい爆発するか注目していたのですが、1年目は期待外れに終わりました。金泰均にその心配はないですか?
西村: その点は本人とも話をしました。韓国の選手は儒教文化の影響か、どこか目上の人に気を遣いすぎる部分がある。ですから、むしろ僕たちのほうからチームに溶け込める雰囲気をつくってあげなくてはいけないでしょう。その部分さえクリアできれば、1年目から活躍してくれると信じています。

二宮: 彼の加入で4番はほぼ固まりました。まだキャンプ前で話が早いでしょうが、打順の構想は浮かんでいますか?
西村: 西岡(剛)は1番で固定するつもりでいます。西岡が1番に座るのと座らないのでは、相手に対してのプレッシャーが全然違う。昨季、西岡は開幕当初3番を打っていましたが、そこでは西岡自身の持ち味が発揮できない。その上で2番に足の速い器用な選手を置きたいですね。

二宮: ピッチャーでは、小林宏之が抑えに転向します。
西村: 昨季の一番の反省点は、勝ちにつなげるための中継ぎと抑えの不在でした。確かに先発が早い回でマウンドを降りるケースも目立ちましたが、中継ぎ、抑えがゲームをよくひっくり返された。これが最終的に響きましたね。

二宮: ロッテが強い時にはYFK(薮田安彦、藤田宗一、小林雅英)と呼ばれたリリーフ陣がしっかりしていました。
西村: 小林宏之は先発をやってきて、スタミナもあります。だから9回限定ではなく、8回途中からでも行ってくれると期待しています。それができればチームとしてすごく助かりますね。

二宮: 以前、“大魔神”佐々木主浩は横浜時代、9回限定で投げるのと、8回から登板するのでは全く疲労が異なると話していました。たとえ8回2アウトからでも、イニングを挟むのが大変だと。8回の途中からクローザ―を任せていると、大事なシーズン終盤でへばってしまう不安もあります。
西村: それはおっしゃる通りだと思います。ただ、僕の中では荻野(忠寛)と2人でうまく回せば大丈夫という計算です。もちろんシーズンは長丁場ですから、負担をかけ過ぎないように考えていきたい。そのためには彼らにつなぐためのピッチャーをいかに整備するかがポイントになるでしょう。薮田が復帰し、経験のある川越(英隆)も入りますから、そのあたりでなんとか補えればと思っています。

 広島コンビで2軍を鍛え直す!

二宮: ロッテが日本一になったのはもう5年前の話になりました。当時の主力選手の多くは今もチームの中心ですし、戦力的に大きくダウンしたわけではないと思います。低迷の原因はどこにあったのでしょう?
西村: 特に昨年は、選手の気持ちが乗ってなかったですね。監督人事などで周囲がゴタゴタし過ぎた影響もあって、チームが一つになっていなかった。野球はチームスポーツですから、まとまりがなければ当然勝てない。監督に就任して、秋のキャンプに入る際に、この点は選手たちにお願いしたところです。本来、これだけの戦力で5位になること自体がおかしいですから。

二宮: 当時は西岡や今江(敏晃)といった生きのいい若手が2軍からどんどん上がってきました。最近はやや下からの突き上げがないようにも感じますが……。
西村: ここ2、3年はファームが機能していなかったですね。やはり1軍同様の練習スタイルをとってきたことで、量が不足していたのかもしれません。1軍と2軍で練習の目的は全く異なります。2軍は野球の上でも一社会人としても徹底的に鍛える場所。僕自身、打ち込み、走り込みをやって結果を出してきた人間ですから、基本はそこにあると考えています。

二宮: その点では、カープで練習の虫と呼ばれた高橋慶彦さんの2軍監督はまさに適任ですね。
西村: 最高の適任者ですよ。秋のキャンプで2軍の練習も見ましたが、アップから厳しいメニューを課していました。一昔前に戻ったような練習風景でした。2軍の打撃コーチには長嶋清幸さんも入りましたし、広島コンビで徹底的に鍛えてほしいですね。やはり1軍の選手は絶対下に落ちたくない、2軍の選手は早く上に行きたいという競争が出てこないとチームは強くなりません。ここ数年は1軍、2軍とも弛んでいた面がありますから、まずこの関係を変えていきたいと思っています。

二宮: 5年前の日本一に貢献した西岡もまだ今年で26歳。今江も27歳です。まだまだ老けこむような年齢ではない。
西村: だからこそ今、もう一度鍛え直さないといけないんです。内心、このままでは彼らの選手寿命が短くなってしまうのではないかと心配していました。ちょうどいいタイミングだったんじゃないでしょうか。

二宮: 近年のパ・リーグは戦国時代です。昨年は一昨年日本一の埼玉西武と2位のオリックスがBクラスに沈み、逆に5位の東北楽天と6位の福岡ソフトバンクが揃ってAクラスに入りました。ロッテが今季、Aクラスに入る可能性は充分にあるとみています。
西村: 僕はとにかく負けるのが嫌いなので、1年目から「優勝」を目指します。「2位」や「3位」という目標は出したくない。僕がハードルを下げてしまったら、選手たちも「2位、3位でもいいのかな」という気持ちになってしまう。それが一番怖いんです。先程も言いましたが、戦力的にロッテはもともとBクラスになるようなチームではない。このオフは補強も順調に進んでいますし、僕は1年目から優勝を狙えると確信しています。

<現在発売中の『潮』では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>