いよいよバンクーバー冬季五輪開幕まで約1週間に迫った。今大会は史上最多の7競技86種目が行われる。アイスホッケーを除く6競技に参加する日本は、前回のトリノ大会を上回る205名(選手94名、役員111名)の選手団を送り込む。現在は、各自が本番に向けての最終調整を行なっているところだ。激しい選考レースを勝ち抜いてきた精鋭たちが顔をそろえる。その中でメダル獲得が期待される女子選手2人を今回は取り上げたい。
 スピードスケート・岡崎朋美「5度目の正直」

 15歳の新星・高木美帆が注目を浴びているスピード・スケート。その高木と23歳差の最年長選手が岡崎朋美(富士急)だ。今回でオリンピックは5大会連続の大ベテランである。
 2度目のオリンピック、26歳で挑んだ長野大会(1998年)では500メートルで銅メダルを獲得。一躍時の人となった。それから10年以上経った今でも、国内トップ選手であり続けている。その原動力は変わらないモチベーションだ。38歳となった現在でも、自らの進化を追い求め、向上心を絶やすことがない。スケートに対する真っすぐな姿勢は、若手にも刺激となっている。

 前回のトリノ大会は、開幕前に風邪をひき、体調が万全でない中、500メートルで4位に入賞した。しかし、決して満足はしていない。100分の5秒差で逃した表彰台への思いを募らせ、この4年間トレーニングを積んできた。フォームを改造し、より低い姿勢を保つために、若手でも耐えられないほどの厳しい筋力トレーニングを行ってきた。その成果があらわれたのは、昨年3月W杯。500メートルで37秒66をマークし、実に4年ぶりの自己ベストをたたき出した。

 オリンピック本番に強いのも岡崎の魅力だ。銅メダルの長野大会を皮切りに、ソルトレークシティー大会では6位、そして前回は4位と3大会連続入賞、いずれも日本人選手としては最高位の成績だ。

 主将として臨んだ前回大会に続き、今大会は旗手に抜擢された。主将のスキージャンプ・岡部孝信(雪印)とともに日本選手団を牽引する。自らが表彰台に上がれば、選手団の士気は高まるはずだ。
「人間に限界はない」。岡崎はそう断言する。4年に一度、彼女はそのことを証明してきた。バンクーバーではさらに成長した姿が見られそうだ。狙うは金メダル。岡崎の5度目の挑戦が始まる。


 スノーボード・竹内智香「金メダルへのあくなき挑戦」

 1年のほとんどを海外で単身生活をしながらオリンピックでの金メダルを目指しているのがスノーボード・パラレル大回転代表の竹内智香(ロイズ)だ。07年8月からは、世界最強国スイスナショナルチームの合宿や遠征に唯一の外国人として帯同を許され、最高の環境で技と心を磨いてきた。昨シーズン、その成果があらわれた。W杯で4度2位となり、種目別総合では自身最高の3位を獲得した。

 高校3年生で出場したソルトレークシティー大会は22位。前回のトリノ大会は入賞まであと一歩に迫る日本人最高の9位だった。長野大会から正式種目として採用されているスノーボードの中でパラレル大回転は唯一日本人選手が入賞していない種目だ。それだけに彼女への期待の声は大きい。

 だが、竹内が目指しているのは入賞ではない。ズバリ頂点だ。そのために彼女は女子選手では稀の「カービング」技術をマスターしようとトレーニングを行ってきた。しかし、そのためには男子選手並みの筋力が必要となる。それを身につけるため、竹内はオフの時期から筋力アップに励んできた。その努力が実り、シーズン直前にカービングをマスターした。

 今シーズンのW杯最高成績は6位だが、本人は決して悲観的にはとらえていない。一つ一つの内容は決して悪くなく、予選落ちも攻めの姿勢を貫いたからだ。滑りにもタイムに手応えを感じている。あとはいかにミスなく滑るかどうかだ。

 道具にもこだわりをもつ。トリノで金、銀を独占したスイス代表のショッホ兄弟が立ち上げたブランド「ブラックパール」の板だ。材料の購入から作業まで自分たちの手で行なう完全オーダーメードのこの板を使用している女子選手は世界で竹内一人だという。

「優勝以外は2位も3位も同じ。欲しいのは優勝だけ」と竹内は言う。生活も日本を離れた。そして練習も大会でも日本チームではなく、スイスのチーム、コーチと共にする。孤独を感じないわけはない。しかし、全てはオリンピックという舞台で最高の結果を残すためだ。

 実力は世界のトップクラスであることは既に証明済みだ。フィギュアスケートやモーグルのように、国内での注目度は決して高くはない。しかし、間違いなくメダル候補の一人だ。長野で里谷多英が金メダルをつかんだ途端に人気・注目度ともにグンとアップしたモーグルのように、バンクーバーはスノーボードパラレル大回転を日本に広めるいいチャンスだ。

 約3年間、世界最高峰のレベルでみっちりともまれ、身につけた高度な技術を駆使した竹内の滑りに注目したい。