ラグビーのトップリーグのプレーオフ「マイクロソフトカップ」決勝が2月24日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、サントリーが今季14連勝の三洋電機を14−10で破り、初優勝を果たした。チームを率いたのは早大を13年ぶりの大学日本一に導いた就任2年目の清宮克幸監督。 昨夏に行われた清宮監督と二宮清純との対談から、サントリー・ラグビー部の「清宮革命」の本源を探る――。(今回はvol.2)
(写真:サントリー・ラグビー部の清宮監督(左)。就任2年目にしてチームをトップリーグ優勝に導いた)
二宮:世界トップレベルの国々のラグビーを見ていると、いくつものオプションがあって、しかも、それがすべて緻密な計算に基づいている。ボールが楕円形だから何が起こるかわからない、それがラグビーのおもしろさだ、という時代はもう終わったんじゃないか。ゲームマネジメントのレベルは日々、進化している。

清宮: たしかに終わっていますね。偶然のスポーツではまったくないですからね、ラグビーは。だからまずは、サンゴリアス・ベースといって「こうなったときはこうする」というセオリーみたいなものを徹底的につくり上げました。

二宮:つまり約束事を決めたと?

清宮: 当たり前のことなんですけどね。たとえば相手ボールをターン・オーバー(相手ボールを奪取し攻守が入れ替わること)したときに、どこにボールを運んで、その後はどこを攻めるのかがベターかということです。攻めるポイントは状況によっていろいろ変わるんですね。一つの形から三通り、四通りのオプションがあって、あるオプションを選択すると次のオプションがまた三通り、四通りある。だからどこまでも広がっていくわけですが、そのなかで最善の選択をしていかないといけないわけです。

二宮:いわゆる“化学反応”ですね。足し算ではなく掛け算にするんだと。個性と個性がぶつかり合うことによって最大値のエネルギーを生み出していく。そう解釈していいんでしょうか?

清宮: 僕も足し算、掛け算という言葉をよく使うんです。最初、べースになるものをつくっていくところでは足し算。べースをつくり上げたあとは個性を引き出していく。個性が出てくると掛け算になるわけです。

二宮:リーダーとは自分のメッセージを打ち出すときに、今までのやり方でいいと思っている選手たちの考えを打ち破るために、どこかで雷のように選手がビリッと感じるようなことを言ったりしますよね。
 清宮さんはタイガース・ファンとのことですが、星野(仙一)さんが阪神の監督だった2003年に、3連続ホームランという快挙があったんですね。そのときにある記者が「(優勝した)85年の再来ですね」と言ったら、星野さんは「いつまでも85年、85年言うとるからだめなんや!」と。私は、それは「過去の栄光に酔っていてはだめなんだ」と言いたかったと思うんですよ。
 それともう1つ。選手に対するメッセージとして「偶然が重なったようなホームランで勝つのではなく、きちんとつなぐ野球をやらなければ優勝できない」ということを言いたかったんじゃないか。甘美な思いに浸り、過去を美化したままでは未来はやってこないんだと。
 それから、星野さんの後を継いだ岡田(彰布)さんは、今岡を1番から5番にもっていった。ということは「おまえの役割はランナーを進めることじゃない。ランナーを帰すことだ」ということですよね。で、今岡がバントを決めたとき、それまでなら「ようやった。チームプレーをした」と言うところでしょうが、岡田さんは怒ったんですね。「何のためにおまえを5番に置いとるんや。勝負してこい」と。これはある意味で明確な星野野球の否定であり、岡田野球の施政方針確認であった。このように破壊と創造は表裏一体の関係にある。

清宮: そういう意味でいうと、セオリーというのは「こうすべきだ、こうすることがベターなんだ」というものの積み重ねなんですね。たとえば、ボールが相手のゴール前に転がったとき、いちばん近い選手がそのボールを拾ってそのまま1メートル、2メートル前進するというプレーがあります。そしてトライすることもある。僕は、トライできても怒るんです。ゴール前まで攻め込んだときは、相手は必死になって戻ってくる。だからチームのセオリーとして、ゴール前のボールは遠くに運んで、プレッシャーを受けないところまでボールを持っていくのが、サントリーのラグビーなんだと。

(続く)

※「潮」06年10月号「<特別企画>リーダー革命 対談「『勝つ』ために必要なことは何か」にて掲載されたものを元に構成しています。