27日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦がブルームフォンテーンで行われ、ドイツ(FIFAランキング6位)とイングランド(同8位)が対戦した。序盤からドイツがペースを握ると前半20分、FWミロスラフ・クローゼ(バイエルン・ミュンヘン)のゴールで先制に成功する。32分にもルーカス・ポドルスキ(ケルン)がシュートを決めリードを2点に広げる。一方のイングランドも37分に1点を返し、2対1のスコアで試合を折り返す。後半はイングランドが人数をかけて攻勢に出るものの、そこを突いたドイツがカウンターからさらに2点を追加し試合を決定づけた。その後は相手の反撃をしっかりと抑え4対1で試合終了。決勝トーナメント1回戦屈指の好カードは意外な大差がつき、ドイツが15大会連続のベスト8入りを決めた。

 イングランド、不運な判定に泣きベスト8ならず(ブルームフォンテーン)
ドイツ 4−1 イングランド
【得点】
[ド] ミロスラフ・クローゼ(20分)、ルーカス・ポドルスキ(32分)、トーマス・ミュラー(67分、70分)
[イ] マシュー・アップソン(37分)

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 ブルームフォンテーンで行われた決勝トーナメント1回戦はドイツ対イングランドとなり、優勝候補同士の好カードが実現した。両チームの対戦はイングランドの12勝10敗5分け。しかしW杯に限って言えばドイツの2勝1敗1分けで、イングランドが勝ったのは延長戦で勝利した66年のイングランド大会決勝まで遡る。勝敗のついた3戦すべてが延長あるいはPK戦までもつれていたため、今回も熱戦が期待された。

 ドイツはガーナ、セルビアなど難敵揃いのD組をトップ通過した。前回ドイツ大会3位の主力に、去年のU−21欧州選手権の優勝メンバーが加わり、若くて魅力のあるチームが出来上がった。注目はMFメスト・エジル(ブレーメン)。若き司令塔がドイツの攻撃を牽引する。また前節で怪我をして出場を心配されたMFバスティアン・シュバインシュタイガー(バイエルン・ミュンヘン)らも間に合い、エースのクローゼも出場停止から帰ってくるなどベストメンバーを組んだ。

 一方のイングランドはグループリーグCを1勝2分けと苦戦し、なんとか2位で突破してきた。大会直前に主将DFリオ・ファーディナンド(マンチェスター・ユナイテッド)を怪我で失うなど、守備に不安を抱えていたが3戦を1失点で凌いできた。しかし得点は2と少なく、FWウェイン・ルーニー(マンチェスター・ユナイテッド)にゴールがないことが気がかりだ。この先を勝ち進んでいくためにはエースの復調は絶対条件といえる。前節ゴールを決めたFWジャーメイン・デフォー(トッテナム)がラッキーボーイ的存在になれれば攻撃に厚みが増す。

 序盤からボールを支配したのはイングランドだったが、ボールを持たせられているという印象が強く、主導権を握ったのはドイツだった。最初のチャンスは5分。DFアーネ・フリードリッヒ(ヘルタ・ベルリン)の縦パスを受けたエジルがシュートを放った。これはGKに止められるも、徐々にドイツの攻撃がイングランドに牙を剥き始めた。

 すると得点が生まれたのは20分。GKマヌエル・ノイアー(シャルケ)のゴールキックからDFラインの裏へ抜け出したのはクローゼ。前回ドイツ大会の得点王は追いかける相手DFに競り勝ち、滑り込んでシュートを放つ。転がったボールはゴール右隅に吸い込まれてドイツが待望の先制点をあげる。クローゼは前節出場しなかった分、休養十分で動きのキレを感じさせた。

 先制点を奪ったドイツが更に勢いを増す。32分、MFトーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)がクローゼのスルーパスを受け抜け出すと、落ち着いてファーサイドのポドルスキに浮き球のパスを送る。GKと1対1になったポドルスキはワントラップし左足を振り抜く。強烈なグラウンダーのシュートはGKの股の下を抜いてゴールネットを揺らした。

 一方のイングランドも反撃を仕掛ける。37分、右からのコーナーキックを短くつなぐと、MFスティーブン・ジェラード(リバプール)がクロスを入れる。そこにヘディングで合わせたのはDFマシュー・アップソン(ウエストハム)。シュートは飛び出したGKの手の先を越えゴールネットを揺らす。1点差に詰め寄ったイングランドがこのゴールで息を吹き返す。

 すると38分、こぼれ球を拾ったMFフランク・ランパード(チェルシー)がPAの少し外からシュートを放つ。緩やかな軌道でゴールに向かったボールはGKの手を越えポストを叩いた。地面にバウンドすると再びポストに当たり、GKがキャッチする。バウンドした瞬間にボールは確実にゴールラインを割っていたが、審判団は認めず判定はノーゴールとなった。イングランド大会決勝の“疑惑のゴール”を思い出させるようなシュートは、44年の時を経てイングランドに不運な判定となった。前半はそのままドイツの1点リードのまま折り返した。

 後半に入るとイングランドがジェラード、ランパードを中心に攻勢を仕掛ける。4分、左サイドから中に切りこんだジェラードがミドルシュートを打つ。7分にはランパードがやや遠い位置からのフリーキックを直接狙う。ともにゴールにはならなかったが、得点力の高いMFがドイツゴールを脅かした。押し気味に試合を進めながら同点に追いつけないイングランドは、徐々に焦りを見せ始める。

 試合巧者のドイツはその隙を突いた。22分、フリーキックのこぼれ球を奪うとカウンターを仕掛ける。左サイドから中にドリブルで切れ込んだシュバインシュタイガーが右サイドフリーで待つミュラーにパスを出す。そのボールをワントラップしたミュラーが強烈なシュートをニアサイドに打ち込むと、GKの手を弾いてゴールに突き刺さる。ドイツが手数をかけぬ理想的な形で追加点を奪った。

 さらにその3分後、カウンターから試合を決定づける1点が生まれる。味方DFからのロングボールを受けたエジルが左サイドでトップスピードになりマークを置き去りにすると、ドリブルでPA近くへ持ち込む。戻ってきたDFアシュリー・コール(チェルシー)の股下を抜く技ありのパスを出すと、フリーで待っていたミュラーは落ち着いてゴールに流し込み、リードを3点とした。その後イングランドの反撃も守護神ノイアーを中心とした守りで凌ぎ切り、4対1のスコアのままタイムアップ。接戦が期待された試合は終わってみればドイツの圧勝で幕を閉じた。

 ドイツはエジル、ミュラーといった若い力が大活躍を見せ15大会連続の準々決勝進出を果たした。クローゼ、ポドルスキなどドイツ大会の主力も好調で、世代の融合が実にうまくいっている。若い選手が多く経験面で不安視もされたが、強豪イングランドを倒した勢いに乗ってこのままトーナメントを勝ち上がっていくのか。次戦はアルゼンチンと対決する。ここで司令塔のエジルが活躍しベスト4に名乗りを上げれば、一気にエジルの大会になる可能性もある。

 敗れたイングランドは、前半の同点ゴールを微妙な判定により認められないなど、不運な点はあった。しかし期待のルーニーはコンディションが上がらずノーゴールに終わり、得点力の高い中盤のジェラード、ランパードも生かせなかった。MFジョー・コール(チェルシー)など攻撃にアクセントをつけられるタイプの選手が出場機会に恵まれないなど、スター選手に頼ったファビオ・カペッロ監督の起用法にも疑問が残った。守備面でもテリーとセンターバックを組む選手が定まらず、最後までファーディナンドの穴を埋めきれなかった。中盤の守備を支えるMFガレス・バリー(マンチェスター・シティ)の調子が戻らなかったこともあったが、付け焼刃の守備でも1点で凌げたグループリーグとは違い、強豪ドイツ相手には脆くも崩れ去った。攻守に課題を残したイングランドが今後W杯の覇権を争うためには、堅い守備の構築とドイツのように若い世代からの突き上げが必要である。

(杉浦泰介)

【ドイツ】
GK
ノイアー
DF
フリードリッヒ
メルテザッカー
ラーム
ボアテング
MF
ケディラ
シュバインシュタイガー
ミュラー
→トロホウスキ(72分)
ポドルスキ
エジル
→キースリンク(83分)
FW
クローゼ
→ゴメス(72分)

【イングランド】
GK
ジェームズ
DF
テリー
アップソン
G・ジョンソン
→ライト=フィリップス(87分)
A・コール
MF
バリー
ランパード
ミルナー
→J・コール(64分)
ジェラード
FW
ルーニー
デフォー
→ヘスキー(71分)