日本相撲協会は28日、東京・両国国技館で臨時理事会を開催し、野球賭博に深く関与していた大嶽親方(元関脇・貴闘力)と大関・琴光喜を除名または解雇、時津風親方(元幕内・時津海)を降格以上の処分とすることを決定した。また、野球賭博に関わっていた豊ノ島、雅山、豊響、豪栄道ら13力士は名古屋場所は休場となり、武蔵川理事長ら所属部屋の親方は場所終了まで謹慎となる。最終的な処分は4日の理事会で決まる。これらを踏まえ、開催中止も検討されていた名古屋場所(7月11日初日)は予定通り、実施する方針だ。
 真相究明より“興行の論理”が優先した決定と言わざるを得ないだろう。確かに形式上は、協会が設置した特別調査委員会(座長:伊藤滋・早大特命教授)が場所開催の条件として提示した勧告を受け入れた。「解雇以上」が決まった大嶽親方、琴光喜が除名となれば、現行の賞罰規定が採用されてからは初のケースだ。監督責任が問われ、謹慎となる親方には武蔵川理事長ら4名の理事が含まれており、名古屋場所は理事長代行を立てて行われることになる。理事会前には大嶽親方は自ら退職願を提出したが、受理しなかった。一見すれば、協会は厳しい姿勢を打ち出しているようにみえる。

 もし場所が中止になると、チケットの払い戻しや放映権料のカットなどで、協会は10億円単位の損害を被る。調査委員会は発足から、まだ1週間しか経っておらず、全協会員に対する取り調べはまだこれから。最悪の事態を回避するため、とりあえず決着を急いだ感が否めない。しかし、この賭博問題は現時点で関与が分かった人間を処分しただけで一件落着となる話ではないだろう。たとえば佐ノ山親方(元大関・千代大海)については、琴光喜の相談を受け、賭博の勝ち金を支払うように促したと報じられているが、今回の処分対象には上がっていない。また警察が暴力団とのつながりも含めて捜査に乗り出しており、その過程で新たな力士や親方の名前が浮上してくる可能性も考えられる。

 ただでさえ今回の問題が浮上して以降、多くの会社が懸賞金提供の取りやめを表明している。チケットの売れ行きも芳しくない。放映権を持つNHKも場所を中継するかどうか苦しい判断を迫られている。そんな中、場所を強行開催して、さらなる疑惑が発覚すれば目も当てられない。この1カ月で明るみになった暴力団幹部への維持員席の提供や胴元を通じた野球賭博は、角界と裏組織がいかにズブズブの関係であったかを世間にさらけ出した。いずれも以前から関係者では指摘されていた問題であり、昨日、今日始まったものではない。

 ところが調査委は反社会的勢力とのつながりについて確認できなかったと説明した。これでは単に賭博行為の有無が問題となるだけで、“本丸”にはたどりつかない。1場所、2場所を犠牲にしてでも、抜本的な改革に取り組まなければ、不祥事の連鎖は止まらないのではないか。今の状態が続けば相撲という競技そのものに悪いイメージがついてしまうだけだ。

<特別調査委員会の勧告を踏まえた協会の方針>

○除名または解雇
 大嶽親方(元関脇・貴闘力)、琴光喜(大関)
○降格以上
 時津風親方(元幕内・時津海)
○名古屋場所休場 
 豊ノ島(東前頭筆頭)、雅山(西前頭筆頭)、豊響(西前頭8)、豪栄道(西前頭9)、隠岐の海(西前頭10)、若荒雄(東前頭15)、千代白鵬(西十両3)、大道(東十両8)、春日錦(東十両9)、清瀬海(東十両10)、普天王(東十両12)、古市(東幕下34)、光法(東幕下53)
○名古屋場所千秋楽まで謹慎
 武蔵川理事長(元横綱・三重ノ海)、出羽海事業部長(元関脇・鷲羽山)、九重審判部長(元横綱・千代の富士)、陸奥広報部長(元大関・霧島)、八角広報部副部長(元横綱・北勝海)、阿武松親方(元関脇・益荒男)、佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)、境川親方(元小結・両国)、春日野親方(元関脇・栃乃和歌)、木瀬親方(元幕内・肥後ノ海)、宮城野親方(元十両・金親)、床池(床山)
○実態を再検討するため処分保留
 嘉風(西前頭13)、尾車危機管理担当(元大関・琴風)、阿武松部屋の他の所属力士17名

※7月4日の臨時理事会で最終決定、番付は夏場所のもの

(石田洋之)