3日、南アフリカワールドカップ準々決勝がケープタウンで行われ、アルゼンチン(FIFAランキング7位)とドイツ(同6位)が対戦した。前半3分、フリーキックのボールにあわせたMFトーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)がヘディングでゴールネットを揺らす。その後アルゼンチンがペースを握りかけるものの、組織だったドイツの守備が得点を許さない。後半に入り、中盤にスペースが出来始めると互いの攻撃に鋭さが出始める。次の1点を決めたのはドイツだった。左サイドを突破し最後はFWミロスレフ・クローゼ(バイエルン・ミュンヘン)がゴール前で押し込みリードを2点に拡げる。その後、さらに2点を追加したドイツが圧倒的破壊力を持つアルゼンチンFW陣を完封し、4対0で試合終了。今大会で話題を集めた両チームの対戦は意外な大差がつきドイツが準決勝進出を果たした。一方、今大会の主役候補と目されていたリオネル・メッシ(バルセロナ)は1ゴールもあげることなく大会を去った。

 クローゼ、ゲルト・ミュラーに並ぶW杯通算14ゴール(ケープタウン)
アルゼンチン 0−4 ドイツ
【得点】
[ド] トーマス・ミュラー(3分)、ミロスラフ・クローゼ(68分、88分)、アーネ・フリードリッヒ(73分)

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 ディエゴ・マラドーナ監督に率いられグループBを3連勝で通過したアルゼンチンは、1回戦でメキシコを下してベスト8入りを果たした。一方のドイツはグループDで苦しみながら首位を死守し、イングランドとの激戦を制してここまで勝ち上がってきた。今大会で大きな話題となった誤審問題で恩恵を受ける側となった両者の対決だが、もともとアルゼンチン−ドイツ戦はW杯の歴史を彩ってきたカードといえる。86年メキシコ大会、90年イタリア大会では連続して決勝で対戦し(当時、ドイツは西ドイツ)、86年はアルゼンチン、90年はドイツがW杯を持ち帰っている。86年の主役はもちろんマラドーナだった。

 前回のドイツ大会でも準々決勝で顔を合わせている両者は、1対1のままPK戦に突入し地元ドイツが激戦を制した。W杯での対戦で両者が2点以上の差をつけたのは1958年スウェーデン大会までさかのぼらなければならない。激闘必至のカードに世界中の視線が集まった。

 接戦が予想された試合は、開始早々に動き出す。前半3分、左サイドでMFルーカス・ポドルスキー(ケルン)が倒されて得たフリーキックをMFバスティアン・シュバインシュタイガー(バイエルン・ミュンヘン)がニアサイドへクロスをあげる。そこへ走り込んだのはミュラーだった。マークを完全に振り切ると、点でクロスにあわせていきヘディングシュート。セーブを試みたGKセルヒオ・ロメロ(AZ)はこのシュートを足に当てるのが精一杯だった。ミュラーの先制弾がいきなり突き刺さり、ドイツが先制した。

 ドイツはこれまでの試合と同様、人もボールもよく動くサッカーを展開した。特に組織立った守備で破壊力のあるアルゼンチン攻撃陣になかなか決定機を作らせない。中でも献身的な動きをみせたのは両サイドバックのフィリップ・ラーム(バイエルン・ミュンヘン)とイェロメ・ボアテンク(ハンブルク)だった。サイドからの攻撃を封じられアルゼンチンは攻めのリズムを作ることができなかった。また、エースのメッシがボールを持てばMFサミー・ケディラ(シュツットガルト)とシュバインシュタイガーが早めにチェックにいき、自由にボールを持たせる場面は少なかった。

 攻めの形が作れないアルゼンチンが初めて枠内シュートを放ったのは前半33分。FWカルロス・テベス(マンチェスター・シティ)からのボールを受け、右サイドに開いたMFアンヘル・ディ・マリア(ベンフィカ)がカットインしながらシュート。これは力なくGKマヌエル・ノイアー(シャルケ)がキャッチする。アルゼンチンはあまりいいところなく45分を過ごし、後半に巻き返しを図った。

 ハーフタイム後はアルゼンチンが攻勢に出る。3分、PAやや外からディ・マリアが無回転シュートを放つも、これは枠の左へと外れる。さらに18分、いい形で前を向いたメッシから左サイドへスルーパスが出る。それを受けたFWゴンサロ・イグアイン(レアル・マドリッド)が右足でシュート。ここもノイアーに阻まれるが、この時間帯はドイツのプレッシャーも緩み中盤にスペースができていた。結果的に、アルゼンチンはここで追いつけなかったのが痛かった。

 ドイツに2点目が入ったのは、アルゼンチンが前がかりになっていた23分だ。左サイドでケディラのパスを受けたミュラーがDFマルティン・デミチェリス(バイエルン・ミュンヘン)に潰されながらも、スルーパスを出す。アウトサイドから駆け上がってきたポドルスキーがDFラインの裏側に抜け出し、グラウンダーのクロスを出す。DFラインとGKの間にコントロールされたボールはアルゼンチンDFたちをあざ笑うかのようにゴール前で待つクローゼの足元へと収まる。余裕を持ってトラップしたクローゼがボールをゴールへと流し込みドイツがリードを2点と拡げる。先制点を叩き込んだミュラーが今度は見事なポストプレーからクローゼの得点を演出した。クローゼにとってこのゴールは今大会3得点目となった。

 ドイツは意気消沈のアルゼンチンをさらに攻め立てる。28分には左サイドからのショートコーナーでシュバインシュタイガーがアルゼンチン陣深くまで侵入しラストパスを出す。最後はセットプレーで上がっていたDFアーネ・フリードリッヒ(ヘルタ・ベルリン)が粘り強く押し込んでダメ押し。さらに試合終了間際の43分、カウンターのチャンスで左サイドからMFメスト・エジル(ブレーメン)が絶妙のクロスをあげる。ゴール前のクローゼは右足でそれをゴールへと叩き込みこの日2点目。クローゼはW杯通算ゴールを14に伸ばし、ドイツの伝説的ストライカー、ゲルト・ミュラーの記録に並んだ。ロナウドが持つW杯通算最多ゴール記録にもあと1つと迫るゴールで、アルゼンチンにとどめをさした格好だ。

 一方のアルゼンチン攻撃陣は堅固なドイツDFラインの前に沈黙する。連動性のある動きで数的優位を作るドイツ守備陣に全く歯が立たなかった。この試合では「個で攻めるアルゼンチン、組織で組みたてるドイツ」という構図が成り立っていたが、後者が圧倒的なパフォーマンスをみせる結果となった。

 ドイツは若いチームと言われながらもベスト4まで勝ち上がってきた。エジル、ミュラーら若手に加え、年齢の割には貫禄と経験豊富なシュバインシュタイガーやポドルスキーが確実な仕事をこなし、ラームやクローゼといったベテランがチームを引っ張っている。年齢のバランスは非常によく、ヨアヒム・レーヴ監督が作りあげたチームは出場32カ国の中でも最もまとまったチームといえよう。次戦はおそらくスペインとの対戦となる。こちらも中盤に魅力あふれる選手が揃う。ミュラーの累積警告による出場停止が痛いが、準決勝ではどのようなパフォーマンスをみせてくれるのか。イングランド・アルゼンチンといった強豪から4点を奪った勢いそのままに、スペインを止める可能性もある。EURO08決勝で敗れた相手に対し、W杯で結果を残してきたドイツが挑戦状を叩きつける。

(大山暁生)

【アルゼンチン】
GK
ロメロ
DF
デミチェリス
ブルディッソ
エインセ
オタメンディ
→パストーレ(70分)
MF
マスチェラーノ
M・ロドリゲス
ディ・マリア
→アグエロ(75分)
FW
メッシ
テベス
イグアイン

【ドイツ】
GK
ノイアー
DF
フリードリッヒ
メルテザッカー
ラーム
ボアテンク
→ヤンゼン(72分)
MF
ケディラ
→クロース(77分)
シュバインシュタイガー
ポドルスキー
ミュラー
→トロホウスキー(84分)
エジル
FW
クローゼ