7日、南アフリカワールドカップ準決勝がダーバンで行われ、ドイツ(FIFAランキング6位)とスペイン(同2位)が対戦した。立ち上がりから圧倒的にボールを支配したスペインが主導権を握る。しかし、堅守のドイツDFを崩すには至らずスコアレスのまま前半を折り返す。後半に入ってもスペインが攻撃を続けると28分、コーナーキックからDFカルレス・プジョル(バルセロナ)がヘディングで値千金の先制弾を決める。これが決勝点となり、スペインが史上初となる決勝進出を果たした。ドイツはこれまでチームを牽引したトーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)の欠場が響いた格好で、3位決定戦にまわりウルグアイと対戦する。決勝はオランダ対スペインの組み合わせとなり、どちらが勝っても初めてW杯を手にすることになった。

 圧倒的なポゼッションみせ、W杯でドイツを初めて下す(ダーバン)
ドイツ 0−1 スペイン
【得点】
[ス] カルレス・プジョル(73分)

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 決勝進出をかけた大一番は海抜0mのダーバンで行なわれた。準々決勝から中3日で試合に臨んだドイツは累積警告でミュラーを欠いていた。そのため、中盤の右サイドにはピオトル・トロホウスキ(ハンブルク)が入る布陣となった。他はこれまでと変わらず4−2−3−1のフォーメーション。今大会4ゴールをあげているFWミロスラフ・クローゼ(バイエルン・ミュンヘン)はW杯通算ゴールを14としており、あと1ゴールで最多ゴール記録を持つロナウドに並ぶ。クローゼにゴールが生まれるかにも注目が集まった。

 対するスペインも中3日での試合。前戦では先発していたフェルナンド・トーレス(リバプール)がベンチからのスタートとなり、ペドロ・ロドリゲス(バルセロナ)が試合開始からピッチに立った。その他はこちらも不動のメンバーで、ワントップのダビド・ビジャ(バルセロナ)はこれまで5ゴールをあげ、オランダのヴェズレイ・スナイデル(インテル・ミラノ)と並び得点ランクトップに立っている。得点王にむけ、彼のゴールにも期待がかかった。

 試合が始まると、立ち上がりからスペインがボールを保持する。中盤でシャビ・エルナンデス(バルセロナ)とシャビ・アロンソ(レアル・マドリッド)がうまく距離を保ちながらパスを回すと、アウトサイドに開いたアンドレス・イニエスタ(バルセロナ)がボールを受けてチャンスを作る。さらにペドロもドリブルで相手陣内へと度々侵入し、攻撃にアクセントをつけていった。両サイドバックのジョアン・カプテビラ(ビジャレアル)とセルヒオ・ラモス(レアル・マドリッド)も積極的な上がりをみせ、効果的なクロスをあげていく。ワントップのビジャもよくボールに触り、ドイツ陣内でゲームを進めることが多かった。

 一方、これまでの戦いぶりからドイツもある程度積極的な試合運びを見せるかと思われたが、今日は完全に受け身の姿勢となった。圧倒的にボールを持たれたため、なかなかプレスをかけることもできない。中盤でバスティアン・シュバインシュタイガー(バイエルン・ミュンヘン)が孤軍奮闘し、果敢にボールを奪取するものの、これが攻撃に繋がることは少なかった。ドイツの前半のシュートは32分に放たれたトロホウスキのミドルシュート1本のみ。これまで創造性豊かな動きで魅了してきたMFメスト・エジル(ブレーメン)も、今までのような輝きを見せることはできなかった。

 前半をスコアレスで折り返し後半に入ってもスペインペースの試合が続いた。特に後半開始から20分過ぎまでのスペインの波状攻撃は、今大会で無敵艦隊がみせた最も迫力のある攻めだった。4分には右サイドに開いたペドロからのグラウンダーのクロスをPA付近まで上がってきたシャビ・アロンソがミドルシュート。さらに10分にはゴール正面からシャビの出したパスを受けたビジャが右足でカーブをかけながらゴール右隅を狙う。いずれも枠をとらえるには至らないものの、ゴールの可能性を感じるプレーだった。

 対するドイツは押し込まれながらも、DFラインが踏ん張りPA付近でファウルを犯さなかった。これが功を奏し、決定的な場面は数えるほどで耐えていた。しかし、後半10分過ぎからは高い位置でキープできていたDFラインが少しずつ下がり始め、スペインの中盤にスペースを与えてしまう。そうなることで、スペインにフリーキックやコーナーキックなどセットプレーの機会が増えていき、徐々に失点の可能性が高まっていった。

 スペインに立て続けに決定機が生まれたのは13分だ。細かいパス回しからPA少し外でシャビがボールを持つと鋭く右足を振りぬく。シュートはしっかりと枠をとらえるが、これはGKマヌエル・ノイアー(シャルケ)が好セーブをみせ弾き返す。さらにこぼれ球を拾ったスペインは、ボールを繋いで左サイドへと展開。パスを受けたイニエスタがDFを振り切り低いクロスを上げると、ファーサイドへ飛び込んだのはビジャだった。GKも反応できない鋭いパスにビジャが足を伸ばすものの、惜しくもあわせることができない。

 攻め込まれていたドイツにこの試合唯一の決定機が生まれたのは24分だ。左サイドでMFルーカス・ポドルスキ(ケルン)とエジル、途中出場のマルセル・ヤンゼン(ハンブルク)がパスを交換しながら徐々に上がっていくと、エジルのスルーパスに反応したポドルスキがファーサイドへクロスをあげる。ゴール前に走りこんだクローゼを越えたボールは右サイドから走りこんだ、こちらも途中出場のトニ・クロース(レバークーゼン)の足元に届く。クロースはダイレクトで抑えの効いたシュートを放つが、コースが甘くGKイケル・カシージャス(レアル・マドリッド)のセーブにあい得点にはならない。これまで同じような形でゴールを重ねてきたドイツは、クロースの位置にミュラーが入っていた。イングランド戦ではミュラーがこの形でゴールを決めていただけに、彼の欠場が悔やまれる場面となった。

 絶体絶命のピンチをしのいだスペインに歓喜の瞬間が訪れたのは後半28分。左サイドからのコーナーキックでシャビが高いボールを入れる。するとゴールからやや離れた場所からプジョルがノーマークで選手が密集するエリアに飛び込んでいく。頭ひとつ抜けたプジョルのヘッドにシャビのボールがピタリとあい、強烈なシュートがゴールを襲う。ノイアーも懸命にパンチングを試みたものの、わずかに及ばずボールは豪快にゴールネットを揺らした。圧倒的に攻め続けたスペインがセットプレーから待望の先制点をあげた。流れの中では紙一重のところで踏ん張りをみせていたドイツも、プジョルの迫力あるヘディングを止めることはできなかった。

 追いつかなければいけないドイツは35分にマリオ・ゴメス(バイエルン・ミュンヘン)を投入しクローゼとのツートップで同点ゴールを狙う。さらに身長198センチのセンターバック、ペア・メルテザッカー(ブレーメン)を前線に残しパワープレーにでるものの、スペインDF陣が最後まで集中の切れない守備をみせチャンスを作らせない。このまま試合は1対0で終了し、スペインがドイツを下し史上初のW杯決勝進出を果たした。一方のドイツは2大会連続で3位決定戦に回ることとなった。

 これまで好不調の波が激しかったスペインは、準決勝では小気味よいサッカーを披露した。調子の上がらなかったF・トーレスを外しペドロを起用したビセンテ・デル・ボスケ監督の采配も当たった。終盤にはビジャに変わってF・トーレスもピッチに立ったが、まだ本調子にはほど遠い動きで、おそらく決勝もビジャのワントップでくるだろう。初優勝をかけた決勝の相手は攻撃サッカーが身上のオランダだ。過去を振り返ると決勝戦は守備的な試合が多くなりがちだった。しかし、この組み合わせでディフェンシブな戦いになることはあり得ない。互いに初優勝をかける決戦は、素晴らしい試合になること間違いなしだ。

 敗れたドイツはこれまで素晴らしいサッカーを展開してきたが、今日の試合では最後までそれを披露することはできなかった。やはりエジルとともにチームに勢いを与えてきたミュラーの欠場は痛かった。準々決勝でミュラーが警告に値しないようなプレーでイエローカードをもらってしまった時点で、ドイツの敗北は濃厚になっていたのかもしれない。3位決定戦ではミュラーはピッチに戻ってくる。エジル、ミュラー、ケディラといった若い才能が躍動した今大会を締めくくるためにも、3大会連続での3位以内を死守したい。

(大山暁生)

【ドイツ】
GK
ノイアー
DF
メルテザッカー
フリードリッヒ
ラーム
ボアテンク
→ヤンゼン(52分)
MF
ケディラ
→ゴメス(80分)
シュバインシュタイガー
ポドルスキ
エジル
トロホウスキ
→クロース(62分)
FW
クローゼ

【スペイン】
GK
カシージャス
DF
プジョル
ピケ
カプテビラ
S・ラモス
MF
ブスケッツ
X・アロンソ
→マルチェナ(90+3分)
シャビ
イニエスタ
ペドロ
→D・シウバ(85分)
FW
ビジャ
→F・トーレス(80分)