今回のW杯に限っていえば選手よりもボールが主役だった。
 周知のように今回のW杯ではアディダス社の「ジャブラニ」が採用された。

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 では「ジャブラニ」とは、どういう性質を有したボールなのか。表面皮革パネル数は前大会使用球の「チームガイスト」(アディダス社)の14枚から6枚も減らし、8枚とした。これにより限りなく真球に近いボールとなり、空気抵抗が少なくなった。

 いってみればバレーボールのボールを地面で蹴っているようなものである。選手たちが戸惑ったのも無理はない。
 名手と呼ばれるGKが正面のボールをファンブルしたり、大会屈指のテクニシャンが信じられないほどシュートをフカすシーンが相次いだ。

 少年の頃、ペレのバナナシュートを真似したことがある。鋭いカーブを描くバナナシュートは少年たちの憧れだった。

 これもボールの影響なのだろう。今回は直接FKがわずか4本しか決まらなかった。弧を描いたビューティフルゴールは遠藤保仁とディエゴ・フォルランが決めたものぐらいではなかったか。

 古いと言われるかもしれないが、昔のボールの方に親近感を感じる。“足自慢”たちの競演こそがW杯の華だろう。

 NHKの元アナウンサー山本浩さんの常套句は「曲げてきたァ!」だった。FKの位置にボールがセットされた時点で胸がドキドキしたものだ。あの興奮はもう得られないのだろうか…。