沖縄女子剣道界のパイオニア的存在。それが新里知佳野、28歳だ。現在、母校の日本体育大学で教鞭をとりながら、同校剣道部女子の監督として後進の指導にあたっている。現役としての目標は未だ達成されていない日本、そして世界の頂に立つことだ。沖縄から気候も文化も異なる東京へと出てきて早11年。彼女は今、何を思い、何を極めようとしているのか。当サイト編集長・二宮清純が彼女に独占インタビューした。
二宮: 高校を卒業して、沖縄から東京に来たときは気候の違いにとまだったのでは?
新里: はい。大学での寒稽古が早朝5時半からあるのですが、寒くて手がかじかんで動かなかったことを覚えています。ひもが強く縛れなくて大変でした(笑)。それくらい寒さに弱かったですね。

二宮: 経験したことのない寒さだったでしょう?
新里: そうですね。昨年は1年間、国体で新潟の方にいたのですが、ここは本当に寒かったですね。大雪に見舞われて、車が見えなくなるほど積もった時は、本当にビックリしました。

二宮: そんな苦労もいとわず、剣道一筋でこられたわけですが、これまで剣道をやめたいと思ったことはありませんでしたか?
新里: やめたいというところまではいきませんでしたが、どん底を経験したことがあります。大学3年生で初めて世界選手権に出場したのですが、その3年後、台湾での世界選手権の選考で落とされてしまったんです。その時は世界選手権を目標にして進路を決めたり、生活の全てをかけてやっていたので、最後に落選した時は本当にショックでした。もう現役を続けるのはやめたほうがいいんじゃないかと、すごく悩みましたね。でも、台湾で世界選手権を観た時に、「やっぱりこの舞台にもう一度立ちたい」と思ったんです。そこからまた気持ちを切り換えて頑張った結果、昨年の世界選手権では個人で3位に入ることができた。もう、嬉しかったですね。

二宮: 同じ日本古来の武道である柔道にはオリンピックがあります。剣道のオリンピック採用については賛否両論ありますが、新里さんはどのように考えていますか?
新里: 私はオリンピックには採用すべきではないと思っています。競技性が強くなると、剣道がこれまでずっと大事にしてきた文化や精神的なものが失われてしまうのではないかと思うからです。

二宮: 剣道が大事にしてきたものとは?
新里: 敵として競うというよりは、相手を尊重しながらお互いに高めあう。私自身はそういったものを大事にしていきたいと思っています。

二宮: 座右の銘は?
新里: 今、自分のひとつの拠り所としているのは「継続」という言葉です。前述したように台湾での世界選手権では選考で落ちてしまって一時は諦めかけました。本当にやめてしまえばそこで終わりだったのですが、それでも続けてきたことで可能性が広がりました。そういう経験を通して「継続は力なり」という言葉を大事にしています。
 また、学生への指導に対してもそうですね。自分が新しいことをやるのではなく、自分が教わってきたことを継承していく。競技者としても指導者としても「継続」という言葉を大事にしてやっていきたいと思っています。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2010年7月5日号)に新里監督のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>