パナソニック第5回世界大学野球選手権大会が30日、開幕する。日本初開催となる今大会は、8月7日までの9日間、明治神宮野球場、横浜スタジアムなどで行なわれる。参加するのはカナダ、中国、韓国、キューバ、米国、スリランカ、チャイニーズタイペイ、そして日本の8チームだ。エースの斎藤佑樹(早大)、主将の伊志嶺翔大(東海大)ら今秋のドラフト指名候補選手がズラリと顔を揃えた日本は、初の金メダルを目指す。
(写真:決勝の舞台は学生野球のメッカ、神宮球場)
 将来、日本球界を背負って立つであろう好投手や強打者が多く集う現在の大学球界。なかでも今年の4年生は『黄金世代』『ドラフトの宝庫』とも言われ、例年以上にハイレベルだ。この世代の代表格といえば、やはり斎藤だろう。史上初となる4年連続の代表入りを果たした右腕はチームリーダーとしての役割も担う。同選手権では2年前の前回大会、準決勝の韓国戦で1失点完投勝ちし、チームを2大会ぶりとなる決勝進出へと導いた。

 今回、予選ラウンドの初戦(30日)では、その韓国といきなり激突する。先発が予想される斎藤は29日の公式練習でブルペン入りし、40球を投げて最終調整を行なった。「軽く放ってもいいボールが来ていた。彼は強い星を持っている。やってくれると信じている」。榎本保監督(近大)が信頼を寄せるエースが、チームを波に乗せる投球ができるかがカギを握る。その斎藤をも凌ぎ、「大学ナンバーワン」と呼び声高いのが大石達也(早大)だ。六大学リーグでは1年秋から3年春まで38回2/3を連続無失点。今春は通算129回を投げ、188奪三振をマークした。最速155キロの速球を武器に最後を締めくくる抑えとしてフル回転が予想される。

 26日に行なわれたNPBフレッシュ選抜との壮行試合では3年生投手が躍動した。最終回、2奪三振無失点に抑えた菅野智之(東海大)は6月の全日本大学野球選手権で7回参考記録ながらノーヒットノーランを達成。早くも来年のドラフト1位候補の筆頭株に浮上している。最速155キロの直球ばかりが注目されるが、カットボールやフォーク、スライダーのキレも抜群だ。榎本監督が「最後(決勝の先発)は斎藤か菅野で悩むんじゃないか」と語るほど状態もいい。本人も「早く投げさせてほしい」と指揮官に直訴するほどで、ジャパン投手陣の切り札的存在として期待が持てる。

 同じく3年生の藤岡貴裕(東洋大)はNPBフレッシュ選抜戦で先発を任され、5回まで内野安打1本に抑えて無失点と大役を果たした。東都大学リーグでは39イニング連続無失点を記録。日本選手権では菅野に投げ勝ち、MVPに輝いた。今や大学球界屈指の左腕と言っても過言ではない。スピードこそ140キロ台半ばだが、キレがあり、プロ選手のバットを砕くほどの威力がある。また打者のタイミングを外す大きく割れるカーブも魅力だ。左腕では東洋大で藤岡の先輩にあたる乾真大にも注目したい。8月1日に予選ラウンド最終戦で激突するキューバは左投手に弱い傾向がある。榎本監督は「ブルペンで一番いいボールを放っている。(キューバ戦では)必ず放ってもらう」と明言した。

 唯一の不安材料は先発の柱だった157キロ右腕・沢村拓一(中央大)の右脇腹痛による離脱だろう。「2戦目(対中国)の先発として期待していた。抜けた穴は大きい」と指揮官も痛手であることは隠さない。31日の中国戦は、明治大の3年生エース野村祐輔が先発の最有力候補だ。沢村の代役として抜擢された加賀美希昇(法政大)は186センチの長身。最速152キロの直球は角度があり、打者の手元で低めにグッと伸びる。外国人打者には有効だろう。チェンジアップ、フォークボール、100キロ台のスローカーブと豊富な変化球の制球力も抜群で大崩れしない。ぶっつけ本番で大会に臨むため、榎本監督は早めに中継ぎで起用し、実戦感覚を取り戻させる方針だ。

 投手陣の心配を吹き飛ばすためにも、打線の援護は欠かせない。野手では主将の伊志嶺が走攻守三拍子揃っている逸材だ。強肩で50メートル5秒7の俊足の持ち主。守備範囲が広く、打撃でも6月の大学選手権では11打席連続出塁、打率6割で首位打者に輝いた。大学生ナンバーワン野手として今秋のドラフトでも上位指名候補者に名を連ねている。直前のフレッシュ選抜戦までは3番に座っていたが、「彼が塁に出れば、いろんな野球ができる」(榎本監督)と大会では1番を打つことになりそうだ。

 代わって3番には慶大の主砲・伊藤隼太が入り、4番は初代表の井上晴哉(中央大)が担う。180センチ、100キロの巨漢から繰り出すパワーはホンモノ。今春リーグ戦では推定135メートル、神宮球場バックスクリーン横へ特大アーチを放った。アベレージも高く、秋のリーグ戦では打率3割5分9厘で首位打者を獲得している。今大会に向けては外国人の速球に振り負けないようバットを一握り半短く持ち、確実性を重視してきた。短期決戦は先取点が試合の行方を左右するだけに、早めの援護で逃げ切り態勢をつくりたい。

「(候補選手から)誰を落とすか苦しんで、夜も考えては寝て、考えては寝てを繰り返した」と榎本監督が明かすほどの高次元での競争の末、選ばれた22名の代表選手たち。狙うはもちろん地元開催での初優勝だ。過去4大会、日本は準優勝が最高。前回も決勝で延長戦の末、米国に惜敗し、涙を飲んだ。その米国、キューバが金メダルへの最大のライバルになることは間違いない。

「ここまで来たら金、金と選手たちにはプレッシャーをかけずに一戦必勝で、一戦一戦切り替えてやっていきたい」(榎本監督)
 昨年のWBCでは日本は連覇を達成し、実力を世界に示した。未来のWBC戦士たちとも言える彼らが、後に続くことはできるのか。神宮球場のセンターポールに日の丸を揚げるための戦いがいよいよ幕を開ける。

<第5回世界大学野球選手権スケジュール>

(予選ラウンド)※日本戦のみ
7月30日(金) 18時 日本−韓国(神宮)
7月31日(土) 18時 中国−日本(神宮)
8月 1日(日) 12時 日本−キューバ(神宮)

(決勝トーナメント)※組み合わせは予選ラウンド終了後に決定
8月 3日(火) 準々決勝(横浜、神奈川工科大KAITスタジアム)
8月 4日(水) 準々決勝(横浜)
8月 5日(木) 準決勝(横浜)
8月 7日(土) 決勝、3位決定戦(神宮)