1部に復帰し、2年目を迎えた伊予銀行女子ソフトボール部。昨季の屈辱を晴らすかのように開幕は接戦をモノにし、幸先よく白星スタートを切った。だが、その後は5連敗を喫するなど、結局前節は3勝8敗に終わった。3チームが2勝9敗で並んだため、現在は9位だ。しかし、決して楽観視することはできない。今後は国民体育大会の予選などもあり、チームにとってはまさに繁忙期となる。その中で後節はどのようにして戦っていくのか。大國香奈子監督に前節で得た課題を踏まえて展望を訊いた。


「とりこぼしが多すぎましたね」
 前節での戦いについて訊くと、指揮官はこう言ってため息をひとつもらした。そこには悔しさがにじんでいるのが電話の向こうからもよくわかった。それもそのはずだ。8敗のうち実に4試合が1点差もしくは2点差での敗戦なのだ。その要因として、大國監督は気持ちの面をあげた。

「昨年よりも競ったときにがむしゃらさが足りなかったような気がします。というのも、今季は秋元理紗コーチが加わり、練習試合も数多くこなしました。昨季以上に環境がよくなり、開幕前にしっかりと準備をすることができたことで、その自信が逆に油断になってしまったのかなと。特に0対1で負けたHonda戦は坂田那己子がベストピッチングでわずか2安打に抑えたにもかかわらず、守備のミスで与えた1点に泣いたんです。しかも、こっちは12残塁でした。実は、Honda戦の前のルネサスエレクトロニクス高崎戦で負けはしたものの、強豪相手に4対6と善戦することができたんです。もしかしたら、そのことで選手たちの間に『いけるかもしれない』という安易な考えが無意識に出てきたのかもしれないと感じていました」

 大國監督がとうとうしびれを切らしたのは、第3節の太陽誘電戦だ。今季最多となる19失点で完封負けを喫したのだ。
「本当は選手たち自身で気づいて欲しかったのですが、あまりの大敗にさすがにここは締めていかなければと試合後、ミーティングを開きました。チームとしてひとつになっていないということを指摘したんです」

 特に指揮官が強く求めたのはレギュラー選手の意識改革だった。それまでチームではベテラン・中堅選手が若手を手取り足取り世話をしていた。それは大國監督から見れば、ただの“馴れ合い”でしかなかった。
「結局、選手がチーム内のことしか見えていなかったんですよ。相手に勝つことにこだわっていれば、人のことなんか構っている余裕はないはずです。自然と自分のことだけで、いっぱいいっぱいになりますよ。そういう必死さをレギュラーの選手が先頭に立って出していかなければ、チームは決して強くはなりません」

 ミーティングの間、指揮官の怒声に選手たちは一様に神妙な顔をしていたという。一人ひとりが、何か思うところがあったのだろう。翌日のシオノギ製薬戦、伊予銀行は3対1で勝利した。実に6試合ぶりの白星。チームが再び同じ方向へと歩みを進めたことで掴んだ貴重な1勝であった。

 得てして、強いチームは選手層があつく、チーム内で熾烈なポジション争いが行われているものだ。大國監督もチームのレベルアップには“競争”は不可欠だと考えている。現在、スタメンはおおよそかたまっているが、ライトのポジションだけはレギュラー争いが続いている。仙波優菜選手と相原冴子選手だ。相原選手よりも1つ上の仙波選手はミートセンスに長け、つなぐバッティングが得意だ。しかし、すぐに調子にのってしまいがちなところがあり、もっと周りを見れるようになってほしいと大國監督は言う。一方、相原選手は逆だ。守備では強肩を誇り、打撃でも思いっきりのよさや長打力がウリの彼女だが、ほんの些細なミスにも、すぐに落ち込んでしまうのだ。もちろん、相手投手との相性もあるが、その日、気持ちの面でどちらが冷静かつ強いかを見て使い分けているのだという。前節のスタメン出場は相原選手が6試合、仙波選手が5試合。後節も2人の争いは続きそうだ。

 大國監督がもう一人、競争心を持ってもらいたいという選手がいる。積極的なバッティングが買われ、今季からDHに抜擢されている川口茜選手だ。
「川口も肩が強いので、守備をさせたいという気持ちはあるんです。でも、本人としては自信がないのか、他の選手に遠慮をしているのか、どうも守備には消極的なんです。もっと欲を出して欲しいと思っているんですけどね」
 バッティング同様、川口選手が殻を破って外野のポジション争いに加わった時、彼女自身はもちろん、チームも一段と成長するのかもしれない。

 さて、後期に向けて群馬県で行なわれた強化遠征(7月5〜10日)では連日、ルネサス(5〜8日)、太陽誘電(9、10日)と試合を行なった。そこでの課題はバッテリー。前節の戦いを通して大國監督はキャッチャーだけでなく、ピッチャー自身が打者をよく観察し、配球を考えなければいけないと痛感したからだ。

「私が現役時代はピッチャーも打席に立っていたんです。ところが、今はそういうピッチャーはめっきり少なくなってきました。そのために打者心理がわからないんです。よく見ていれば、グリップの持つ位置やバットのヘッドの向き、それにバッターボックスの立ち位置などで、打者の狙い球や狙いどころがわかるんですけどね」
 後節もバッテリーが勝敗のカギを握りそうだ。

 8月15日には国体の四国予選を控えている伊予銀行。リーグ戦とは違い、国体は一発勝負となる。さらにベンチ入りの枠はわずか13名。つまりベンチ要員は3名に限られ、その中でやり繰りしていかなければならないのだ。果たして、戦い方はどう変わってくるのか。
「選手起用という点では、一発勝負の国体では調子のいい選手から使っていくことになるでしょうね。ただ、戦い方は同じです。バッティングも大事ですが、やはりそこは水もの。重要なのは失点をいかに防ぐことができるか。そのためにも守備でのミスをしないことです」

 今年は全国で例年以上の猛暑に見舞われている。本州のチーム以上に連泊での遠征が多い伊予銀行にとって、心身ともにこれからが正念場となりそうだ。今季のチームスローガンは「どんな時も下を向かず、元気にプレーすること」。後節、そして国体で選手のハツラツとしたプレーが見られることを期待したい。



◎バックナンバーはこちらから