ラグビー日本代表(ジャパン)はW杯では1991年のイングランド大会で1勝をあげて以来、2勝目が遠い。4年後に日本開催が迫る中、18日にイングランド大会が開幕する。12年4月から指揮を執るエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)にとっては、集大成となる大会だ。これまでエディーに率いられたジャパンは、13年6月に強豪ウェールズ代表に初勝利し、同年11月からは日本歴代最多となるテストマッチ11連勝を飾った。世界ランキングも一時、史上最高の9位に上昇(現在は15位)するなど、目標に掲げる「W杯ベスト8」も決して夢ではない。指揮官のフィロソフィーにジャパンのHC就任直前の原稿で迫る。
<この原稿は2012年2月5日号『ビッグコミックオリジナル』(小学館)に掲載されたものです>

 切り札登場と言っていいだろう。昨季、就任1年目で日本選手権を制したサントリー・サンゴリアスのGM兼監督のエディー・ジョーンズが、この4月から日本代表の指揮を執ることになった。

「誇りに思うし、日本代表を世界のトップ10までに持っていく自信はある」
 エディーはきっぱりと言い切った。

 昨年秋、ニュージーランドで開催された第7回ラグビーW杯はホストカントリーの2度目の優勝で幕を閉じた。2勝を目標に臨んだ日本代表は1分け3敗でグループリーグで敗退した。
 物議をかもしたのは2戦目のニュージーランド(オールブラックス)戦だ。日本代表のヘッドコーチ(HC)のジョン・カーワンは勝負を避け主力を温存し、控えを中心としたメンバーで戦った。5日後のトンガ戦、11日後のカナダ戦に備えるためだ。

 しかしカーワンの賭けは凶と出た。オールブラックス戦の大敗(7対83)でチームの士気は低下し、トンガには完敗。カナダには「負けに等しい引き分け」(清宮克幸ヤマハ発動機ジュビロ監督)に終わった。
 大会後、カーワンは「勝ちにこだわり過ぎて、それが重圧になった」と言って唇を噛んだ。

 残念だったのはオールブラックス戦で惨敗を喫したことではない。世界最強の相手との“ガチンコ対決”を回避したことで彼我の実力差を確認できなかったことである。勝ち負けも大事だが、それよりも尊ぶべきは敢闘精神ではなかったか。

 エディーの考えはどうか?
「テリブル(ひどい)」
 第一声がそれだった。

「ワールドカップは4年に1度しかありません。毎試合勝ちたいという強い思いがなければ戦い抜けません。
 残念ながらカーワンHCは、大会が始まる前に“目標は2勝です”と言った。これは最初から“2試合負けますよ”と言っているようなもの。日本が弱い国ならば、なおさら“どの試合も勝つ”という強い意志と具体的な目標がなければいけません。日本代表は4年に1度のチャンスを意義あるものにすることができませんでした」

 では、どうすれば日本代表は飛躍できるのか。
「日本人選手は諸外国の選手と比べると相対的に小さい。これをハンディキャップと見る向きもありますが、逆に言うと他のチームは日本のラグビーを真似できない。つまり、体が小さいことは、むしろ強みなんです。
 問題は体の小ささをどういかすかということです。スピードと頭脳、スキル。ここを伸ばさなければ世界に伍して戦うことはできません。
 たとえばサッカーを見てみましょう。この前、日本とシリアのロンドン五輪予選を見ました。日本人選手のスキルレベルは素晴らしく、相手を圧倒していました。
 そう言うと“コンタクトスポーツのラグビーとサッカーは違う”と反論する向きもあるでしょうが、フィットネスを高め、正しいテクニックを身につけることで、そうした問題は解決していきます。サッカーにできてラグビーにできないことはないでしょう」

 32歳で現役を引退したエディーが指導者としての第一歩を刻んだのは東海大学だった。オーストラリアに帰国してからはブランビーズを率いて、2001年スーパー12で優勝。03年W杯ではオーストラリア代表(ワラビーズ)を準優勝に導いた。
 目標としていた世界一は南アフリカのテクニカル・アドバイザーとして07年W杯で達成する。「夢がかなった瞬間だった」と本人は語っている。

 サントリーを直接、指導したのは96年から97年にかけて。それ以降もテクニカル・アドバイザーとして強化の一端を担ってきた。
 09年にロンドンのサラセンズを指導していた時、サントリーの土田雅人強化本部長から「2人でチームを建て直したい」というオファーを受け、GMとしてチームに復帰した。
「久しぶりにチームに戻ってきて、あまりにも変わってないことに驚いた。世界のラグビーが日々、進化しているのに、ここだけは何も変わっていない。それこそが一番大きな問題だったのです」

 翌シーズンから監督兼任に。エディーは指揮を執るにあたり、明確なコンセプトを打ち出した。
<日本NO.1の攻撃型ラグビー。日本NO.1のファイティングスピリッツ>
 大を為すには、まずは小からだ。コミュニケーションの重要性を説くエディーは食堂内での携帯電話使用を禁止した。
「強いチームは選手間のコミュニケーションを大切にします。ところがサントリーでは夕食をとりながら携帯電話をいじっている選手が多かった。これを禁止したことで選手たちが同じ時間を共有することができるようになりました」

 またエディーは選手ひとりひとりとヒザを交えて徹底して話し込んだ。
「スタメンの15人はもちろん、スタメンから外れた選手とも毎週1分間から3分間、個人面談をやりました。
 特に若い選手は今、自分がどの位置にいるのか、何が必要なのかがわからない。どこを改善すればスタメンに選ばれるか、その方向付けをきちんとやりました」

 その結果が、就任1年目での日本一だった。連覇への課題は?
「今季は追われる立場。昨季よりもタフなシーズンになることは間違いありません。ヨソはウチのプレースタイルを相当、研究しています。それに対応できるようにアタックのシェイプ(形)をかなり変えました。どんな相手に対しても柔軟に対応できるのが我々の持ち味です」

 50年経っても勝てるクラブ。それがエディーの理想だ。
「日本のラグビーにはポテンシャルがあります」
 この指導者ならジャパンを託してみたい――。会って話をすれば、きっと誰もがそう思うはずだ。
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