7日に開幕した第92回全国高校野球選手権大会も49代表校が全て初戦を終えた。群雄割拠の時代は続いており、今大会でも以前のような地域格差は見られない。それだけに、高校野球ファンにとっては見応え十分といっていいだろう。その中でも、最大の注目は春覇者の興南(沖縄)が史上6校目となる春夏連覇を果たすのか、ということだ。そして、その興南をどこが倒すのか。現段階では最有力候補に好投手・中川諒(3年)擁する成田(千葉)を推したい。
 興南は初戦で鳴門(徳島)を9−0で完封勝ちした。エース島袋洋奨(3年)も序盤こそバタバタ感は否めないが、7回を投げて5安打7奪三振で無失点と無難なピッチングを見せた。この試合では島袋のピッチング以上に光ったのが興南打線の強さだ。チャンスを確実にモノにし、一気にたたみかける攻撃力は、確実に選抜時を超えている。4番打者が無安打に終わっても、全く問題ないのだから、いかに上位から下位まで抜け目がないかがわかる。

 さて、その興南の前に立ちはだかるのはどこなのか。前評判で高かったのは、春ベスト4の広陵(広島)、昨夏覇者の中京大中京(愛知)、“今大会屈指の右腕”との呼び声高かった一二三慎太(3年)擁する東海大相模(神奈川)だ。しかし、広陵は初戦で姿を消し、中京大中京はエース森本隼平(3年)が春に痛めた背中の影響で決して万全ではない。東海大相模はエース一二三が選抜後に制球力を求め、上手投げから横手投げに転向したものの、初戦では9回2/3を投げて8四死球と乱調気味だった。中京大中京、東海大相模ともに初戦は突破したが、疲労が蓄積する一方の今後に不安が残る。

 そこで最有力候補にあげたいのが、成田だ。主戦のエース中川は今大会で最も安定したピッチングを見せている。初戦の智弁和歌山戦は6安打14奪三振1失点。2回戦の八戸工大一戦は11安打を打たれながら要所を締め、10奪三振で完封した。ともに完投しながら、四球はわずか1ずつと安定感は抜群だ。

 中川のボールは決して速くはない。直球は常時130キロ台半ばで、速くても140キロ前後だ。しかし、肩まわりや股間節のやわらかさをうまく使ったしなやかなフォームから繰り出される直球は、打者の手元でグッと伸びる。そのため、球速以上に速さを感じるのだ。彼のピッチングを見ていると、投げ始めは体に力が入っていないことがよくわかる。リラックスした状態から、ボールを離す瞬間に力を爆発させているのだ。リリースポイントも安定しているため、低めいっぱい、打者のヒザほどの高さにズバッと決めることができる。ほとんどの打者はこれに手を出すことができない。たとえバットに当てたとしても、クリーンヒットは望めないボールだ。

 変化球は右打者にはチェンジアップ、左打者にはスライダーを中心に直球と織り交ぜ、各コーナーに投げ分ける。スタミナも十分で、終盤になっても球威、コントロールはほとんど変わらない。2回戦の八戸工大戦では最後の打者を140キロの直球で空振り三振に切ってとっている。しかし、成田に不安材料がないわけではない。投手陣の層の厚さだ。スタミナがあるとはいえ、酷暑の中でのピッチングは疲労も蓄積する。特に準々決勝以降は連日での登板の可能性が出てくるだけに、控え投手は重要なポイントとなる。

 興南を優勝候補とする理由には、この投手陣の層の厚さにもある。島袋ばかりがクローズアップされるが、選抜後、島袋以外の控え投手が成長している。今大会でも初戦では島袋をリリーフした川満昴弥(2年)が2回を1安打無四球無失点と好投した。そのほかには、左の砂川大樹(3年)、右の高良一輝(1年)がおり、左右のバランスもとれている。

 一方、成田はというと、中川のほか、実績のある投手は2年生右腕の斎藤俊介ただひとり。千葉大会では2試合に登板し、12回を投げて8安打11奪三振4四死球、失点0と安定したピッチングを見せた。この斎藤が大舞台でどれだけ力を発揮することができるかが勝敗のカギを握るといっても過言ではない。

 興南と成田が今後、対戦するとすれば、準々決勝以降となる。随一の強力打線に、中川がどんなピッチングを見せてくれるのか。そして、興南打線がどう中川を打ち崩すのか。ぜひ見てみたいカードだ。