20日、ドイツ・ブンデスリーガ10−11シーズンが開幕する。昨季、ヨーロッパチャンピオンズリーグ(CL)でも躍進を遂げたバイエルン・ミュンヘンが連覇を果たすのか。それとも初の戴冠を目指すシャルケ04が前シーズンの悔しさを晴らすのか。さらなる飛躍を誓う日本人選手の活躍にも多くの視線が注がれ、全34節で激しい戦いが繰り広げられる。
 18のクラブでマイスターシャーレを争うブンデスリーガは、欧州で最も活気のあるリーグと言える。90年から2000年代には低迷期を経験したものの、健全な経営と熱いファンに支えられ、今やイタリア・セリエAを凌ぐ高レベルのリーグとしてその地位を確立しつつある。

 南アフリカW杯で3位に入った代表チームの躍進を支えたのも国内リーグの存在だ。代表チーム23名は全員ブンデスリーガ所属の選手であり、自国のリーグだけで代表チームが構成されていたのはイングランドとイタリア、ドイツの三カ国のみだった。決勝トーナメント1回戦ではイングランドとドイツの直接対決が実現し、ドイツがイングランドを圧倒したのは記憶に新しい。長年、リーグをあげて若年層の強化を図り、その努力が結実した形となった。

 バイエルン優位は動かず 内田の課題はコミュニケーション

 ブンデスリーガ10−11シーズン、優勝争い本命はやはりバイエルン・ミュンヘンだ。ドイツのみならず欧州屈指の名門は、昨季、大方の予想を覆しCL決勝まで駒を進めた。昨シーズンから移籍の噂が絶えなかったフランク・リベリの残留も決まり、戦力ダウンは全くない。その上、若手の有望株、トニ・クロースがレバークーゼンへのレンタルから復帰し、中盤のメンバーは厚みを増した。オランダ人指揮官のルイス・ファンハールも2年目となり磐石の体制で新シーズンに臨む。

 注目選手はアリエン・ロッベンを置いて他にいない。09−10シーズン途中にレアル・マドリッドから移籍すると、水を得た魚のように素晴らしい活躍を見せた。シーズン途中からの加入にも関わらず、圧倒的な支持を集めブンデスリーガMVPに輝いている。特にリベリとのコンビで両サイドから疾走する攻撃は、他のどのビッグクラブも有しないスピード感がある。彼らを止めるのは至難の業だ。

 ゴールゲッターにはCLで大ブレイクを果たしたイビチャ・オリッチと南アW杯で得点王を獲得したトーマス・ミュラーがいる。FWの控えにはこちらもW杯で4得点を挙げているミロスラフ・クローゼやマリオ・ゴメスの名が並ぶ豪華な布陣。大きな穴は皆無だ。

 気になるのはロッベンがW杯で負ったケガが完治せず、開幕に間に合わないこと。ケガの多い選手だけに、長いシーズンでロッベン不在の試合がどれだけあるのか心配だ。まずは開幕直後、彼がいないうちにどれだけ勝ち点を積み重ねられるかが連覇へのポイントとなる。

 09−10シーズン、フェリックス・マガト監督の下で躍進を遂げたシャルケ04は“スペインの至宝”ラウール・ゴンザレスをレアル・マドリッドから獲得した。近年は出番の激減していたラウールだが、33歳とまだ老け込む年齢ではない。プレシーズンマッチでもゴールを決めるなど、早くもクラブに溶け込んでいる。とはいえ、ケビン・クラニーやハイコ・ヴェスターマン、マルセロ・ジョゼ・ボルドンら主力の大量流出がありチームの再構築は不可避といえよう。

 チーム再建へのピースの一つが右サイドバックの内田篤人だ。監督と相性の悪かったブラジル代表ラフィーニャの後釜として今季からブンデスリーガに挑戦する。内田の移籍が決まったのはワールドカップ前であり、マガト監督は鹿島でのプレーぶりを高く評価し移籍が実現した。親善試合でも右サイドバックで先発しており、クラブからの評価は悪くない。問題はコミュニケーション能力か。通訳をつけずチームに合流しているだけに、できるだけ早くドイツ語での意思疎通を可能にしたい。右サイドハーフのジェフェルソン・ファルファンとのコンビが攻撃のカードとして機能すれば、クラブの大きな武器となる。

 今季はCLとの過密日程になるため、内田にもチャンスは十分ありそうだ。一部報道ではブラジル代表のロビーニョを獲得するという話が上がっている。移籍が実現すれば、CLでも戦える攻撃陣が出来上がる。守備陣にはドイツ代表で正キーパーの座を射止めたマヌエル・ノイアーやレアル・マドリッドから復帰したクリストフ・メッツェルダーがいるだけに、オフェンスの働き次第では欧州の舞台でも台風の目となる可能性がある。

 実績十分の長谷部と序盤がカギとなる香川

 日本人にとって気になるのは長谷部誠のヴォルフスブルクと香川真司が移籍したドルトムントの2クラブだろう。ヴォルフスブルクで3シーズン目を迎える長谷部は、今季ヘルタ・ベルリンから加入したシセロ・サントスと、ブラジル代表のジョズエと組むダブルボランチの一角を争っている。一時はシセロがレギュラーを掴んだかに思われたが、親善試合を重ねるうちに長谷部が起用されることが多くなった。20日のバイエルンとの開幕戦でもボランチでの出場が濃厚だ。

 クラブは08−09シーズンでは優勝を果たしたものの、昨季は8位と低迷してしまった。立て直しを図るべく、元イングランド代表監督のスティーブ・マクラーレンを指揮官に据え今季に臨む。ヴォルフスブルクが浮上するためには08−09シーズンMVPのエディン・ジェコと同シーズン得点王のグラフィッチの復調が必須だ。DFラインにはドイツ代表のアーネ・フリードリッヒとデンマーク代表のシモン・ケアーを獲得し充実した補強を行なっただけに、オフェンス陣の奮起に期待したい。

 香川を獲得したドルトムントは96−97シーズンにCLを制した経験もある古豪だ。CL制覇後に主力選手の大量流出もあり、リーグ優勝は01−02シーズンの1度に留まり、中位から下位を行き来するクラブになってしまった。しかし、08−09シーズンから指揮を執る青年監督ユルゲン・クロップの下でクラブは着実に力をつけ、09−10シーズンは5位に入りヨーロッパリーグ(EL)出場権を獲得している。

 平均年齢の非常に若いクラブにあって、香川は早くも存在感を増している。マンチェスター・シティとの親善試合では先制ゴールにつながるPKを獲得し、さらに自ら2点目となる追加点を挙げている。2ゴールに絡む活躍をみせ、現地での評価も高まっている。

 トップ下での起用が有力だが、このポジションにはモハメド・ジダンという強力なライバルがいる。ブンデスリーガで結果を残しているエジプト代表は、現在負傷で出遅れているものの、9月には戦線へ復帰するとの情報がある。せっかくの活躍を無駄にしないためにも彼が復帰する前にリーグ戦で結果を出したいところ。幸い、クロップ監督はゴールに向かう香川のプレーを高く評価している。海外移籍で成功するためには最初のインパクトが肝心だ。ドルトムントの開幕戦は22日、ホームでのレバークーゼン戦。ホームのシグナル・イドゥナ・パルクは熱狂的な応援で知られるブンデスリーガの中でも、最も熱いファンが集結する8万人収容の巨大スタジアムだ。初戦でインパクトを残すことができれば、活躍の道が一気に開ける。

 ここ10年でバイエルン、ヴォルフスブルク、シュツットガルト、ブレーメン、ドルトムントと5クラブが優勝しているブンデスリーガ。高レベルのリーグにあって、常に片手で数え切れないクラブが優勝を狙える戦力を保持している。日本人3選手の活躍も含め、マイスターシャーレを巡る争いは、最終節の2011年5月14日まで目が離せない。

(大山暁生)