第一報を聞いた時、12年前にメディアを騒がせた、あの事件を思い出しました。

 外国産牛肉を国産と偽って補助金を不正受給していた「牛肉偽装事件」です。内部告発で事態が明るみになったものの、その告発業者が総スカンに遭い、一時は廃業に追い込まれたことを記憶している方も多いでしょう。

・NPBの統一球は今季から反発係数を調整し、これまでよりも“飛ぶボール”に変更されていた。
・NPB側は、製造元のミズノに調整の事実を“口止め”していた。

“飛ぶ”ボールを“飛ばない”と偽り、開幕から2カ月半。牛肉とは違って、ボールの異変は見た目にも明らかでした。アウトコースを流したような打球がフェンスを越え、そのままスタンドインしたり、外国人バッターのホームランが球場の上段はおろか、場外まで飛んでいく……。

 編集長と各球場を回り、選手、関係者に話を聞いても、「今年はボールが飛ぶ」という声はあちこちから聞こえてきました。それでもNPBサイドは「統一球の仕様は変更していない」との見解を出してきたのです。

 それを踏まえて編集長も『週刊大衆』のコラムで【朝令暮改と批判されるのが嫌なのだろうか。(中略)“飛ぶボール”“飛ばないボール”どちらがいいか悪いかの是非はともかく、うやむやなボール変更は将来に禍根を残しそうだ】(6月17日号)と書いていました。

 果たして、結果はまさにプロ野球界に“禍根を残す”事件となってしまいました。しかも、発覚翌日の加藤良三コミッショナーの説明は「昨日まで知らなかった」というもの。そもそも、この統一球は、加藤コミッショナーの肝入りで、おまけに、わざわざボールひとつひとつに自らの署名入りで導入されたのですから、「知らぬ存ぜぬ」ではまったく説得力がありません。

 12球団の全試合で使用するボールは、練習も含めれば莫大な個数です。反発係数を調整したミズノにとっても、牛肉偽装事件のごとく内部告発したばかりに、不利益を被るリスクを考えれば、言うに言えない……。それが本音だったでしょう。

 編集長も指摘しているように、ボールが飛ぶ、飛ばないの是非については、さまざまな意見があります。今回、選手やファンの多くは「ボールを変えた」ことに憤っているわけではありません。「ボールを変えた事実を偽った」ことに怒っているのです。

 一番、残念なのは今後、スポーツを行う上での大前提である「フェアネス」が疑われてしまうことです。統一球の導入のひとつの目的は、より「フェアネス」を高めるためだっただけに、これは牛肉ならぬ皮肉な話です。

 それまでのプロ野球の公式球は球団ごとに使用するメーカーが違いました。同じプロ野球の試合にもかかわらず、“飛ぶボール”と“飛ばないボール”が混在していたのです。

 そのため、「あの球団は守備と攻撃ではボールを変えている」といったウワサも昔からチラホラ聞こえてきました。野球はチームの勝敗に加えて、個人記録も数字で評価される競技ですから、ボールが違えば成績にも当然、影響が出ます。こういった問題点を解消し、「フェア」な条件でシーズンを戦うのが統一球採用の意義でもあったはずです。

 ところが、今回のようなことが起これば、野球を観る目はプレーに100%集中できなくなるでしょう。夜空を華やかに彩るアーチがたくさん飛び出しても、「また、ボールが変わったのでは?」「バットがおかしいかも」と疑惑を持ち出されては、選手もたまったものではありません。 

 そういえば、ボールも牛革で包まれています。純粋にファンを楽しませる白球になるのであれば、牛も本望でしょうが、責任もとれない人物の名前を刻印され、グラウンドの芝の上ではなく、スタンドのコンクリートに叩きこまれて痛い思いをしたあげく、ファンからは“飛ぶボール”と揶揄される……。

 牛ならずとも、「モ~、やめて」と言いたくなる心境ではないでしょうか。

(スタッフI)
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