24日、日本サッカー協会(JFA)は難航している日本代表監督選びについて現状報告を行なった。1カ月に及ぶ海外での交渉から帰国した原博実強化担当技術委員長がこれまでの交渉の経緯を説明し、現在も数名の候補と交渉中であると報告した。また、これまで交渉してきた人物を初めて公にし、レアル・マドリッド前監督のマヌエル・ペジェグリーニ、9日にギリシャ・オリンピアコス監督に就任したエルネスト・バルベルデと接触したことを明かした。2名ともに条件面などで折り合わず、次期代表監督に就任することはない。また、9月4日、7日に行われる国際親善試合について、ビザ発給の問題から代行監督として原技術委員長がベンチに入ることも明らかにされた。
(写真:事情説明に追われた原技術委員長(右)と大仁副会長)
 代表監督選考に関する会見はサッカー協会技術本部長の大仁邦彌副会長から「もうすぐ決まる、もうちょっと待って欲しいと言いながら、交渉がまとまらず申し訳ない」との陳謝から始まった。南アフリカW杯明け初戦となる9月4日にパラグアイ戦、7日グアテマラ戦が間近に迫った日本代表の新監督選びは難航し、現在も交渉はまとまっていない。

 海外へ出向き直接交渉にあたってきた原技術委員長からは、これまでの交渉の経緯が説明された。7月12日まで南アフリカW杯を視察した原委員長は15日に帰国後、大仁副会長、犬飼基昭前会長へワールドカップの戦いぶりについてのレポートと今後の強化案を提出し、新監督候補数名をリストアップした。7月22日から海外へ飛び、まずは南米に入り前レアル・マドリッド監督のペジェグリーニと交渉を行なった。同氏は日本代表の選手について事細かに情報を持ち、さらに日本代表監督に興味を示し、代表の練習方法などについても提案があった。レアル・マドリッドというビッグクラブの監督でも金額面などの交渉では大きな支障はなかったという。その後、ペジェグリーニがバカンスに入るため一旦交渉を中断し、原委員長は欧州へと渡った。
 スペインに入った原委員長はバルベルデと接触。こちらも日本代表に興味を示していたものの、ギリシャの強豪クラブ・オリンピアコスからのオファーがあることを伝えられ、9日に同クラブの監督就任が発表された。
 また、ペジェグリーニについては8月中旬に正式にオファーを断る返事を受け、この2名については交渉が決裂したため、名前を明らかにする運びとなった。

 現在も数名の候補者と接触を続けており、少なくとも1名には条件などを提示し最終的な返事を待っている状態であるとした。ただし、踏み込んだ質問が飛んでも原委員長は「契約条件や契約期間などは、交渉事ということもあり話せない」と終始し、新監督就任の可能性のある人物について名前が明かされることはなかった。

 原委員長が会見で繰り返し口にしたのは「日本代表を4年ないし2年で、もう1ランク上に持っていってくれる監督を連れてくる」「(9月に間に合わせるために)納得のいかない監督を連れてくるということは絶対にしない」という言葉だった。
「世界で勝負するためには、世界のマーケットの中心で活躍する監督を呼びたい」と考えるサッカー協会、並びに原委員長の方向性は悪くはない。ただ、ペジェグリーニの交渉が決裂した理由について「家族や(側近の)コーチ陣が極東の日本に来ることを拒んだこともある」と説明、日本が世界のサッカー地図の中心である欧州や南米から遠く離れた僻地であることにも言及した。「(日本代表の監督に就任することで)長期間、ヨーロッパを離れることで、マーケットから消えてしまう」ことが日本代表監督就任を躊躇させる原因となっている。

 それでも世界屈指のクラブを率いた指揮官が、日本代表監督に興味を示しただけでも大きな進歩である。南アフリカW杯でベスト16に進出したことが交渉にプラスに働いていることは間違いない。「世界の舞台で1ランク上に持っていってくれる監督を選ぶ」ことは、多少時間がかかっても、最優先事項として掲げるべきだ。07年11月にイビチャ・オシムが脳梗塞で倒れた際、協会が慌てて岡田武史に監督就任を要請したことがあった。その頃に比べれば、腰を据えて監督交渉に臨む姿勢は評価できる。

 しかし、未だに交渉がまとまっていない事実もある。仮に早い段階で次期監督が決まったとしても、9月4日、7日の試合についてはビザ発給の問題で新監督がベンチに入ることは不可能だ。9月の2試合について原委員長は「代行を他に立てる案を考えた上で、自ら代行監督として采配を揮う」とした。これまでの交渉や今後の代表の方向性を示すことができる原委員長が代行監督になることで、今後の体制への移行をスムーズにできる狙いがあるようだ。

 仮に8月中旬までに新監督が決まっていたとしても、パラグアイ戦、グアテマラ戦は代表強化というよりも新チームお披露目の意味が強いことは否定できない。それならば10月8日、12日のインターナショナルマッチデーに間に合うよう交渉を続ければいい。
 これまで日本代表を率いてきた外国人指揮官は、元々日本と縁のある人物、もしくは日本協会へ紹介のあった人物だった。1カ月以上海外に渡りながら、結果を出すことのできなかった原委員長の交渉能力を疑問視する声もあるが、世界で勝てる監督を連れてくることができれば、監督の決まらない数カ月も無駄にはならない。今後の交渉について楽観視はできないが、希望を持って推移を見守ることも必要だ。

(大山暁生)