現在、日本男子バスケットボール協会は2つのリーグが存在する。企業チームとプロチームが混在する日本リーグ(JBL)、そして完全プロ化を実現させたbjリーグだ。bjリーグがJBLの前身である旧日本リーグ機構から脱退したクラブチームと、プロ化に賛同した地域とで設立された経緯もあり、これまで両者は独自の運営・経営方針の下、“無関係”を貫いてきた。ところが、今、この2つのリーグが統合への道を歩み始めている。確かに分裂状態のままでは、国内バスケットボール界の発展に悪影響を及ぼしかねない。だが、分裂したことにより、選手たちの受け皿が広がり、チャンス拡大へとつながったこともまた事実である。統合は一見、仲違いしていた両リーグが手を取り合い始め、喜ばしいことのように思える。しかし、統合によってチーム数が減少すれば、選手にとっては死活問題となる。なぜ、“共存共栄”ではなく、“統合”なのか――。両リーグが掲げる「次世代型トップリーグ」について、河内敏光bjリーグコミッショナーを独占インタビュー。統合の道を模索するその理由とともに、構想さえも遅々として進まない状況が浮き彫りになった。
―― 現在、bjリーグとJBLでは両リーグが統合し、2013年度の新リーグ設立を目指している。実際にはどこまで話が進んでいるのか?
河内: これまでbjリーグは日本バスケットボール協会(JBA)の傘下組織ではなかったため、日本代表への道は閉ざされていたんです。同じ日本人なのに、なぜJBLからは代表に選ばれて、bjリーグからは選ばれないのか。誰が聞いたって、おかしな話ですよね。両リーグで議論を重ねた結果、今シーズンからは、bjリーグのチームと選手のJBA登録が承認され、実力さえあれば代表にも入れることになったんです。3日の第2回連絡協議会ではその登録の進捗状況が報告され、9割がたは手続きを終えているとのことでした。

―― 登録の進捗状況の報告だけなら、わざわざ協議会を開く必要はないのでは?
河内: その通りです。本来であれば連絡協議会では新リーグ設立に向けての構想について、議論をしなければならないはずなんです。ところが、事務的なことまでが連絡協議会が請け負っているために、議論がなかなか進んでいないのが現状なんです。
 そもそも連絡協議会の構成自体がおかしい。僕は当然、第三者的組織だとばかり思っていたのに、JBLの関係者が数人入っていました。協議会はJBAの傘下組織の中でつくられた機関。であるならば、JBAのメンバーがやるべきなんです。でも、そればかりをつついても話は進みませんからね。とにかく「連絡協議会ではJBLではなく、あくまでも協会としての発言にしてください」とお願いするにとどめました。

―― 今後はどんな話し合いをするのか?
河内: まだ条件やチーム数などはわかりませんが、結局は各チームが新リーグに参画するかどうかを決めることになるのですから、話し合いの場に両リーグの代表が出席しなければ意味がない。ところが、現在は前述したように連絡協議会が本来すべき議題に入っていないために、チームの代表者を呼べる状態にまで至っていない。いるべきメンバーが顔をそろえてからが協議会の本当のスタートだと私は思っています。

―― 2年後の新リーグ立ち上げは時期尚早にも思えます。
河内: 新リーグを立ち上げるには、まず絶対的なリーダーが必要です。JBLの企業だって自社の冠をおろしたくはないでしょうし、我々bjリーグの球団社長だって、退路を断って地域の人たちと一緒に命をかけてやっているわけですからね。みんなを納得させられるようなリーダーシップのある人がいなければ、難しいでしょう。

―― 現在、そういう存在の人は?
河内: まだその段階にきていないのでこれからだと思います。Jリーグを立ち上げたときの川淵三郎さんのような人が連絡協議会のメンバーの中から出てくるといいのですが……。

 不可欠な“受け皿”の存在

―― そもそも、なぜ統合して新リーグを立ち上げるのか?
河内: 正直、私も統合することの本当の意味や、その影響、統合後の在り方というものがはっきりとは見えておらず、まだそれに向けての議論や検証が必要だと思っています。

―― 実際に新リーグが立ち上がった場合、bjリーグはどうなるのか?
河内: 私はbjリーグ的な理念や考え方をなくすつもりはないんですが、bjリーグ自体がどうなっていくかは、新リーグの在り方を検討していく中で考えていく非常に大切な問題です。同時にJBLや実業団の在り方についても総合的に考えるべきだと思っています。

―― 統合すれば、チーム数減少が懸念される。
河内: 私自身、三井生命の監督時代に休部の経験を持っていますが、チームの減少は決して日本バスケット界のためにはならない。選手や子供たちの可能性を広げるためにも、チーム数は多ければ多いほどいい。逆に日本バスケを強化するためには、bjリーグのような独立組織がいくつもあった方がいいくらいですよ。選択肢が広がることで、普及効果も望めますからね。

―― 課題はたくさんあるにしろ、ここまで国内にチームが増えたということは、やはりそれだけ需要があるということ。
河内: その通りです。これだけバスケットボールをやりたいと思っている選手がいるのですから、わざわざその門を狭める必要はありません。今のbjリーグとJBLだってそうです。企業チームでバスケットボールをやりたいと思う選手もいれば、プロとしてプレーしたいという選手もいる。どちらもたくさんいるはずです。大事なのは彼らに選択肢を与えること。トップリーグに行けなければ、国内ではプレーできないというような状況は絶対に避けなければなりません。

(後編へつづく)

河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。bjリーグコミッショナー。中学からバスケットボールを始め、京北高では全国ベスト4に進出。明治大時代には全日本学生選手権3連覇を達成した。卒業後、三井生命で約10年間プレーし、日本代表としても活躍した。現役引退後、三井生命監督に就任し、実業団選手権優勝、天皇杯準優勝に導いた。94年からは全日本男子監督を務め、2000年に新潟アルビレックスの運営会社社長に就任。04年にはbjリーグを立ち上げ、完全プロ化を実現させた。

(聞き手/斎藤寿子)