8日、キリンチャレンジカップが埼玉スタジアム2002で行なわれ、日本代表はアルゼンチン代表と対戦した。世界屈指の強豪を相手にした日本は4−2−3−1の布陣で試合に臨み、前半19分に岡崎慎司(清水)のゴールで先制する。このまま1対0で前半を折り返すと、後半も豪華メンバーの相手に一歩も引かず互角に渡り合う。終盤はリオネル・メッシ(バルセロナ)を中心に攻撃を組み立てるアルゼンチンに攻め込まれるも必死の守備で猛攻に耐え逃げ切り勝ちを収めた。アルベルト・ザッケローニ監督の初陣はアルゼンチンに勝利するという歴史に残る試合となった。

 南米の雄に7回目の対戦で初勝利(埼玉)
日本代表 1−0 アルゼンチン代表
【得点】
[日] 岡崎慎司(19分)
 ザッケローニ新監督を迎えた日本代表は、南米を代表する強豪・アルゼンチンとの親善試合に臨んだ。アルゼンチンは先日の国際Aマッチデーではスペインを4対1で退けており、世界王者にも匹敵する実力を持つチーム。今回の来日メンバーはメッシをはじめ、ゴンザロ・イグアイン(レアル・マドリッド)、ハビエル・マスチェラーノ(バルセロナ)など世界屈指のスターが集結しており、日本代表にとっては非常に高い壁との見方が大半を占めていた。先発にはケガが心配されたメッシも名を連ね、カルロス・テベス(マンチェスター・シティ)、ディエゴ・ミリート(インテル・ミラノ)と3トップを形成した。

 日本は岡田武史前監督がよく採用した4−2−3−1でスタートした。ワントップには森本貴幸(カターニャ)が入り、トップ下に本田圭佑(CSKAモスクワ)、右サイドハーフに岡崎、左サイドに香川真司(ドルトムント)が配置された。

 静かな立ち上がりでスタートした試合は互いに高い位置でプレスをかけ、攻撃を組み立てていく。アルゼンチンは7分にメッシがボールを持つと、ゴール正面からドリブル突破。右サイドに開いたミリートへパスを出すと、浮き気味でもらったリターンパスをシュートまで持ち込む。対する日本は右サイドで内田篤人(シャルケ04)と本田がうまく絡み、内田がクロスをあげる。ゴール前でセンターバック2人の間にうまく入った岡崎が右足でボレーシュートを試みるも、これはGKセルヒオ・ロメロ(AZ)の正面を突き、ゴールにはならない。

 中盤での激しい攻防が続く中、先制点をあげたのは日本だった。前半19分、アルゼンチン左サイドバックのガブリエル・エインセ(マルセイユ)が浮き玉の処理に手間取ると、そこへ岡崎がプレッシャーをかけボールを奪う。そのままサイドを駆け上がりクロスをあげると、一旦はアルゼンチンDFにクリアされるものの、そのこぼれ球に反応した長谷部誠(ヴォルフスブルク)がPA外から強烈なシュートを放つ。右足で蹴られた抑えの利いたシュートは無回転でアルゼンチンゴールを襲い、ロメロは必死のセーブを試みる。それでもボールを弾くのが精一杯で、そこへ詰めていったのは岡崎だった。一足早くボールに追いつき右足で放ったシュートは勢いよくゴールネットを揺らした。日本の先制点でスタジアムに集ったサポーターのボルテージは一気に最高潮となった。

 ゴール後も日本はうまく試合をコントロールしていく。ザッケローニ監督はほとんどの時間、ベンチから飛び出して指示を送り続けた。DFラインは高い位置を保ち、中盤はコンパクトにまとまり相手にスペースを与えない。4−2−3−1が基本の形だったものの、じっくりと時間をかけて受けに回った際は森本と本田がツートップのような形になり4−4−2にも変化する。きれいに3ラインがプレスをかけ続けたため、相手に攻撃の形を作らせなかった。

 試合の流れの中で上手くシステムを使い分けていくのはザックジャパンの基本戦術になるだろう。日本の中盤から前の選手は様々な役割を果していた。4−2−3−1の2ではボランチにあたる遠藤保仁(G大阪)と長谷部は、4−4−2ではセントラルMFとしてうまく機能できる。ここには中村憲剛(川崎)が入ることも可能だ。サイドMFとして先発した岡崎と香川も、両サイドバックの長友佑都(チェゼーナ)、内田との連係をうまく取りながら守備にも貢献できていた。中盤選手のユーティリティをうまくザッケローニが味付けして、安定した戦いぶりを披露した。

 一方のアルゼンチンは、両サイドに開いたメッシとテベスが中に入ってボールを貰いたがる傾向が出て、日本の中盤の網にかかっていく。支配率では70%近くボールを持ちながらも、主導権は日本が握ったまま前半を折り返した。

 後半に入ると、アルゼンチンが攻勢をかけた。特に15分を過ぎてからはメッシを中心にドリブルでPA内に侵入する機会も多く、GK川島永嗣(リールセ)の目立つ場面が増えていく。それでもCB今野泰幸(F東京)、栗原勇蔵(横浜FM)らの踏ん張りで決定機を作らせない。逆に前掛かりになった相手へカウンターを見せ、途中出場の前田遼一(磐田)が迫力ある動きで相手ゴールへと度々迫った。25分には自らゴール前までボールを運びシュート、27分には右サイドを駆け上がりゴール前の本田へクロスを供給する。

 圧巻だったのは終了間際の43分。コーナーキックからのカウンターではセンターサークル付近でボールを受けると、後ろから守備に入るアンヘル・ディマリア(レアル・マドリッド)を振り切りPA付近までドリブルで持ち込む。さらに1対1となったマスチェラーノをかわして左足でシュート。これはロメロの好セーブにあい得点にはならなかったものの、ワールドクラスの選手と対峙しながら迫力ある動きをみせた。ザッケローニが指揮を執ってきたクラブには強靭なワントップが必ず存在してきた。今日の前田の動きはザッケローニの心に響くものだったはずだ。次戦の韓国戦でも同様の動きを見せることができれば、ザックジャパンにFWの柱が誕生することになるかもしれない。

 残り15分はメッシ、テベスをフリーにする場面もあったが、組織的な守備が功を奏し日本が1対0でアルゼンチンを破った。日本が同国に勝利するのは初めてであり、初出場だった98年フランスW杯で圧倒的な力の差を見せ付けられた相手から白星をあげた。

 今日の日本の中でも特に素晴らしかったのは攻めに入った時の前線の選手たちだった。サイドバックがPA付近まで上がっていくと、必ず森本、本田、香川、岡崎の4名がPA内に侵入していく。これはこれまでの日本では考えられないほど積極的な姿勢だ。試合後にザッケローニ監督は4人全員の名前をあげて「彼らは犠牲心を持って、普段は馴れていないポジションで献身的にプレーしてくれた」と語った。言葉通り、積極的な動きで日本の原動力になったことは間違いない。

 ほぼベストメンバーのアルゼンチンに勝利したことはチームにとっても選手一人ひとりにとっても大きな自信になる。12日にはアウェーでの韓国戦が控えている。「我々の目標はアルゼンチンに勝つことではない。これからブラジルW杯にむけて成長していくことだ」「数日後の韓国戦はある意味で今日よりも難しい試合になる。いい準備をしたい」と、初勝利を喜びつつも、監督は気持ちを引き締めていた。最高の形で始動したザックジャパンが、ライバルとのアウェー対決でどのような試合を見せるのか。見逃せない試合は4日後、ソウルで行われる。

(大山暁生)

<日本代表出場メンバー>

GK
川島永嗣
→西川周作(85分)
DF
栗原勇蔵
今野泰幸
長友佑都
内田篤人
MF
遠藤保仁
→阿部勇樹(71分)
長谷部誠
岡崎慎司
→関口訓充(71分)
香川真司
→中村憲剛(77分)
本田圭佑
FW
森本貴幸
→前田遼一(65分)