ニフティのスポーツサイト「Sports@nifty」内で、このほど当HP編集長・二宮清純による書き下ろしコラムコーナー「二宮清純 スポーツ白熱スタジアム」がスタートしました。このコーナーでは野球を中心にスポーツ界の気になるニュースをピックアップし、二宮清純がコラムを執筆します。現在、最新コラム「斎藤佑樹が参考にすべき“縫い目の伝説”」を配信中です。
 当サイトでは既に配信済の書き下ろしコラムを紹介します。
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王貞治の「目慣らし」トレ

 2月1日、プロ野球のスプリング・トレーニング(春季キャンプ)がスタートした。待ちに待った“球春”到来である。
「1年の計は元旦にあり」というが、プロ野球の元旦は2月1日。約1カ月間のキャンプをどう過ごすかで、シーズンの成否が決まると言っても過言ではない。

 現役時代、ピッチャーでもないのにブルペンに足しげく通ったのが王貞治だ。それを王は「目慣らし」と呼んだ。
「バッターは日本シリーズに出場したとしても、約3カ月間、生きたボールを目にしていない。しっかりとボールをとらえるには、まず目をつくらなければならない。生きたボールを見ることのできるブルペンこそ、バッターにとっては最高の練習場なんだよ」

 ダイエーの監督時代、王はこう語った。どんなにバットを振り込もうが、筋力トレーニングを積もうが、ボールを正しく視認できなければバッターは仕事にならない。バッターにとって目は命の次に大切なものであり、王はそれを鍛錬する場をブルペンに求めたのである。

「柵越え×発」。キャンプ中に目にするお決まりの見出しだが、これはあまりアテにしない方がいい。

 かつて阪神にロブ・ディアーという外野手がいた。メジャーリーグ通算226本塁打の長距離砲でキャンプ地である安芸のグラウンドのレフト後方には特設ネットが張られた。関係者はそれを「ディアーネット」と呼んだ。白昼、ディアーのバットから放たれる打球は、まるでピンポン玉だった。「この調子じゃ(ホームランを)60本打つぞ」と真顔で話す関係者もいたほどだ。

 しかしディアーは虎キチの期待に応えることはできなかった。打率1割5分1厘、8本塁打。8月に右手親指靭帯を断裂し、シーズン途中で帰国の途についた。
 実はディアーは強度の乱視のためナイトゲームに弱く、日本のピッチャーの変化球に全くついていくことができなかった。そう言えば王貞治のようにブルペンで“目慣らし”をする光景には、ついぞお目にかかれなかった。“目慣らし”をやったからといって打てたかどうかはわからないが、そんなやり方もあるのだよということくらいは、誰かがアドバイスしてもよかったかもしれない。
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