10日からWJBL(バスケットボール女子日本リーグ機構)のプレーオフ・ファイナル(3戦先勝方式)が開幕する。レギュラーリーグ、そしてセミファイナルを勝ち上がり、見事にファイナリストとなったのは3連覇がかかるJXサンフラワーズ(レギュラーリーグ1位)と、悲願の初優勝を狙うトヨタ自動車アンテローブス(同2位)だ。昨シーズンと同じ顔合わせとなった決戦はどんな結果となるのか。なかでも注目はJXの大型ルーキー渡嘉敷来夢だ。
 7日に発表されたWリーグのレギュラーシーズン表彰選手でMVPに輝いたのが、渡嘉敷だ。ルーキーでのMVP選出はリーグ史上初という快挙。渡嘉敷はそのほか、最優秀新人、ベスト5にも選ばれた。
 JXは5季連続でファイナル進出、一昨季、昨季と連覇を果たしている強豪だ。レギュラーシーズンでは26勝2敗と圧倒的な強さを見せた。さらに全日本総合選手権でも3年連続、史上最多の16度となる優勝と着実に黄金時代を築きつつある。

 しかし、セミファイナルではガードの吉田亜沙美が初戦で右足首を捻挫するというアクシデントに見舞われた。決してチーム状態が万全ではない中、救世主となったのが渡嘉敷だった。第1戦、吉田が開始6分で交代し、富士通レッドウェーブにリードを許していたJXだったが、渡嘉敷が高さをいかしたプレーでゴールを挙げ、逆転に成功する。さらに吉田が欠場した第2戦でも26得点を挙げ、13リバウンドを制し、チームの勝利に大きく貢献。その結果、ファイナル進出とともに、先述した3部門でのタイトルを手にした。

 そんな渡嘉敷も今季は、決してスタートから順風満帆だったわけではない。今春、鳴りもの入りでJXに入団した渡嘉敷はシャンソンVマジックとの開幕戦で第3Q途中から出場し、実業団デビューを果たした。「これまでにない」というほど緊張していた彼女だったが、第4Qに入るとフリースロー、ゴール下のシュートを決め、会場を沸かせた。その後も10〜15分と短い時間ではあったが、渡嘉敷は毎試合のようにコートに送り出された。しかし、自分が満足のいくプレーができず、渡嘉敷はひとしきり悩んでいた。開幕1か月を過ぎた頃、渡嘉敷はこんなことを語っていた。

「実業団は高校の時とは当たりもシュート力も全く違う。わかってはいましたけど、やっぱりいくら高校でトップだったとしても、実業団では全然ダメです」
 自分に自信のもてなかった渡嘉敷は、チームの練習でも何か遠慮がちな部分が見え隠れしていた。当然、それは試合にも表れていた。
「高校までは結構、自分からガツガツいく方だったんです。でも、今はまだ覚えることがたくさんあって、言われるがままというか……。『もっと積極的にいけ!』と言われているんですけど……。自分は高校ではトップレベルだって騒がれてきましたが、実業団に入ればまだまだ。だったら、自分よりも得点能力がある選手がボールをもらった方がいいと思ってしまうんです。だから、邪魔になったらいけないと、つい消極的になってしまう。正直、わからないことだらけです」

 だが、やはりそれで終わるような選手ではなかった。その後、徐々にチームの環境や実業団のレベルに慣れ、求められているものを理解し始めた渡嘉敷は、彼女らしいプレーを見せるようになっていった。そして12月4日のトヨタ戦からは先発として出場し、レギュラーの座を不動のものとした。そして彼女の座右の銘の一つ「有言実行」とばかりに、当初から目標としていた最優秀新人賞を獲得。いや、それどころかMVPにまで輝くのだから、やはり彼女は並みのルーキーではなかった。

 JXに入団後につけられたコートネーム「タク」は「たくましい選手に」という願いが込められている。まだ自分に自信が持てなかった頃、彼女はこんなことを口にしている。「『1年目なんだから』という甘えは絶対にしたくないんです」。このたくましさこそが、彼女の真骨頂だろう。
「逃げるな、諦めるな、そして進め。辛い時こそ笑顔で」をモットーに努力を積み重ねてきた渡嘉敷。果たしてルーキーイヤーの有終の美を飾ることができるのか。プレーオフ・ファイナルは10日、船橋アリーナで幕を開ける。

(斎藤寿子)