5月27日、フランスのパリ・ローランギャロスで開幕した全仏オープンテニス。男子では、ノヴァーク・ジョコビッチ(ATPランキング6位)、女子ではエレナ・ヤンコビッチ(WTAランキング5位)、アナ・イバノビッチ(同7位)の3人がベスト4進出を決め、セルビア勢の躍進が目立つ大会となった。
 なかでも、ヤンコビッチは大会前の下馬評も高く、優勝候補の一人として名前が挙げられていた。昨夏のUSオープンでは3回戦でニコレ・バイディソバ(チェコ・同10位)を、4回戦でスベトラナ・クズネツォワ(ロシア・同3位)を、準々決勝でエレーナ・デメンティエワ(ロシア・同14位)を破り、4大大会初の4強入りを果たした。今シーズンに入っても、エナンと同じく3勝を挙げ、調子のよさをうかがわせていた。昨夏のUSオープンでは20位だったランキングも、今では5位にまで上げている。

 今大会では4回戦でヴィーナス・ウィリアムズ(米国・WTAランキング27位)、準々決勝で新進気鋭のバイディソバを破り、大会初のベスト4。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いが感じられた。

 しかし、その勢いはジュスティーヌ・エナン(ベルギー・同1位)には通用しなかった。ファイナル進出をかけて挑んだ準決勝で6−2、6−2の完敗。ストロークを得意としているヤンコビッチだが、この試合では積極的にネットに詰め、先に仕掛けてエナンを崩そうと試みた。だが、大事なところでミスをするなど詰めの甘さを感じずにはいられなかった。これでエナンには6連敗だ。

 一方、ファイナル進出を決めたのが、19歳のイバノビッチ。準決勝では「私はクレーでは氷の上を歩く牛のようだ」と語るほど、クレーの苦手意識が強く、肩の故障を抱えて、なかなか満足できるプレーができないマリア・シャラポワ(ロシア・同2位)に、6−2、6−1と快勝した。

 第1セットの第2ゲームでは早くもブレイクに成功し、3−0と序盤から優位に立ったイバノビッチ。フットワークでシャラポワを圧倒し、最後までアグレッシブさを失わなかったことが一番の勝因だろう。

 彼女の最大の武器はフォアハンドから繰り出されるフラット系のショットだ。ベースラインぎりぎりに決まる深いショット、さらにはダウン・ザ・ラインを狙える技術もある。そして、190キロ近くある威力あるサーブを持つだけにファーストサーブの成功率が勝敗を左右する要因の一つだ。

 セルビア人として初の4大大会決勝に進んだイバノビッチは、今大会4度目の優勝を狙うエナンと女王の座を争う。4大大会では、2大会ぶりに出場したエナンだが、現在全仏では33セット連取とクレーでは全く他を寄せつけない強さを誇る。

 167センチ、57キロと、どちらかというと小柄なエナンだが、ショット、サーブの威力はイバノビッチに全くひけをとらない。
 両者ともにパワーがあり、ストローク戦が展開されることが予想されるが、その中でいかにミスをしないかが重要となりそうだ。

 イバノビッチは、ベースラインぎりぎりの深いショットを連発することで、可能な限りエナンをコートから離れさせたい。それができれば、最大の武器であるフォアハンドのショットが生きてくるだろう。

 エナンは、パワーだけでなくスライスやドロップショットなど小技も得意とし、数多くの引き出しをもっているプレーヤーだ。ショット、ネットプレー、サービス、パワー、フットワーク、スタミナ……オールマイティの女王に対して、新鋭がどれだけ自分のテニスを貫くことができるかに注目だ。