19日、東日本復興支援チャリティーマッチが東京・国立競技場で行われ、なでしこジャパン(女子日本代表)がなでしこリーグ選抜と対戦した。W杯後、初の試合となったなでしこジャパンは世界を制したパスワークで主導権を握る。前半15分に近賀ゆかり(INAC神戸)のゴールで先制すると、その後も川澄奈穂美(INAC神戸)、阪口夢穂(新潟)の得点で3−0とリードした。しかし後半はゴールを奪えず、逆になでしこリーグ選抜に2点を返される。なでしこジャパンにとっては苦しい展開になったが、3−2で逃げ切り、凱旋試合を勝利で飾った。

 五輪予選へ守備に課題(国立)
日本代表 3−2 なでしこリーグ選抜
【得点】
[日] 近賀ゆかり(15分)、川澄奈穂美(18分)、阪口夢穂(23分)
[選] 菅澤優衣香(49分)、渡辺彩香(90+1分)
 前半は世界女王としての強さが、後半は次なる戦いへの課題が見えた試合だった。
 復興支援チャリティーマッチとして行われたこの試合、なでしこジャパンにとってはロンドン五輪アジア最終予選前のラストゲームでもあった。スタメンにはキャプテンの澤穂希(INAC神戸)、宮間あや(岡山湯郷)、岩清水梓(日テレ)ら先のW杯の主力メンバーが海外組を除いて名を連ねた。

 相手はこの一戦のためだけに結成されたなでしこリーグ選抜。なでしこジャパンには世界女王として、また9月1日から始まる五輪予選に向けて結果と内容が求められた。
 前半は完全ななでしこジャパンのペースだった。立ち上がりから選手間の距離をコンパクトにし、細かいパスを回してチャンスを窺う。先制点は前半15分に生まれた。丸山桂里奈(千葉)が左サイドに抜け出してあげたクロスをニアで川澄が落とし、拾った宮間がファーサイドへボールを入れる。これを右サイドバックの近賀が左足のボレーでゴールに押し込んだ。近賀は「たまたまですかね(笑)。まさか自分が最初に決めるとは思わなかった」と謙遜してみせたが、後ろからの飛び出しで理想的な1点を奪った。

 これで勢いに乗ったなでしこジャパンは先制から3分後、川澄が追加点を決める。丸山がPA内右をドリブル突破しての折り返しを右足で冷静にゴール左へ流しこんだ。さらに23分、早くも3点目のゴールが生まれる。ゴールから約35m、右サイドで得たFKで宮間の蹴ったボールに阪口が頭で合わせた。開始23分で3点リードを奪ったなでしこジャパンは、43分にも宮間の左サイドからのクロスに澤がヘッドでゴールを狙う。これはゴール右へ外れたが、圧倒的にボールを支配し、世界女王の実力を示して前半を終了した。
「前半は自分たちがボールを支配しながら、仕掛け、第三者の動きなどで非常にいい形をつくり、切り替えも速かった。自分たちのリズムをとれた」
 なでしこジャパン・佐々木則夫監督もそう選手たちの動きを評価した。

 しかし後半に入ると、危なげなかった前半とは一転、この日の天候のようになでしこジャパンに暗雲がたちこめる。まず立ち上がりの4分、なでしこリーグ選抜の菅澤優衣香(新潟)に1点を返された。左サイドを突破され、PA中央へのクロスにフリーで合わされた。
「高い位置をとるサイドバックの背後(にスペースができる点)と、センターバックのスピードのなさ」
 リーグ選抜の星川敬監督はなでしこジャパンの弱点をそう明かす。先のW杯でも日本はサイドからの攻めに苦戦する場面は少なくなかった。この失点は、まさにその弱みを突かれたものだった。

 さらにスピードでも後半はリーグ選抜にお株を奪われた。特に途中出場した木龍七瀬(日テレ)がドリブルで突破や裏への飛び出しをみせ、何度もゴールを脅かされる。一方、なでしこジャパンは失点して以降、選手間の距離が間延びし、生命線である細かいパスがつながらない。守りも連動性を欠き、相手にボールを支配される時間が続いた。そして後半ロスタイム、自陣PA内で細かくボールを繋がれると、たまらず矢野喬子(浦和)が相手を倒し、PKを与えてしまう。結局、これを決められ、後半はゴールを奪えないまま、逆に2点を返されて試合を終えた。

 前半とは別のチームになってしまった背景には、後半に入ってメンバーを大幅に入れ替えた影響もある。澤や大野忍(INAC)といった主力を下げ、永里亜紗乃(日テレ)、宇津木瑠美(モンペリエ)といった控えの選手を試した。五輪予選は11日間で5試合を戦う強行日程だ。当然、レギュラーだけでは戦えない。メンバー発表会見で佐々木監督は「誰が出ても戦えるチームにする」と語っていたが、サブのメンバーとの連係面では課題が残る試合になった。

 佐々木監督は「良い部分と課題とが見えた有意義な試合だった」と試合を総括した。五輪予選は6チーム中上位2チームしか勝ち抜けない厳しい舞台だ。なでしこジャパンは22日から岡山で6日間の直前合宿を行う。この試合でみせた対照的な前後半の出来は、合宿でのテーマを明確にし、チームを引き締める上では、確かに「有意義」と言えるかもしれない。

 世界女王として臨むアジア最終予選で、日本は9月1日のタイを皮切りに、韓国(3日)、オーストラリア(5日)、北朝鮮(8日)、中国(11日)の順で総当りのリーグ戦に臨む。