MLBを代表するライバル同士、ヤンキースとレッドソックスが今季もアメリカン・リーグ東地区で熱い首位争いを演じている。
 両チームともに日本人選手は不在となったが、その強さと米国内での注目度の高さは変わらぬまま。8月18日のゲームが終わった時点で、ヤンキースが75勝47敗、レッドソックスは75勝48敗とリーグ1、2位の成績を残しているのだ。
(写真:テリー・フランコーナ監督の手腕もヤンキース打倒へのポイントのひとつか)
 開幕前は先発ローテーションに不安が囁かれたヤンキースだが、フタを開けてみればイバン・ノバ(12勝4敗、防御率4.21)、バートロ・コロン(8勝7敗、同3.54)、フレディ・ガルシア(10勝7敗、同3.16)らが予想外の好投を継続。さらに今季もサイ・ヤング賞候補となっているCC.サバシア(17勝7敗、同2.96)、衰えの見られない抑えの切り札マリアーノ・リベラ(32セーブ、同2.30)を軸に、結局はチーム防御率リーグ2位(3.57)と好結果を残してきている。

 打線では、これまで主軸を担ってきたアレックス・ロドリゲス、デレック・ジーターの存在感こそやや薄れたが、ロビンソン・カノー(打率.305、21本塁打)、カーティス・グランダーソン(34本塁打、95打点)が新たな看板に就任。メジャー1位の本塁打数(163本)が示す通り、得点力は例年通り高い。

 一方のレッドソックスも、今年は打線の力強さがトレードマークとなりつつある。中でもジャコビー・エルスベリー(打率.313、22本塁打、33盗塁)、ダスティン・ペドロイア(打率.309、16本塁打、24盗塁)、エイドリアン・ゴンザレス(打率.343、18本塁打、92打点)と続く1、2、3番は、すべて今季のリーグMVP候補。最近は「この3人は史上最高の1〜3番トリオなのではないか」といった記者たちからの質問がテリー・フランコーナ監督に盛んに飛んだほどだった。加えてデビッド・オルティース、ケビン・ユーキリス、カール・クロフォードらが続く。ラインナップのバランスの良さではヤンキース以上だろう。

 投手陣は松坂大輔、クレイ・バックホルツが故障離脱し、先発ローテーションは意外にもヤンキースより駒不足になってしまった。しかしジョシュ・ベケット(10勝5敗、防御率2.46)、ジョン・レスター(12勝6敗、防御率3.22)という左右エースが確立されているだけに、例えばプレーオフのような短期決戦ではレッドソックスは有利だと言ってよい。
(写真:レッドソックスのジョン・ヘンリー・オーナーも再び勝利の葉巻が吸える日を楽しみに待っているはずだ)

 こうして主力の名前を並べてみれば、この両チームが今季もビッグネーム揃いのパワーハウスではあることは一目瞭然。層の厚さで群を抜く両雄の対決は、ほとんどオールスターゲーム顔負けの華やかな舞台となる。
 今夏、ここまでのハイライトとなったのが、8月5〜7日にボストンで行なわれた直接対決3連戦だった。特にその第3戦は延長戦にもつれ込み、まるでプレーオフのような総力戦を展開。結果はリベラを相手に9回裏に同点に追いついたレッドソックスが、10回に急きょマウンドに上がったフィル・ヒューズをも打ち崩して3−2でサヨナラ勝ちを飾っている。

 それはまるであの伝説的な2004年のアメリカンリーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(注/3連敗後の4連勝でレッドソックスが宿敵を撃破し、余勢を駆って86年ぶりの頂点へ)を彷彿とさせるような大激戦だった。ESPNが放送したこの試合は、同局のMLB中継としては2007年以来最高の視聴率を記録。まだ佳境とは言えない8月のゲームが好数字をマークするのは珍しく、この2強へのファンの関心の高さが改めて証明される形となった。

 このシリーズ後、「スポーツ・イラストレイテッド」誌のトム・バードゥッチ記者は「ヤンキース、レッドソックスにフィリーズまで含めた3チームが今季MLBの3強だ」と記述。実際に勝敗だけでなく総得失点差でもヤンキース、フィリーズ、レッドソックスがトップ3を形成しているだけに、その言葉には説得力がある。ベテラン記者の見方を信じるなら、今季のア・リーグの覇権はやはりヤンキースとレッドソックスの間で争われることになると考えるのが妥当なのだろう。

 もちろんジャイアンツがフィリーズを、レンジャーズがヤンキースをそれぞれ下してワールドシリーズに進出した昨季が示した通り、シーズン中に強さを誇示したチームが必ずしもプレーオフでも突っ走るわけではない。
それに今季のア・リーグの層は決して薄くない。トレード期限を前にした補強以降は絶好調のレンジャーズ(8月7〜17日までの10戦中9勝)、ジャスティン・バーランダー(18勝5敗、防御率2.31)という大エースを擁するタイガースなどは怖い存在である。特にプレーオフでは何が起こっても不思議はないことは、ベースボールの歴史で何度も証明されている。

 ただ……それでも今季ここまでの展開を見てきて、やはりポストシーズンの舞台では、久々に球界を代表するライバル同士の激突を見たいと思っているベースボールファンは多いはずだ。
 もし秋の再対決が実現した場合、楽しみな見どころは数え切れないくらいある。ここまでレッドソックスには0勝4敗とまるで勝てないサバシアは、肝心のゲームでエースらしさを発揮できるか? ヤンキースのローテーションの中から、いったい誰が先発2番手として登用されるのか? 今季は故障に悩まされ続けてきたA・ロッドは2009年のように大舞台で暴れられるのか? 近年はややプレーオフでも存在感のないジーターはかつての神通力を取り戻せるのか?
(写真:現在、戦線離脱中のアレックス・ロドリゲスがどんな体調で戻ってくるかも注目点の1つ)

 レッドソックスの方では、マーリンズ時代の2003年、ワールドシリーズでヤンキースを完璧に封じ込めたベケットがその歴史を繰り返せるか? 左腕不足が取沙汰されるヤンキース投手陣相手に、オルティースは再び猛威を振るうのか? 2006年以来2度目のポストシーズン出場となるゴンザレスは注目のシリーズでも力を出せるか?

 先述した2004年以降では初めてとなる2つのスーパーチームのプレーオフでの対決を、全米のファンが待ち受けている。近年で最も役者が揃ったマッチアップはアメリカ中の話題を独占するに違いない。フィールド内外で話題豊富なだけに、驚異的なテレビ視聴率を叩きだすことにもなるだろう。そしてゲーム内容も、歴史に刻まれるような激闘が期待できるのではないか。
(写真:ヨギ・ベラらの時代から続く伝統のカードの歴史に新たな1ページが加わるのだろうか)

もちろん、まだ何が起こるかは分からない。それがベースボールである。だが今季の両チームの充実ぶりを見る限り、ファン、関係者、テレビ局のすべてが待ち望む決戦実現の可能性は、かなり高いようにも思えてくるのである。



杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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