ブラジルW杯アジア3次予選が2日、スタートし、日本代表(FIFAランキング15位)はグループCの初戦で北朝鮮代表(同114位)と埼玉スタジアムで対戦した。日本は前半からチャンスをつくるものの、相手の必死の守りにゴールが奪えない。このままスコアレスドローかと思われた後半ロスタイム、CKから最後は吉田麻也(VVVフェンロ)が頭で押し込み、1−0で劇的勝利を収めた。

 終了間際のゴール! 6年前の対戦蘇る(埼玉)
日本代表 1−0 北朝鮮代表
【得点】
[日] 吉田麻也(90+4分)
 引いて守る相手に苦しんだ試合だった。それは過去のW杯予選で何度も目にした日本代表の姿だ。それでもザッケローニ監督は「我慢しながらタイミングを待ち、途中出場の選手もすぐに良いプレーを見せた。団結力があるチームでないとここまではできない」と勝ち点3を取りこぼさなかったチームを評価した。

 この試合、注目されたのは、右膝半月板を損傷して離脱した本田圭佑(CSKA)に代わってトップ下に誰が入るのか。そして、北朝鮮のエースであるチョン・テセ(ボーフム)をどう抑えるかだった。

 本田の代役に指名されたのは柏木陽介(浦和)だ。大勝した8月10日の韓国戦で本田が見せたように、中で起点を作り、相手に脅威を与えるプレーが求められた。

 試合は日本がボールを支配するかたちで進行していった。しかし、中盤に人数を集め、かつコンパクトな北朝鮮の守りに柏木は中でパスをなかなか受けられない。柏木のみならず、中でボールを受ける選手には、相手が速く激しく体を寄せてくるため、日本は徐々にサイドからの攻撃を増やし、局面の打開を図った。

 前半最大の決定機は32分、中央で思うようにプレーできない柏木がサイドに流れたことで訪れた。右サイドでボールを受けた柏木がコントロールして前線を確認、左足でアーリークロスをゴール前に入れる。これに、DFラインを抜け出した李忠成がヘディングで合わせるが、シュートはGKの正面を突いた。結局、日本は前半を通して主導権を握ったものの、ゴールを奪うことができず、スコアレスで後半に臨むことになった。

 後半に入っても圧倒的に日本が支配率で北朝鮮を上回る状況は続く。それでも、フィニッシュのところで精度を欠き、得点シーンは訪れない。ザッケローニ監督は後半15分、柏木に代えて代表2試合目となる清武弘嗣(C大阪)、さらに後半25分には代表初選出のハーフナー・マイク(甲府)を投入し、攻撃を活性化しようと試みる。これが功を奏し、日本には決定的な機会が何度も訪れた。だが後半29分に、ハーフナーが長谷部誠(ヴォルフスブルク)からのパスを受け、右足を振り抜いたシュートもクロスバーを直撃。またも得点には至らなかった。

 こうも点が取れないと守りに影響が出そうだが、日本の守備は相手にチャンスをほとんど与えなかった。北朝鮮の中心選手であるチョン・テセには、簡単にボールを受けさせず、試合後「チャンスがないに等しかった」とテセ本人も認めるほどだった。
 特に効いていたのは吉田麻也(VVVフェンロ)の存在だ。「北朝鮮はテセさん頼みなので、そこを抑えれば問題ないと思っていた」。前半43分にはセンターサークル付近でパスを受けようとしたテセを、後ろから体を寄せて吹き飛ばすなど、激しいコンタクトでピンチを未然に防いだ。

 そして守備で貢献していた吉田が、スコアレスドローの雰囲気が漂い始めていたスタジアムを一変させる。0−0で時計は90分を経過し、ロスタイムは5分。日本はロスタイムだけでも日本は3本のCKを得るが、相手GKの好セーブもあり、ゴールをこじ開けられない。そしてロスタイムも残り1分、4本目のCKは変化をつけたショートコーナー。これを受けた清武がゴール前にクロスを上げる。弧を描いたその先でドンピシャリのタイミングで合わせたのが吉田だった。

「(ゴール前で)立て続きで決定機があって、相手の対応もずれてきていたので、チャンスがあると思った」
 189cmの長身が頭を出すと、それまで必死の防戦をみせていた北朝鮮の選手もさすがについてこられなかった。待ちに待った値千金のゴール。台風が接近する中、詰めかけた54624人の大観衆が最後の最後で喜びを爆発させた。勝ち点1が勝ち点3に変わった瞬間だった。

「北朝鮮の組織的で気持ちの入った戦い方に、我慢と冷静さを求められた」と試合後のザッケローニ監督は率直に苦戦を認めた。
「66%のボールキープ率で、シュートも20本打った。しかし、プレーの精度とスピードに問題があり、このような結果になった」
 指揮官がそう課題を指摘すると、キャプテンの長谷部は「キレイなサッカーだけをするのではなくて、時には強引にやる必要もある」とチームにガムシャラさを求めた。

「非常に苦しい試合だったが、いい意味で次につながる。今日勝つか負けるかでは精神的にも違いがあったと思う」
 本田や長友佑都(インテル)らをケガで欠き、不安もあった。それだけに長谷部も勝利の大きさを感じている。アジア予選は、どれひとつとして楽な試合はない。どんなに苦しい展開でも勝てるチームが世界でも勝てるチームだ。日本は中3日で、ウズベキスタンに渡り、アウェーでの戦いに臨む。

<日本代表出場メンバー>

GK
川島永嗣
DF
駒野友一
今野泰幸
内田篤人
吉田麻也
MF
遠藤保仁
長谷部誠
柏木陽介
→清武弘嗣(60分)
FW
李忠成
→ハーフナー・マイク(70分)
岡崎慎司
香川真司