今年もまたバスケットの季節が到来だ。8日、bjリーグ2011−2012シーズンが7年目の開幕を迎える。3月11日に起きた東北大震災の影響で東京アパッチが活動を休止するも、新たに岩手、信州、千葉、横浜が加わり、19チームによる熱戦が全国で繰り広げられる。ヘッドコーチ、選手が激しく入れ替わる中、果たして最後にチャンピオントロフィーを掲げるのはどのチームか。今季の展望と注目チームおよび選手について河内敏光コミッショナーに訊いた。
 日本人、外国人ともに充実した新潟

 イースタン・カンファレンスはここ3年間、浜松・東三河フェニックスが中心となっていましたが、今季はおそらく全く違う展開となることでしょう。まずメンバーを見る限りにおいて、頭一つ抜けているのが新潟アルビレックスBBです。
 強さの最たる要因は、大分ヒートデビルズからSG佐藤公威が戻ってきたことで、層が厚くなったことが挙げられます。新潟の“顔”といえば、やはりSF池田雄一です。しかし、池田がいつも調子がいいとは限りません。だからこそ、佐藤の存在が大きいのです。佐藤は運動能力が高く、スリーポイントも狙うことができる選手です。さらに自らドライブしてインサイドに切りこみ、シュートを打つこともできますし、そこでファウルを得られれば、確実にフリースローを決めてきます。相手にとっては本当に嫌な選手ですね。外国籍選手にはbjリーグを知り尽くしているPGナイル・マーリーとCクリス・ホルムが加入しました。やはりバスケットというのは、ガードとセンターが安定しているチームは強い。実際、新潟はプレシーズンゲームでも無敗を誇っています。現在のところ、イースタンでは優勝候補の筆頭に挙げていいと思います。

 その新潟に続くのが埼玉ブロンコスです。今季新しく就任したディーン・マーレイはNBADLでのアシスタントコーチや中国、韓国でのコーチ経験があります。ですから、「どういうバスケットをやれば、最後、プレイオフに進出できるのか」というところをうまく見極めながらチームづくりをしてくることでしょう。
 また、外国人選手には優秀なPGであるケニー・サターフィールドがいます。彼は1年間しかbjリーグにいませんが、震災の影響で埼玉が活動休止してからは大阪エヴェッサに移ってウエスタンのバスケットを経験しました。わずか1年で両地区のバスケットを知ったうえに、大阪では優勝争い、プレイオフも経験したのです。これが2年目の今季にいかされて、さらに司令塔としてのプレイに磨きがかかるのではないかと思うのです。

“ヘリコプター”ことGジョン・ハンフリーも加入しましたから、埼玉のチームカラーは一気に明るくなることでしょう。そして彼がスターターではなく、“シックスマン”の役割を担うようなチーム状況であれば、埼玉は優勝争いに食い込むこと間違いなし。日本人選手も既存のSG北向由樹、SF/PF寺下太基は実績がある選手ですし、今季加入した牧ダレン聡もフィジカルの強い頼れるPG。チームとしてうまくピースがあてはまり、バランスがいいという印象を受けます。1年目から参戦しているチームとしては唯一、プレイオフに進出していない埼玉ですが、今季こそは、きっとやってくれることでしょう。

 そして仙台89ERSには被災地に元気と勇気を与えられるような戦いをぜひしてもらいたいですね。キーポイントは今季2代目指揮官に就任したロバート・ピアスのバスケットをいかに早く理解し、これまでのバスケットと融合させることができるか。これまでの仙台の攻撃はパスでつなぐパッシングゲームを軸に展開していました。しかし、ピアスはスクリーン攻撃やセットプレーを重視したバスケットをしてきます。ですから、大量得点を挙げて大差で勝つというよりは、接戦を確実にモノにするというスタイルのバスケットへと変わることでしょう。

 だからといって、これまでやってきたものを全て捨てる必要はありません。メンバーを見ると、外国人選手は全員、bjリーグ未経験者ということもあり、PG/SG高橋憲一、PG日下光、PG志村雄彦の日本人選手が中心となることでしょう。“浜口イズム”そのままのプレイをしてきた彼らが、ピアスのバスケットを理解し、実践しながら、なおかつこれまで積み上げてきたものを融合させることができるか。これができれば、引き出しの多い手強いチームに変身することができるでしょう。

 太田を見れば、日本のバスケがわかる!

(写真:日本代表でもある太田。外国人選手とのマッチアップがみどころだ)
 昨季、連覇を果たした浜松ですが、知将・中村和雄ヘッドコーチが秋田ノーザンハピネッツへと移りました。これまで個人の力ではなく、チームの力で勝ってきた浜松ですから、その統率者である中村ヘッドコーチが抜けたというのはあまりにも大きい。新指揮官に就任した河合竜児ヘッドコーチは中村ヘッドコーチの下でアシスタントコーチをしてきた人物ですから、スタイルとしてはそう変わることはないと思います。とはいえ、1年目のヘッドコーチが中村ヘッドコーチと同じことができるかと言うと、決してそうではないはずです。ですから、河合ヘッドコーチの方針がチームに浸透するには結構、時間がかかるかもしれませんね。

 そこでキーマンとなるのが、206センチの大型センターである太田敦也です。彼は今や日本を代表するセンターへと成長しました。太田は外国人にも決して当たり負けはしません。彼が相手チームの外国人とマッチアップすれば、浜松の外国人は相手チームの日本人選手とマッチアップするというミスマッチが起こり得るわけです。そうすれば、浜松は攻守ともに有利になるわけです。
 それだけ太田の存在は大きい。逆に言えば、恩師の中村ヘッドコーチと離れた今季こそ、彼の実力の真価が問われると言っていいかもしれません。新米のヘッドコーチを援護して、チームを牽引することができれば、浜松も一気に優勝候補の一つに挙げられることでしょう。そして、太田はこれから日本を背負っていくプレーヤーであることは間違いありませんから、彼のプレイそのものが日本のバスケットであるわけです。ぜひ、彼のプレイに注目してほしいですね。

 その浜松を2年連続でリーグチャンピオンに育て上げた中村ヘッドコーチは今季、秋田の指揮官に就任しました。とはいえ、秋田がすぐに浜松のような強さをもてるかというと、そう簡単なことではありません。それを感じてのことなのでしょう。中村ヘッドコーチは2008−09シーズンに浜松の中心選手として活躍したGマイケル・ガーデナーを呼びました。自分のバスケットを知っている選手を一人でもチームに置きたかったのでしょう。
(写真:浜松で連覇を果たした中村HC。地元・秋田でどんなチームをつくるのかが注目されている)

 しかし、ガーデナーのチームになってもいけないということは、優勝できなかった08−09シーズンが物語っています。そこでカギとなるのはPG長谷川誠、SF庄司和広といったベテランの日本人選手。彼らが“中村バスケット”を理解して実践すれば、あとは若い選手は自ずとついていきます。そうすればチームの輪も出てくる。逆に彼らがケガなどでチームを離れてしまうと、秋田にとっては痛い。それこそガーデナー中心のチームにならざるを得ません。長谷川、庄司がシーズンを通してチームに貢献できるか。今季の秋田はここにかかっています。

 イースタンには今季、4チームが加わりました。岩手ビッグブルズ、信州ブレイブウォリアーズ、千葉ジェッツ、横浜ビー・コルセアーズです。正直、この4チームがどんな戦いを見せてくれるのかは未知数。開幕ダッシュに成功したチームはもしかしたら一気に勢いに乗ってしまうかもしれません。開幕後、10試合を終えた時に、どれくらいの成績を収めているのか、これが今季を占う一つの指針となることでしょう。
 4チームの中で注目したいのは横浜です。JBLから移籍してきたG山田謙治、SF/PF堀田剛司、SG蒲谷正之が外国人とのマッチアップが多く、タフなbjのバスケットに対してどう対応できるか。それこそポテンシャルの高い選手ばかりですから、ハマれば一気に浮上してくる可能性もあります。

 大阪、沖縄、島根の3強か!?

 ウエスタンは今季もやはり優勝候補の筆頭に挙げられるのは、大阪エヴェッサと琉球ゴールデンキングス(沖縄)でしょう。大阪にはbjリーグを代表とするPGの青木康平が加入し、さらにSG小渕雅がケガから復帰しました。エースのSF/PFリン・ワシントンも健在ですから、チーム力は昨季よりもアップしています。注目どころは指揮官として2年目のライアン・ブラックウェルヘッドコーチが青木をスターターとして使うのか、それとも東京アパッチ時代のように“シックスマン”としての役割を与えるのかという点。いずれにせよ、今季も優勝候補の一つであることは間違いありません。

 一方、沖縄はヘッドコーチも選手もほぼ昨季のままですから、どっしりとした安定感がありますね。ここに新人のG並里成がどうからんでくるかが楽しみです。昨季、沖縄が優勝できなかった敗因はセンターの弱さにありました。相手がマンツーマンではなく、ゾーンをしいた時に攻撃しきれなかったのです。ですから、バリエーションに富んだゾーンをしかけてきた浜松に対して突破口を開くことができず、優勝を逃してしまいました。

(写真:沖縄で2年目を迎える小菅。昨季以上の活躍が期待されている)
 しかし、今季は浜松からC/Fジャーフロー・ラーカイを獲得したことで、その不安要素も解消されるはずです。現在はケガで戦線離脱しているFデイビッド・パルマ―も開幕には間に合うと思いますし、何といっても一昨年に優勝した時の立役者の一人、PG/SG金城茂之が完全復活。そこにPG与那嶺翼、昨季移籍してチームにピタリとハマッたSG小菅直人……。これまでで最も充実した戦力となっていますから、今季の沖縄の戦いは見応え十分です。

 この2チームに割り込んできそうなのが、島根スサノオマジックです。SG山本エドワードやSG薮内幸樹といったガード陣が成長していることに加え、3季連続で得点王に輝いたFマイケル・パーカーの加入で一気に得点力がアップしました。なおかつジェリコ・パブリセヴィッチヘッドコーチはディフェンシブなバスケットをしてきますから、攻守がうまくかみあえば、接戦をモノにする確率が増えてくるでしょう。


 ウエスタンでの浜口バスケはいかに!?

 ここに台風の目として出てきそうなのが、ライジング福岡です。PG/SG仲西淳、PG竹野明倫と日本人ガードコンビは強力。そこに昨季リバウンド王を獲得したPFゲイリー・ハミルトン、それに準優勝の沖縄からはFカルロス・ディクソンが加入しました。ディクソンは沖縄ではFアンソニー・マクヘンリーとポジションが重なり、なかなか出場機会に恵まれなかっただけに、ウズウズしているはずです。ですから、今季はかなりの活躍が期待されます。ディクソンがパーカーの穴を埋めるほどの得点力を発揮すれば、福岡は優勝候補を脅かす存在となることでしょう。

 昨季、初めてプレイオフに進出した滋賀レイクスターズは昨季覇者の浜松からFレイ・ニクソンを獲得し、さらにFジョシュ・ペッパーズ、Cジュリアス・アシュビーとbjリーグで実績を残している外国人選手が揃っています。さらにSF/PF波多野和也も加入し、「これは優勝候補に躍り出てくるかな」と期待していました。ところが、その波多野がケガをしてしまった。非常に残念でなりません。その波多野の穴を埋められるのは、やはりSG岡田優でしょう。彼が1試合平均15得点、スリーポイントも4割以上の確率で入れることができると、滋賀の上位進出も見えてきます。

 京都は6季、仙台89ERSを率いた浜口炎ヘッドコーチが就任しました。メンバーとしてはいい選手が揃っていますが、外国人選手が全員、bjリーグ未経験ということがどう響くかが気がかりですね。それだけに“浜口イズム”を浸透させるには多少の時間を要することでしょう。ですから、開幕ダッシュを狙うのではなく、後半に向けて徐々にエンジンをかけてくるのではないでしょうか。そのためにも前半はなんとか食らいついていきたいところ。連勝できなくても、1勝1敗ペースでいけば後半、台風の目となるチャンスは十分にあります。

 そのほか、PG澤岻直人が加入した大分ヒートデビルズもあなどれません。これまでの大分はPGマット・ロティックが中心で、最後は必ず彼にボールがいくという攻撃パターンができあがっていました。ですから、他チームは彼さえ抑えておけば、何とかなったのです。しかし、今季は澤岻が入ったことで、大分の攻撃の引き出しは増えるはず。澤岻、ロティックの2人がどれだけ高確率に得点を挙げることができるかにかかってきます。

 イースタンもウエスタンも今季は移籍した選手がたくさんいます。その中にはこれまでなかなか出場機会を与えられなかったり、チームの戦力としてうまくあてはまらなかった選手もいます。そういう選手が新天地で開花する姿を今季は数多く見られるのではないかと期待しています。いずれにせよ、19チームで争われる今季は見どころ満載。より激しさとエンターテインメント性がアップしたbjリーグを、どうぞお楽しみください!

河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。bjリーグコミッショナー。中学からバスケットボールを始め、京北高では全国ベスト4に進出。明治大時代には全日本学生選手権3連覇を達成した。卒業後、三井生命で約10年間プレーし、日本代表としても活躍した。現役引退後、三井生命監督に就任し、実業団選手権優勝、天皇杯準優勝に導いた。94年からは全日本男子監督を務め、2000年に新潟アルビレックスの運営会社社長に就任。04年にはbjリーグを立ち上げ、完全プロ化を実現させた。

(構成/斎藤寿子)