9日、第90回全国高校サッカー選手権大会決勝が東京・国立競技場で行われ、市立船橋(千葉)が延長戦の末、2−1で四日市中央工業(三重)を下し、第81回大会以来、5度目の優勝を飾った。得点王には7得点をあげた浅野拓磨(四中工)が輝いた。

  キャプテン・和泉、日本一導く2ゴール!(国立)
市立船橋 2−1 四日市中央工業
【得点】
[市]  和泉竜司(90分+1、105分)
[四]  浅野拓磨(1分)
 伝統校同士の決勝ならではの熱戦だった。そのなかで輝きを放ったのは、市立船橋のキャプテン・FW和泉竜司だ。背番号10が決めた2得点は土壇場でチームを救い、そして頂点へ導いた。

 キックオフ直後から試合は動いた。市立船橋は先制点を奪われる。右CKからゴール前で混戦となり、今大会トップの6得点をあげているFW浅野に押し込まれた。「立ち上がりの失点で少し構えてしまい、前からボールを奪いにいく姿勢を取れなかった」と朝岡隆蔵監督が振り返ったように、いきなりビハインドを負った市立船橋は、2トップの和泉とFW岩渕諒にロングボールを送って攻撃を組み立てようとする。しかし、ロングボールの精度が低く、出足の遅さもあって、こぼれたボールを拾えない。チャンスをつくりだすことができず、四日市中央に主導権を握られたまま前半を折り返した。

「選手たちの気持ちも強かったし、ハーフタイムに修正して前から(ボールを)奪う姿勢を示してゴールに迫るようになった」
 朝岡監督の指示もあり、市立船橋は後半に入るとチームが変わったようにゲームを支配する。まずは運動量の落ち始めた四日市中央に対して前線からのプレスを強め、相手のサイド攻撃を封じた。さらにロングボール主体からパスをつないで人数をかけ、厚みのある攻撃を見せ始める。

 しかし、ゴール前を固める四日市中央の守りをなかなかこじ開けることはできない。後半29分にはPA手前でパスを受けた岩渕が右足でシュートを放つも、わずかにゴール左下に外れた。スコアが動かないまま時間だけが過ぎ、後半も45分を経過。国立競技場の電光掲示板にロスタイムが2分と表示された。

 劇的な同点ゴールが生まれたのはその直後だ。右からのCKがゴール前で混戦となる。これを押し込んだのは主将の和泉だった。土壇場での同点劇に満員の国立競技場が揺れる。「選手たちの強い気持ちが突き動かしたというか、運を呼び寄せたプレーだった」と朝岡監督も讃えるゴールで、試合は10分ハーフの延長戦に突入した。

「延長に持ち込めば、自分たちの運動量と選手層で相手に勝ると思っていた」
 和泉が試合後に語ったように、延長は追いついた強みもあり、市立船橋が一層、試合を支配する。後半以上に前線からのプレスを強め、四日市中央を押し込んだ。
 そして延長後半5分、ついに待望の逆転ゴールが生まれる。決めたのはまたも和泉だ。PA内左でMF宇都宮勇士からのスルーパスに抜け出すと、左足で切り返してDFをかわし、右足を振り抜く。ボールはGKの伸ばした手を弾いてゴール左上へ突き刺さった。「パスを受けた時点でシュートまでのイメージが完璧だった」と本人も自画自賛するスーパーゴール。聖地・国立を再び沸かした。

 四日市中央も最後まで反撃を見せたが、市立船橋はチーム全体で守り抜き、試合終了のホイッスル。と同時に全力を出し切った両チームの選手たちはピッチに倒れ込んだ。激戦を象徴するシーンにスタンドからは大きな拍手が送られた。

 朝岡監督は市立船橋の指揮を執って1年目。同校OBで17年前に北嶋秀朗(柏)らと初優勝した時のメンバーだ。それだけに名門復活を成し遂げた教え子たちに賛辞を惜しまなかった。
「選手たちも優勝を求めていたし、私も優勝させたいと心の底から思っていたので、表彰式でスタンドに登っていく選手たちの後ろ姿を見たときに、これは夢なんじゃないかと思った。大変なことを達成したと思うし、だからこそ、選手たちに胸を打たれた。うれしく思っている」

 1年でチームはどこが変わったのか。朝岡監督は精神面の変化をあげた。
「ピッチ上での甘さ、言い訳、逃げなど、最近の若い選手はそういうものがありがちだと言われる中で、選手たちはそれを自分の問題として捉え、自分の人格、性格を変えていくという作業にアプローチし、それらを頭の中から取り払った」
 キャプテンの和泉も「このチームは、みんなが強い意志を持って、最後まで諦めない。人間的にも本当にいいチームだと思う」とメンタルの強さをチームの長所だと考えている。

「自分たちのチームで(市立船橋の)新しい歴史をつくろうと話していた。新しい歴史をつくったと思う」
 初戦の長崎日大戦でも2ゴールを決めるなど、優勝の立役者となった和泉はそう胸を張った。名門の第2章がここからスタートする。