キリンチャレンジカップ2012が1日、ユアテックスタジアム仙台で行われ、女子日本代表は女子米国代表と対戦した。日本は前半32分、DF近賀ゆかり(INAC神戸)のゴールで先制。しかし、後半27分、FWアレックス・モーガンに同点ゴールを奪われる。その後は日本、米国ともに得点は生まれず、1−1の引き分けに終わった。日本の次戦は5日(ホームズスタジアム)、女子ブラジル代表と対戦する。

 近賀、2年ぶり代表ゴール(ユアスタ)
日本代表 1−1 米国代表
【得点】
[日] 近賀ゆかり(32分)
[米] アレックス・モーガン(72分)
 90分で初勝利を収めたアルガルベ杯から1カ月。五輪前で最後になるであろう最大のライバルとの対決は収穫と課題が見られた試合だった。大きな収穫は裏のスペースを狙うサッカーで幾度も米国守備網を切り裂いたことだ。特に前半は日本最大の武器である細かく速いパスワークで圧倒的にボールを支配し、米国に主導権を渡さなかった。

 前半11分には右サイドでボールを受けた近賀が、PA内右にロングパス。大野が抜け出すが、わずかにパスが長く、相手GKに抑えられる。22分には、左サイドでボールをキープしたFW永里優季(ポツダム)からMF宮間あや(岡山湯郷)、FW川澄奈穂美(INAC神戸)、そして再び宮間とつなぎ、PA内左からクロスを入れるがDFにクリアされた。

 これまで日本の攻撃は、ボールポゼッションを高め、サイドから崩すパターンが多かった。だが、米国やドイツなど身長が高いDFを揃える相手には、クロスを上げても簡単に跳ね返される。この試合は、従来のスタイルに加え、中盤でボールを持つと、永里や川澄を筆頭に米国DFラインの裏に抜け出す動きが徹底されていた。米国は、横ではなく、縦へどんどん仕掛けのパスを繰り出す日本の勢いに、防戦一方となる。

 迎えた32分、日本の裏をとるサッカーから先制点が生まれる。決めたのは近賀だ。右サイドから、PA手前の川澄へボールを預けると、そこからスピードを上げ、PA内右に走り込む。川澄から浮き球のパスを受け、ゴール前にグラウンダーのクロス。合わせた永里が放ったシュートをGKが弾いたのを逃さず、左足で押し込んだ。サイドからの攻撃に、裏を狙う新たなスタイルが組み合わさったゴールに、佐々木則夫監督は両手でガッツポーズをつくった。

 先制後も日本は川澄が積極的に裏へ走り込み、米国守備陣を脅かす。また、前線から激しいプレスをかけ、米国のパスミスを誘うなど、前半は完全に主導権を握った。しかし、ハーフタイム前の41分には、ロングボールに抜け出したモーガンにPA内左からシュートを許すなど、ヒヤリとする場面もつくられる。後半に突入すると、米国が前線からプレスを強め、日本は徐々に押し込まれ始めた。モーガンやFWアビー・ワンバックにロングボールを入れられ、セカンドボールを拾われる展開が増えてくる。

 そして何より課題として浮かび上がったのは自陣でパスミスを連発したことだ。後半26分には、MF田中明日菜(INAC神戸)がPA手前でバックパスをしようとしたボールをモーガンに奪われる。モーガンからパスを受けたMFカーリ・ロイドのシュートはGKの正面をついたものの、試合の流れは米国に傾き始めた。

 そんな27分、ついに同点弾を奪われる。ロイドがPA手前でキープしていたボールを田中がスライディングして奪おうとするが、こぼれ球がDFラインの裏へ流れる。これに反応して抜け出したモーガンが左足でゴールに流し込んだ。1度は副審がフラッグを上げ、オフサイドと判定したものの、主審との協議の末、ゴールが認められた。日本にとっては不運なかたちで、試合は振り出しに戻る。

 さらに攻勢を強める米国に対し、日本は前線での競り合いに人数をかけ、ワンバックやモーガンに自由に仕事をさせない。そして、前半同様、米国DFラインの裏を狙い、チャンスをつくろうと試みる。だが、体を張って守る米国守備陣に跳ね返され、決定機が巡ってこない。44分には、左CKからのこぼれ球を川澄がPA手前から狙うが、枠をとらえ切れなかった。結局、昨夏のW杯以来、この1年で3試合目となった宿敵との対戦は、通算5度目のドロー(※W杯決勝のPK戦は引き分け扱い)となった。

「前半に関してはいい試合ができたけど、五輪でメダルを取るには後半の質の部分を上げていかないと厳しい」
 キャプテンの宮間が試合後に語ったように、日本は前半、これまでにないほど米国を圧倒できていた。特に、裏へのボールで相手を崩す新たな攻撃のオプションが試せた点は一番の収穫だ。佐々木監督が「価値あるドロー」と話したのはその点を評価してのことだろう。五輪では対戦する各国が日本のパスワークを警戒し、ラインを高く保ち、中盤をコンパクトにしてくることが予想される。その際、相手の裏のスペースを突ければ、状況は打開できる。

 一方で宮間の言うように、苦しい後半の時間帯にミスで主導権を手放し、「質」の部分では反省すべき点もあった。5日に対戦するブラジル代表は、高い個人技を駆使するスタイルだ。フィジカルの強さを前面に出す米国とはまた異なる「個」のサッカーに対し、日本がこの日の収穫と課題を踏まえ、どのように「組織」で対応するのかがポイントとなる。