2日、日本サッカー協会(JFA)はロンドン五輪に臨むU-23日本代表と日本女子代表(なでしこジャパン)のメンバーを発表した。U-23代表には、国内組からGK権田修一(F東京)やFW永井謙佑(名古屋)らを選出。海外組では今夏に移籍したMF清武弘嗣(ニュルンベルク)、MF宇佐美貴史(ホッフェンハイム)らが選ばれた。オーバーエイジ(OA)枠はDF徳永悠平(F東京)、DF吉田麻也(VVV)の2名が本登録メンバー18人の中に入り、GK林彰洋(清水)はバックアップメンバーとして選出された。
 なでしこジャパンでは、MF宮間あや(岡山湯郷)やMF川澄奈穂美(INAC神戸)ら主力メンバーが順当に名を連ね、良性発作性頭位めまい症で一時、代表を離れていたMF澤穂希(INAC神戸)も選出された。澤はアトランタ大会を含め、4度目の五輪出場となる。
(写真:健闘を誓い合う関塚監督<左>と佐々木監督)
 メダル獲得を大きな目標に掲げるU−23代表選考において、最大のポイントとなったのは前線の選手だ。「組み合わせは非常に考えた」と関塚隆監督が語ったように、この年代は前線の人材が豊富だ。宇佐美やFW大津祐樹(ボルシアMG)など海外クラブに所属する選手はもちろん、清武やFW宮市亮(アーセナル)などA代表にも選出される才能が揃っている。

 永井や清武、大津、宇佐美ら予想された選手が選ばれるなか、サプライズ選出だったのはFW杉本健勇(東京?)だ。この名前が最後に指揮官から発表された時、会場にはどよめきが起きた。関塚監督が前線のカードとして最終的に選んだのは、スペイン3部リーグで20得点を挙げた指宿洋史(セビージャ・アトレティコ)でも、五輪予選8試合中7試合に出場した大迫勇也(鹿島)でもなかった。

 杉本は現在、J2の東京ヴェルディで16試合、4得点をあげている。187センチの長身を生かしたポストプレーが最大の武器だ。関塚監督は抜擢の理由に「高さとゴール前での迫力」をあげた。とはいえ身長だけで言えば、指宿が194センチと群を抜いて高い。その点は指揮官がチーム発足時からテーマとしてきた「一体感」も決め手になったのだろう。予選から代表に選ばれてきた杉本と比べ、指宿は5月のトゥーロン国際大会に招集されただけ。短期間でチームを成熟させるにあたって、関塚ジャパンのスタイルをより理解し、ターゲットマンとして味方を活かす術に長けた杉本が最後に残ったかたちだ。
(写真:五輪に向けては「やるしかない。1つでも高みを目指す」)

 高さの杉本に加え、FW陣にはそれぞれ異なるスタイルを持ち、中盤のポジションもこなせる選手が名を連ねる。圧倒的な速さを誇る永井、巧みなドリブルから局面を打開するFW齋藤学(横浜FM)、ハードワークができて万能型の大津……。そのなかで杉本は現時点ではワントップでの起用が濃厚だ。五輪までには3試合の強化マッチが組まれており、関塚監督が考えた組み合わせが、いかに機能するかが本番に向けた課題のひとつとなる。

 また、もうひとつの懸案事項だったOA枠は守りの補強に充てられた。トゥーロン国際では3試合で7失点と守備が崩壊しただけに、吉田と徳永を入れることで立て直しを図る。関塚監督はカギを握る2選手について「吉田は北京五輪に参加し、(U-23世代の選手と)年齢的にも非常に近い。後ろのポジションのリーダーになってもらいたい。徳永にはサイドバック、センターバックをこなせる選手としてDFラインを引き締めてほしい」と期待を寄せた。

 U−23代表は8日に集合し、11日にはキリンチャレンジ杯で出発前、最後の実戦(対U-23ニュージーランド代表、国立競技場)を行う。その後、英国・バーミンガムで合宿を張り、18日にU-23ベラルーシ代表、21日はU-23メキシコ代表と対戦する。本番の初戦は26日。先のEUROも制したスペインのU-23代表と激突する。

 一方、悲願の金メダルを目指すなでしこジャパンに大きなサプライズはなかった。18名全ての選手が昨夏のドイツW杯の経験者。逆に、W杯優勝メンバーではGK山郷のぞみ(浦和)、MF上尾野辺めぐみ(新潟)らが漏れた。また同じくW杯で代表だったDF宇津木瑠美(モンペリエ)は、先日のスウェーデン遠征で右ヒザ靭帯損傷を負い、メンバーから外れている。

「攻守にアクションするわれわれのサッカーを熟知し、ロンドンで力を発揮できるポテンシャルを持ったメンバー」
 会見の冒頭で佐々木則夫監督は18人の選手をこう紹介した。選考の焦点はケガを抱えている選手、または故障明けの選手をどう扱うのか。監督も「思いのほか、ケガをしている選手が多かったことが選考に当たっては難しかった」とメンバー選びに苦心したことを明かした。

 今回、代表入りした守備の要である岩清水梓と、攻撃の切り札・岩渕真奈(ともに日テレ)は、いずれも故障で6月のスウェーデン遠征を辞退した選手だ。「現状のパフォーマンスでは、まだ物足りなさはある」と指揮官が語るように、五輪にベストな状態で臨めるかどうかは未知数だ。それでも佐々木監督が2人を選んだのは彼女たちへの信頼の証である。「合流した時点では、2人ともしっかりしたパフォーマンスを見せてくれると思う。その中で日本でのキャンプでしっかりとわれわれのサッカーであり、かつ欧米への対応ができるトレーニングをしっかり積むことができるのではと考えている」と指揮官は最終調整に自信をのぞかせた。

 また、もうひとり心配なのが、突発性のめまい症で約4カ月、代表から離れていた澤だ。6月のスウェーデン戦で代表復帰したものの、ミスも目立ち、ベストパフォーマンスには程遠いプレーに終始していた。だが、長年、チームを支えた大黒柱だけに佐々木監督は全く不安視していない。「チームに戻って、1日1日コンディションを上げてもらっていると思うし、日本でのキャンプでも準備していく中で、彼女のパフォーマンスも上がってくる。そういう確信がある」と復活を断言した。

 メンバー発表後、会場に現われた澤は「18人が発表されて、本当にホッとした」と心境を明かした。スウェーデン遠征では思うようなプレーができず、本人も正直、不安だったという。しかし、「やるときにはやれると思っている。徐々にコンディションを上げて、五輪本番でぶつけられるようにしたい。親善試合も何試合かあり、感覚を取り戻す時間はある」ときっぱり前を見据えた。
(写真:「簡単な試合は1つもない」と気を引き締める)

 17歳で初出場したアトランタ五輪から16年。前回の北京ではメダルにあと一歩届かず、4位だった。
「年齢的には最後の五輪だと思っている。集大成として、結果にこだわっていきたい」
 日本女子サッカーを牽引してきた女王の目には輝く黄金のメダルしか見えていない。

 なでしこジャパンは9日に全選手が集合し、11日にキリンチャレンジ杯で五輪前の国内ラストマッチ(対オーストラリア女子代表、国立競技場)を行う。19日には仏・パリにてフランス女子代表と対戦。その後、英国・コベントリー入りし、25日にカナダ女子代表(世界ランク7位)との初戦に臨む。

<U-23日本代表18名>

GK
権田修一(FC東京)
安藤駿介(川崎フロンターレ)
DF
徳永悠平(FC東京)
吉田麻也(VVVフェンロ)
山村和也(鹿島アントラーズ)
鈴木大輔(アルビレックス新潟)
酒井宏樹(ハノーバー96)
酒井高徳(シュツットガルト)
MF
清武弘嗣(1.FCニュルンベルク)
村松大輔(清水エスパルス)
東慶悟(大宮アルディージャ)
山口螢(セレッソ大阪)
扇原貴宏(セレッソ大阪)
宇佐美貴史(ホッフェンハイム)
FW
永井謙佑(名古屋グランパス)
大津祐樹(ボルシアMG)
齋藤学(横浜F・マリノス)
杉本健勇(東京ヴェルディ)

※バックアップメンバー
GK
林彰洋(清水エスパルス)
DF
大岩一貴(ジェフユナイテッド千葉)
MF
米本拓司(FC東京)
FW
山崎亮平(ジュビロ磐田)

<日本女子代表18名>

GK
福元美穂(岡山湯郷Belle)
海堀あゆみ(INAC神戸レオネッサ)
DF
近賀ゆかり(INAC神戸レオネッサ)
矢野喬子(浦和レッズレディース)
岩清水梓(日テレ・ベレーザ)
鮫島彩(移籍手続き中)
熊谷紗希(フランクフルト)
MF
澤穂希(INAC神戸レオネッサ)
宮間あや(岡山湯郷Belle)
川澄奈穂美(INAC神戸レオネッサ)
阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)
田中明日菜(INAC神戸レオネッサ)
FW
安藤梢(デュイスブルク)
丸山桂里奈(スペランツァFC高槻)
大野忍(INAC神戸レオネッサ)
大儀見(永里)優季(トリビューネ・ポツダム)
高瀬愛実(INAC神戸レオネッサ)
岩渕真奈(日テレ・ベレーザ)

※バックアップメンバー
GK
山根恵里奈(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)
DF
有吉佐織(日テレ・ベレーザ)
MF
上尾野辺めぐみ(アルビレックス新潟レディース)
FW
大滝麻美(オリンピック・リヨン)