苦労人の活躍を見るのはうれしいものだ。大きな背番号を見ると、つい応援したくなる。
 角中勝也、背番号61。千葉ロッテの外野手。現在、ブレーク中の25歳である。
 交流戦では打率3割4分9厘で首位打者に輝いた。レギュラーシーズンの打率も目下、3割3分(6月28日現在)。27日には規定打席に達し、田中賢介(北海道日本ハム)と首位打者争いを演じている。

 この角中、独立リーグとしては日本で初めて誕生した「四国アイランドリーグPlus」の出身である。高知ファイティングドッグスで1年間プレー後、06年の大学・社会人ドラフト7巡目でロッテに入団した。
 同リーグは、これまで33人のNPBプレーヤーをドラフトで輩出しているが、1軍でバリバリ活躍している野手は彼だけ。アイランドリーグの出世頭と呼んでも差し支えあるまい。
 日本航空第二高(現・日本航空石川)からアイランドリーグに身を投じた。今でこそ選手の育成機関としても認知されつつある独立リーグだが、角中が四国に来た頃は、まだ海のものとも山のものともつかなかった。

 創設者の元オリックス監督・石毛宏典が「このリーグはNPBへの道がつながっていると同時に、失敗すればユニホームを脱がざるを得ない。はっきり道が分かれるリーグでもある」と語っていたことを思い出す。
 角中はアイランドリーグの第2期生だ。彼の成功は同リーグのみならずBCリーグや関西独立リーグでプレーする選手にも大きな希望を与えているはずだ。その意味では、まぎれもなく彼は“独立リーグの星”である。

 そんな角中の活躍には監督の西村徳文も、こう言って目を細める。
「素晴らしい仕事をしてくれている」
 西村もドラフト5位の入団である。いわば叩き上げだ。文字通り血のにじむような努力でレギュラーの座を掴み、首位打者になった。ドラフト下位入団の角中を自らの若き日に重ね合わせているのかもしれない。

 そう言えば角中を指導する打撃コーチの長嶋清幸も叩き上げだ。彼はドラフト外で広島に入り、あの山本浩二からセンターのポジションを奪い取った男である。
 その長嶋の一言が打撃開眼につながった。
「セカンドを見て打ってみろ!」
 2年前、角中は2軍でスランプにあえいでいた。出口のないトンネルを彷徨っているような心境だった。
 長嶋のアドバイスには、次のような意味が込められていた。

 角中は語る。
「結論から言うと打つ時に体が入り過ぎて差し込まれていたんです。無意識のうちに遠くへ飛ばしたいという欲が出ていた。だからピッチャーではなくセカンドの方を向いて、ちょっと体を開き気味にして打ってみた。するとタイミングが合い始めたんです……」

 目下、首位を走るロッテ。ナイター設備もなかった高知の球場から巣立った伏兵がチームを牽引している。

<この原稿は2012年7月15日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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