30日(現地時間)、柔道女子57キロ級決勝が行なわれ、五輪初出場の松本薫(フォーリーフジャパン)が今大会日本人初の金メダルを獲得した。5分間で決着がつかず、ゴールデンスコアに突入すると、相手のコリナ・カプリイオリウ(ルーマニア)が内側から軸足を刈るという反則技を犯し、松本の優勝が決定した。
 金メダル獲得に大きな期待を寄せられていた49キロ級・福見友子が3位決定戦で負けを喫し、52キロ級・中村美里は初戦敗退とメダルなしに終わり、厳しいスタートとなった柔道女子。その嫌な雰囲気を払拭させたのは、24歳、初出場の松本だった。

 普段は屈託のない笑顔がトレードマークの松本。だが、畳の上に上がると、彼女は獣と化す。鋭い目で相手をにらみつけながら、ジリジリと追いつめていく。攻めの姿勢を崩さない松本の柔道に、場内の観客が釘付けとなった。

「待て」がかかるまでは、一瞬の隙も見流さないのが松本だ。ふと力を抜いた瞬間、襲いかかってくる松本に、カプリイオリウも驚きを隠せない様子で必死に四つん這いになって防御する。さらに松本は逃げ腰のカプリイオリウに、小外掛け、大内刈りと連続技を繰り出し、得意の寝技へとつなごうとする。しかし、カプリイオリウも奥襟をつかみ、うまく対応した。

 残り1分を切ったところで、松本が最大のチャンスを迎えた。松本の執拗な攻めに尻もちをついたカプリイオリウに覆いかぶさり、縦四方固めに入る。しかし、6秒で解けてしまい、一度は入った有効のポイントも取り消されてしまった。結局、5分で決着はつかず、勝負の行方は延長戦へともつれこんだ。

 ポイントが入れば、その時点で終わるゴールデンスコア、松本は「はじめ」の合図とともに勢いよく相手に向かって行った。相手の後ろ帯を持ち上げ、強引に足技をかけにいく松本。すると、それを逆に返しにいこうと、カプリイオリウが松本の左足を持ち上げ、残った右足を掛けにいった。腹ばいになって耐える松本。その表情は「これはいいのか?」と疑問を投げかけていた。

 すると、主審が試合を中断させ、2人の副審を呼んだ。一瞬にしてうなづきあう3人。場内は何が起こったかと静まり返った。松本はその間も、右足を大きく出し、「今にも飛び出さんばかりの臨戦態勢に入っていた。副審が元の位置に戻ると、主審は一呼吸おき、カプリイオリウに反則行為を犯したことを伝えた。その瞬間、松本の優勝が決まった。すると、それまで獲物をにらみつけるような鋭い目つきをしていた松本の表情が安堵に変わり、笑顔で迎え入れた園田隆二監督の胸に顔をうずめ、嬉し涙を流した。

「勝った瞬間、自分一人の金メダルではないな、と思った。支えてきてくれた人や、48キロ級、52キロ級の選手とも一緒に頑張ってきたので、その人たちの分も頑張ろうと思った」と松本。「どこからそんな強い力が出るのか」という質問に対しては「わからないです……」とはにかんだ。こうした畳の上とのギャップの大きさが彼女の魅力でもある。五輪初出場で快挙を成し遂げた24歳が、お家芸復活の狼煙を挙げた。

<あと一歩届かず、中矢は悔しい銀メダル>

 目の前で待望の金メダル第1号誕生の瞬間を見ていたのが、男子73キロ級の中矢力(ALSOK)だ。今度は男子にも今大会初の金メダルをもたらせようと、マンスール・イサエフ(ロシア)との決勝に臨んだ。中矢に左手の釣り手を取られないように警戒心を募らせるイサエフに対し、なかなか組むことができない。すると、試合が始まって1分もしないうちに、両者に指導が出された。

 残り約3分30秒、中矢が強引に背負い投げをかけにいったところを、逆に右腕をとられ、関節技へともちこまれた。なんとかしのぎ切った中矢。その後、痛めた右腕を気にしながらも、積極的に技をしかけていくも、決めきることができない。残り1分30秒を切ったところで、すくい投げを試みるも、逆にイサエフに返され、有効を奪われてしまった。

 しかし、中矢は最後まで諦めなかった。イサエフが関節技にもちこもうとしたところをうまく返し、逆に抑え込みに入った。だが、ここも決めきることができない。残り30秒、前へ前へと突き進み、技をかけにいったが、あと一歩及ばず。悲願の金メダルには届かなかった。

「日本の代表として絶対に金メダルを獲らなくてはいけないと思ってやったが、相手の方が気持ちが強かったのか、こういう結果になってしまった。まだまだ甘いことがわかった。(初戦は)寝技で勝てたことで調子がよかったが、決勝で逆に寝技でピンチに追いやられてしまい、悪い状況をつくってしまったことが敗因となった。金メダルを持って帰るということを目標にしてきたので、銀メダルはあまり嬉しくないが、日本に帰って次にいかせるように頑張りたい」
 悔しさに耐えながら冷静にインタビューを答えた中矢。この屈辱は4年後への糧となるはずだ。